【オールド五村で食べ歩く】

文字数 3,235文字

 人は常に時間と共に変化している。

 これはいうまでもないだろう。ゆく川の流れは絶えずして、というワケである。

 ただ、これは何も人に限定した話ではない。自然も環境も、そして人を取り巻く街並みも、時間と共に変化している。

 この手の話は前にも枕で書いたかと思うけど、この街並みも変化というのには、ワクワクもするけど、逆にどこか寂しさも感じられる。

 新しく作り替えられ、近代的になった街並みも素晴らしいが、古びた街並みというのもまた一興。決して悪いモノではないと思うのだ。

 確かに、利便性でいえば圧倒的に前者の勝ちなのだが、たまには利便性もクソもないような、どこか質素な風景というのも見たくなる。

 今の世の中は非常にせわしくて、足を止めている余裕すらない。ご時世的にも人は苛立ち、癇癪ばかりで落ち着きがなくなっている。

 別に今の時代が悪いとか、昔は良かったなんていうつもりはまったくない。ただ無性に昔の風景が懐かしくなる瞬間がないワケでもない。

 多分、それはもう戻れないノスタルジアであり、その時代が自分にとって良いものであったという証明なのかもしれない。

 さて、今日はそんな昔の街並みに関する話。

 最近じゃウイルスのこともあって、五村のシティエリアには殆ど行かなくなってしまったけど、今でも新しくなったシティエリアをいいと思う反面、昔のあの光景にも戻ってみたいと思うことがあるワケだ。

 では、書いていこうかとも思うのだけど、ひとつ大前提の話としていっておく必要があるのは、五村の街並みというのは、ある時期を境に急激な変化を遂げたということだ。

 五村市駅前は、ちょうどおれが高校卒業前に再開発を始め、ちょうどおれが大学を卒業し、五村に戻ってきたところで再開発を終えた。

 再開発後の五村市駅は、その景色の壮大さにより、グッドデザイン賞を受賞したりとその評価も高く、おれもそんな近代的な風景が大好きだった。まぁ、過去形で表現してはいるけど、今でも好きではあるんだけどな。

 ただ、大学前と以降ではその景色も大きく変わってしまい、ちょっとした寂しさを覚えるのである。

 あれは高校の二年の時だった。

 その頃の五村は、近隣の市との合併がどうとか、揉めている頃のことだった。当然、駅前再開発の話も持ち上がっていたのだけど、その当時のおれは、こんな地味でどうしようもない街を再開発して何になるんかねと皮肉な姿勢と面持ちで、変化しゆく街並みを眺めていた。

 そんな中である。ある日の帰り道で、グッチョンと一緒になったのだ。

 まぁ、グッチョンに関しては説明するまでもないだろうけど、小中学時代の友人で、今でも定期的にリモート飲みをする仲だ。

 ちなみにウイルス騒動以前は、年末になると彼の実家にお呼ばれして、グッチョン及び、グッチョンの両親と奥さんと一緒に食事をすることが年末の恒例で、ご家族諸とも仲がいいという奇特な友人のひとりだった。あとお兄さんとも仲がいいのだけど、それはまた別の話ーー

 ただ、高校時代はエリアこそ川澄で同じだったとはいえ、通っている学校自体は全然違っていたこともあって、帰り道が一緒になることは珍しかった。

「おぉ、久しぶりだな」

 互いにそう挨拶すると、互いの学校のことや、互いの学校に通う中学時代の同級生の話になった。

 おれとグッチョンは通っていた塾も同じ。そして、その塾から互いの高校に進学したメンツもほぼ被っていたのだ。

 おれの通っていた「川澄城南高校」には外山、成川、あっちゃん。グッチョンの通っていた「川澄高校」は勝明、とそのメンツは今でも付き合いのあるヤツばかり。

 とはいえ、高校が同じでもクラスや文系理系が違えば付き合いも薄くなりがちだ。文系のグッチョンと理系の勝明の間では接点も薄くなりがちとのことだった。まぁ、そんな時もある。

 そんな感じで話をしながら電車に乗り五村に着くと、グッチョンは、

「ちょっと寄りたいところがある」

 といって、旧五村市駅のウエストサイドからすぐ目の前の商店街へ入った。どこへ行くのかと思いつつ付いていくと、

 そこには小さな精肉店がひとつ。

 その「丸山精肉店」という精肉店は、存在は知っていたが、利用したことはまったくなかった。というか、高校生が精肉店を利用すること自体珍しいよな。

 そんな感じで、精肉店に一体何の用なのかと眺めていたのだけど、よく見ると店の前には炭焼きのコンロがひとつ置かれている。コンロの脇には串に刺さった鳥の生肉が数種。そうーー

 店先で焼鳥を販売していたのだ。

 これには思わず、へぇと思い、おれも焼鳥は好きだったこともあって、グッチョンに便乗してかしらを二本ほど買ってみたのだ。

 で、いざその場で食ってみたのだけどーー

 これがメチャクチャ美味いのだ。

 これまで買い食いということは全然してこなかった、というより初めての買い食いだったのだけど、これはもう病みつきになるような美味さだった。肉の柔らかさも焼き具合もちょうどよく、塩の染み具合も絶妙。堪らなかった。

 以降、おれは学校帰りになると、度々丸山精肉店に寄るようになった。学校帰りに塩をつけた焼鳥を一本だけ頬張る。それが、日々の生活の楽しみになった。

 イレギュラーではありながらも、試験勉強で図書館を利用する際も、昼は精肉店横のパン屋を利用し、夜になると精肉店で焼鳥を食べる。それほどまでに、おれは丸山精肉店の焼鳥にハマっていた。

 そうやって、何度も何度も通っていたモノだから、流石に店の人にも顔を覚えられたようで、学校帰りに店に出向くと、

「おぉ、今帰りかい?」

 みたいな感じでいわれ、焼鳥を買えば、カウンター奥からコロッケを取り出されたかと思うと、

「これ、食べなよ。お代はいらないからさ」

 と、サービスまでされるといった感じにまでなっていた。

 おれにとって、高校時代は多忙と楽しさの象徴だった。それは今でも変わらない。でもその楽しさのひとつに、学校帰りに食う焼鳥があったのだと思う。ある意味、帰り道に丸山精肉店の焼鳥が食べられることを糧に高校で勉強してたようなモンだったからな。

 そんな感じの生活は高校卒業まで続いた。で、高三の大学受験のある日のこと、店主のおっちゃんからこういわれたのだーー

「再開発のこともあって、近い内に店を引き上げることになったんだ。今までありがとう」

 何だか寂しくて仕方なかった。これまでの街並みが再開発によって消えていく。特に、この時期は再開発して何になると思っていた時期だから余計にそう思った。

 そして、大学受験も終了し、おれも大学の関係で他県へと引っ越さなければならなくなった。卒業式を終えて、五村市駅に降り立つと、丸山精肉店に最後の挨拶に向かった。

 が、丸山精肉店はもうそこにはなかった。

 店は藻抜けの殻。店前には「開発予定地」という看板が立てられていた。

 変わるーー変わってしまう。おれも街並みも。すべてが変わってしまうのだ。

 そして、おれは大学のために他県へ移り、四年後に五村に戻ってきた。駅前は再開発されて綺麗で壮大になっていた。これにはおれも思わず驚き、再開発も悪くはないかもしれないと思った。

 が、そこに丸山精肉店はもうない。馴染みだったパン屋もない。

 そう考えると、新しい街並みに興奮を覚えつつも、どこか寂しさも感じた。

 それから数年後、『ブラスト』に入り、稽古後にアフターで駅前で飲むことが多くなった。奇しくも丸山精肉店跡の直ぐ横に焼鳥屋が立ち、コンスタントに利用することになった。

 店の中、ビールを煽り、焼鳥を頬張ると、遠い過去の景色が甦る。高校時代、直ぐ横でビールも飲まずに塩まみれの焼鳥を食べて過ごした過去が頭を過る。

 きっと、今も過去となるのだろう。そう考えると、寂しくはあるけど、これから先がどうなるかもどこか楽しみではある。

 ただ、時々、昔の街並みが偉く恋しくなる時もあるっちゃあるんだよな。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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