【帝王霊~捌拾壱~】

文字数 1,143文字

 死というのは、とてつもない暴力だと思う。

 それは能動的、事故的関わらず、ひとつの生命が完全にストップし、以降ひとつの人生の時計の秒針がまったく動かなくなるというのは、やはりとてつもなく恐ろしいことだからだ。

 これまであたしはいくつもの命を奪われた人たちを見てきた。強盗、殺人、或いは事故、そして自殺......、あらゆる形で。もちろん、病死や衰弱による死というのも見てきた。だが、ひとついえるのは、そうやって死んでいった人たちはみな、出来ることならば死にたくなかった人たちだったということだ。

 自殺した人間は自らの意思で死を選んだのだから死にたくなかったというのは可笑しいと思われるかもしれない。だが、自ら死を選んだ人たちも出来ることならば死にたくはなかったに違いないのだ。それは彼らが自死を選んだ理由を考えればわかる。

 彼らはーー少なくとも彼らが思うにはーー絶望的なシチュエーションを生きなければならず、生きるより死んだほうが楽に違いないと信じ込んでしまったが故に死を選んだに違いないのだ。そう、彼らはそういった絶望的なシチュエーションになければ生きたかったはずなのだ。それを、もはや死ぬ以外に道はないと盲信したが故に自らを死に追いやってしまった。もっとマシなーーまともな状況にあれば絶対に生きたかったはずなのだ。

 もちろん、殺人や事故、病気やなんかでやむを得ず命を落とした人たちがそう思うのはいうまでもないだろう。

 恨めし屋ーーそんな名前の裏稼業のことを聴いたことがある。というより、詩織がその恨めし屋だという。きっと彼女の元には生きたかったにも関わらず、不本意に暴力的に死へと追いやられてしまった霊たちが集まって来るに違いない。あたしは基本的にそういったオカルトの類いは信じない性質だが、今となってはそれも別。恐らく幽霊というのは存在する。そして、それに弓永くんと佐野が関わっているだろうことに気づいていた。

 今、あたしの目の前には後頭部から血を流して倒れている「成松だったかもしれないモノ」がある。もし、彼が成松になりたいだけの憐れなワナビーでなく、本当に成松に乗っ取られただけの一般人だとしたら、成松に乗っ取られたという理由だけで暴力的に死を選ばされたということになる。

 人は死ぬーーいつか必ず。

 あたしの背後には守護霊となった高城元警部がいる。高城さんも高城さんのお子さんも不本意に死を選ばされた人たちである。そして、あたしは不本意に死を選ばされた人たちに今も助けられている。

 あたしは悪運が強すぎる。

 あたしは銃を下ろした弓永くんを見た。弓永くんは無表情のまま死んだような目をしていた。まるで、死と一体になっているよう。

 きっと、あたしもそう長くはないだろう。

 【続く】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み