【混沌のファースト・ソワレ】

文字数 2,181文字

 今日こそ書くぞ、『初舞台篇』!

 枕?ーー知らんね。あらすじは、必要か。

 あらすじーー「小屋入りした五条氏、場当たりに突入するも、自分の出番は来ず、本番前に持ち越しとなったのだった」

 はい、オッケー。では、スタートーー

 舞台初日、『ブラスト』の公演はその辺の劇団よりも公演数が少なく、二日で二公演しかやらない。そのため、ペース配分がどうとかいわずに、二公演を全力で演らなければならない。

 初日の公演は夜の七時半からだが、集合は朝の八時。何故そんなにも早く集合するのかといえば、それほどまでにやることが多いからだ。

 まず、朝から前日の場当たり稽古の続き。それが終わってゲネプロをやって大体本番直前になる。そんな感じだ。

 場当たり稽古に関しては前回説明したので、改めていうまでもないのだろうけど、一応説明しておくと、音響や照明のチェックを兼ねた芝居の稽古で、チャプターを頭からケツまで通すこともあれば、通さないことも普通にある。

 次にゲネプロだが、これは本番前に行うスタッフに向けた公演で、本番前最後の通しであり、最後のリハーサルだ。いってしまえば、ここで成功するか失敗するかで本番のモチベーションが大きく変わるワケだ。

 おれにとってはどれも初めての経験で、わからないことだらけだったが、あおいを始め、ヨシエさん、尚ちゃん、ショージさんにゆーきさん、そしてヒロキさんに話を聴きつつリハーサルをこなしていくことにした。

 場当たり。自分の出番のために中割幕のうしろに準備する。板付きーーシーンの最初から舞台に出ていることーーで立つは、おれとあおい。前のシーンの場当たりが終わるまでふたりで待つ。と、唐突に閃いた。おれはあおいに、

「もしかして、病人って、身体全体を使ってゆっくりと動けばいいんじゃねえか?」

 これにはあおいも「あぁ」と納得したようだった。

 おれがいいたかったのはどういうことか。それは、病人は腕や脚といったパーツでのみは動かないということだ。案外、人が自分のパーツを使って動けるのは、元気な時ぐらいなのだ。

 明確な理由は説明しづらいが、根っこが駄目だと枝も駄目になる。だからこそ、根っこで枝の部分を補うとそういうことだ。

 まぁ、わかりづらいか。

 でも、そういうことだ。何となく理解してくれ。無理か。そんな感じで前のシーンの場当たりが終了し、自分の出るシーンの場当たりが始まった。

 ビンゴだった。

 身体から動こうとすると、必然的にパーツの動きは遅くなる。それに、身体から動くと何となくダルそうな雰囲気を出せるのだ。

 これにはおれもしてやったといった感じだった。

 そんな感じで本番の数時間前に閃いたアイディアが案外効果的で、これで勝つるって感じだったんだけど、

 場当たりが終わらないのだ。

 終了予定の時刻になっても、場当たりの進捗具合はまだ半分程度。予定よりも大幅に遅れを取っていた。そしてーー

 結局場当たりが終了したのは、ゲネプロが終了する予定の時刻だった。

 ゲネプロができない。これには、キャストだけでなくスタッフも焦った。これまでの公演でもゲネプロをやらないことはなく、そこで最後の調整をしようと考えている人もいたからだ。

 おれもゲネプロで最後に一度リハーサルをしたかった。咄嗟に思いついたアイディアをもっと試したかった。が、それは叶わなかった。ぶっつけ本番。焦りが脳を焼く。

 舞台監督のヒロキさんに、最後の準備を終えたら舞台袖で待機するよう指示される。

 準備を終え、舞台袖へいく。袖にあるモニターでは客席の様子が映し出されていた。

 客席はほぼ埋まっていた。

 焦燥感。心臓が爆発しそうなほど鼓動を打つ。吐き気。逃げたかった。が、逃げるワケにはいかなかった。単純に周りに迷惑が掛かるというのもあるが、自分でやりたいといって始めたことを投げ出せば、今後の人生でもあらゆることを投げ出すだろう。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 おれは、パニックとかいうクソみたいな疾患に屈するのが単純にイヤだったのだ。

 おれは緊張と逃げたい気持ちを押さえつけ、袖で待った、待ったーー待ち続けた。

「竜也くん」あおいが手を差し出す。「本番はよろしくね」

 おれはあおいの手を見つめ、ぐっと握った。それから袖にいるキャスト、スタッフのみんなと握手して健闘を祈った。

 七時半を少し過ぎた時、ヒロキさんがインカムに向かって話し掛けた。

「それでは開演します」

 照明が落ち、客入れの音楽がボリュームを上げたかと思うと、少しずつフェイドアウトする。無音。導入の音楽がフェイドインする。

 始まったーー始まってしまった。

 緊張と恐怖を圧し殺し、袖からキャストの芝居を眺める。みんな素晴らしい演技だ。この雰囲気を壊してはならない。

 シナリオは進み、おれの出番が近づく。中割幕の裏に、あおいとともにスタンバイし、待機する。前のシーンが終わった。暗転し、ゆっくりと中割幕が開き、明転する。

 そして、おれの初舞台が始まったのだーー

 と今日はここまで。数日ぶりの『初舞台篇』で少し力み過ぎだな。次回は気をつけるわ。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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