【夜闇にまぎれて~壱~】

文字数 1,063文字

 シンと静まり返ったストリートはまるで死んだように沈黙していた。

 年が明けたばかりの夜中というのは、どうしてこうも静かなのだろうか。年末年始ということもあって、みんな大人しくしているということなのだろうか。明かりは殆どついていないし、いつも以上に静寂が内耳に張り付いて離れない。不思議と空気の密度が濃いように感じられる。それほどに人がいないということだろう。

 おれは逆だった。沈黙に堪えられずに外へと飛び出してしまったのだ。いつもなら静かな空気の中でホラーゲームでも楽しむのが年末年始の深夜の楽しみ方だというのに、今回に限ってはそんな気分ではなかった。

 クソ忌々しいウイルスの影響で外出自粛の空気が漂い続けていたこの三年間は、とても窮屈で仕方なかった。単純に外に出るだけでも神経使うし、芝居ですらも自粛ムード。ようやく公演にこぎつけたと思えば、当日になって体調不良者が出て本番初日に中止が決定するなんてこともザラだった。

 ここ一年はすべて舞台も潰れることなく、無事に板の上に立つことが出来たが、それも運が良かったからこそ。おれが単純に運に恵まれていたからだった。

 そして、そういった影響はいうまでもなく日常生活の上でも普通にあった。今では任意になったマスク着用も、殆ど義務化しているような空気感があったし、初詣なんてモノも自粛しろといった感じがメディアやローカル的な空気感でも普通にあった。

 だが、そんな空気感も例のウイルスが五類へと引き下げられたことで、殆どなくなった。ストリートを闊歩する人たちは、今では殆どがノーマスクだ。まぁ、密になって何かをするワケでもないし、それでもいいのかもしれないが、それはそれで人間というのは単純な生き物だと改めて思い知らされたーーというよりは、みな、ガマンの限界だったのだろうが。

 かくいうおれも、そんなガマンの出来なかった人間のひとりだ。宣言が出されて暇な時間が増えるのも、やたらと忙しく動き回っていた時は多少は憩いの時間にはなったが、二週間も過ぎると暇は毒へと変わって行き、少しずつ人の動きを鈍らせていく。

 そんなのはもうウンザリだった。

 だからこそ、おれはこの新年の夜は外へ出ることにしたのだ。外山には連絡は取ってみたが、返信はない。恐らく、もう浴びるほど飲んでデロンデロンになっているのだろう。だとしたら、シンプルに地元まで自転車で来させるのは危険というモノだろう。

 にしても、澄んだ空気だ。毎年思うが、これが新年の空気なのだろうか。

 おれはストリートの一部となっていた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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