【新年浮遊~弐~】
文字数 1,152文字
祐太朗は首筋を掻きながら若干せかせかとしている。
江田駅構内にある百貨店は元日から大層な盛り上がりを見せている。祐太朗はそのイベントスペースの一角にて遠巻きにサチコのことを眺めている。
イベントスペースでは新年にちなんだハンドメイドの小物類が展示販売されていた。その種類は簡易的なキーホルダーから財布、ネックレスと多岐に渡り、その値段もピンキリとなっていた。
サチコは祐太朗に時間があるのならここら辺を案内してくれ、と頼んだのだ。祐太朗も一応は仕事中ーーというより、クライアントとの待ち合わせをしていたのだが、相手方が一向に姿を見せないため、理由をつけて場を離れるから着く前になったら連絡するようにとメッセージを送ったのだ。ちなみに返信はひとこと「わかりました」。祐太朗は息をつく間もなくサチコに腕を引っ張られ、駅構内へと引っ張られて行った、というワケだ。
サチコは本当に楽しそうにしている。色んな小物を手に取っては、あれやこれやと眺めている。祐太朗は遠目でその様子を見ながら、表情を緩ませた。
「随分と楽しそうじゃない?」
突然、誰かが祐太朗に声を掛ける。祐太朗が振り返るとそこにいたのは、背面観察の佐野めぐみだった。黒のボブに白い肌と赤いリップはよく映える。黒のライダースに胸を強調した白のチューブトップ、革のミニスカートに黒のタイツ、ロングブーツは男たちの視線を地獄の底までも惹き付けていそうだった。
「テメエか。そんな格好で寒くねえのか?」祐太朗は吐き捨てる。
「あいにく、寒さには慣れててね。ご心配ありがとう」不敵な笑みを浮かべながら佐野はいう。「そんなことより、自分が今やってること、わかってる?」
「わかってるよ。仕事を放って何してんだってことだろ? しょうがねえだろ、そもそもクライアントが現れねえんだしさ」
「だからといって、クライアントを放って昔のお友だちとデートだなんて、いいご身分だとは思わない?」
「それをいうなら、陰でおれを監視しなきゃいけない立場の人間が、おれに直接コンタクトを取ってるのも問題だとは思わねえのか?」
「あたしはアナタのことを思って指摘してあげてるだけだよ」
「へぇ、ありがたい限りだね。これをおれが上にいる誰かに密告したら、お前の首もどっかへ行っちまうぞ」
「しないくせに」
「まぁな。面倒なのは嫌いだーーあぁ!?」
祐太朗はイベントスペースをあちこち見渡す。
「どうしたの?」恨めしそうな目付きでめぐみを直視する祐太朗に、めぐみはいう。「ちょっと、直接見ないでくれる?」
「お前のお陰でアイツを見失ったよ」ハッとするめぐみをさておき、祐太朗は続けていう。「クライアントとコンタクトを取る時間も延びそうだ」
めぐみは頭を抱える。
「また隠しごとが増えるのね......」
【続く】
江田駅構内にある百貨店は元日から大層な盛り上がりを見せている。祐太朗はそのイベントスペースの一角にて遠巻きにサチコのことを眺めている。
イベントスペースでは新年にちなんだハンドメイドの小物類が展示販売されていた。その種類は簡易的なキーホルダーから財布、ネックレスと多岐に渡り、その値段もピンキリとなっていた。
サチコは祐太朗に時間があるのならここら辺を案内してくれ、と頼んだのだ。祐太朗も一応は仕事中ーーというより、クライアントとの待ち合わせをしていたのだが、相手方が一向に姿を見せないため、理由をつけて場を離れるから着く前になったら連絡するようにとメッセージを送ったのだ。ちなみに返信はひとこと「わかりました」。祐太朗は息をつく間もなくサチコに腕を引っ張られ、駅構内へと引っ張られて行った、というワケだ。
サチコは本当に楽しそうにしている。色んな小物を手に取っては、あれやこれやと眺めている。祐太朗は遠目でその様子を見ながら、表情を緩ませた。
「随分と楽しそうじゃない?」
突然、誰かが祐太朗に声を掛ける。祐太朗が振り返るとそこにいたのは、背面観察の佐野めぐみだった。黒のボブに白い肌と赤いリップはよく映える。黒のライダースに胸を強調した白のチューブトップ、革のミニスカートに黒のタイツ、ロングブーツは男たちの視線を地獄の底までも惹き付けていそうだった。
「テメエか。そんな格好で寒くねえのか?」祐太朗は吐き捨てる。
「あいにく、寒さには慣れててね。ご心配ありがとう」不敵な笑みを浮かべながら佐野はいう。「そんなことより、自分が今やってること、わかってる?」
「わかってるよ。仕事を放って何してんだってことだろ? しょうがねえだろ、そもそもクライアントが現れねえんだしさ」
「だからといって、クライアントを放って昔のお友だちとデートだなんて、いいご身分だとは思わない?」
「それをいうなら、陰でおれを監視しなきゃいけない立場の人間が、おれに直接コンタクトを取ってるのも問題だとは思わねえのか?」
「あたしはアナタのことを思って指摘してあげてるだけだよ」
「へぇ、ありがたい限りだね。これをおれが上にいる誰かに密告したら、お前の首もどっかへ行っちまうぞ」
「しないくせに」
「まぁな。面倒なのは嫌いだーーあぁ!?」
祐太朗はイベントスペースをあちこち見渡す。
「どうしたの?」恨めしそうな目付きでめぐみを直視する祐太朗に、めぐみはいう。「ちょっと、直接見ないでくれる?」
「お前のお陰でアイツを見失ったよ」ハッとするめぐみをさておき、祐太朗は続けていう。「クライアントとコンタクトを取る時間も延びそうだ」
めぐみは頭を抱える。
「また隠しごとが増えるのね......」
【続く】