【燃え尽きて、失って】
文字数 2,246文字
何かがひと段落した時、どう思うだろうか。
まぁ、そのひと段落したモノが何かにもよるのだろうけど、大体の人はウキウキ気分になるのではないだろうか。
特に、試験や何かの自分を縛り付け、押さえ付けるモノから解放された時の爽快感といったらかなりのモノで、ウキウキするのも可笑しくないだろう。
これが逆に楽しい何かであってもそうだろう。そういう場合は解放感とは違って、達成感だったり、高揚感だったりと、また違ったベクトルからウキウキするはずだ。
ただ、中にはそうならない人だっている。
楽しい何かを経たからといって、必ずしも達成感や高揚感に満たされることはない。
これは最終的に訪れた結果にも左右されるだろう。だが、中には個人のパーソナリティーでそう思えなくなってしまう人というのがいる。
まぁ、かくいうおれがそういったタイプなのだけど、何故、楽しいことがあった後に高揚感や達成感を得てウキウキできないのか。
それは喪失感がデカ過ぎるからだ。
おれという人間は、達成感や高揚感以上に、まず喪失感がやってくるタイプの人間なのだ。
これがいいことか悪いことかとは一概にはいえないのだろうけど、おれとしては、喪失感が大きすぎるのも考えモノだと思うのだ。
やはり、楽しいことを終えたらハッピーにその場を去りたい。達成感や高揚感に抱かれて、いい気分で夜を迎えたい。そう思うのだ。
さて、『遠征芝居篇』のラストである。あらすじを書くにしても、三度のシナリオを挟んだ後だとどこから書けばいいのか微妙なところではあるけれど、シナリオ前から書いてくか。というワケであらすじーー
「千秋楽の朝、五条氏は森ちゃんと共に映画館のオフィスで目覚め、メンバーたちと共に準備を終えると、会場へと向かった。最後のモラトリアム。音楽を聴いたり、セリフの確認をしたりして時間を潰していると、気づけば本番前。おれと森ちゃんは受付にて、千秋楽の来場者の整理を行っていた。ヒロキさんとミサオさんと顔を合わせ、緊張は最高潮。そして、本番が始まったのだったーー」
とまぁ、こんな感じか。ラストとはいえ、エピローグ的な話があるんで、今日が本当のラストではないんだけどな。じゃ、やってくーー
終わった。すべてが終わった。
芝居が終わって、おれのマインドに残ったのは、喪失感が殆ど。達成感はあるにはあったが、それも虚しさに掻き消されてしまう。
芝居が終わってデュオニソスのメンバーと共にヒロキさん、ミサオさんと話をする。
ベストと身体の大きさが合っていないのは違和感だったという。それは確かにそう。だが、芝居自体はとても良かったとのことだった。
嬉しかったのはいうまでもない。だが、やはりこころのどこかにポッカリと大きな穴が空いてしまったような気がしてならなかった。
話を終え、客出しを終えると、片付けの時間となる。舞台となった喫茶店も、これにて普通の喫茶店に戻ることになる。
メンバーが多い分、作業はスラスラと進んだ。さっきまで舞台としての体をなしていた店内がみるみる内に普通の姿へ戻っていく。
日常が戻ってくる。
明日という未来と共に、いつも通りの日常がやってくる。
魔法は解けた。
もうおれは架空の物語の世界を生きる『冬樹』という青年ではない。いつも通りの仕事をしながら居合と文章を書くことに精を出すチンピラに戻るだけだ。それが虚しくて、寂しくて仕方なかった。
何だっておれはこうも芝居を終えると虚しさと寂しさに襲われるのだろう。
気がつけば、片付けも終了していた。店内はかつて下見に来た時と同じ、平凡な喫茶店に戻っていた。
同時に外は雨模様。シトシトと降りしきる雨が、しっとりとした雰囲気を更に湿らせるような気がした。
日常が音を立てて戻ってくる。
おれはそれを否定するかのように、マスターとロックンロールの話をした。店内に飾ってあったインドの楽器『シタール』を弾かせてもらったりもした。だが、
現実が目の前から消え去ることはない。
気づけば、タイムリミットはおれの肩に手を掛けていた。そう、終わりの時間が来たのだ。
おれは、よっしー、ゆうこと森ちゃんの運転する車に乗って二日間お世話になった喫茶店を後にした。たった一日ちょいしか見ていないはずなのに、見慣れたような景色を後にして。
これからのスケジュールとしては、下留さんの提案で、みんなでレストランで食事をして解散しようということになっていた。
レストランに着いて、ウタゲ、デュオニソスの両メンバーがテーブルを繋げ、みんなで最後の晩餐を楽しむこととなった。
が、そこに最後といった雰囲気はまったくなく、それどころか和気藹々としていた。おれも、何故かそう振る舞っていた。まぁ、喪失感を前面に出すというのも変な話だしな。
美味しい食事を胃につめながら、一日前や千秋楽の朝と何の変わりもなく取るに足らない会話を繰り広げる。楽しい時間。だが、その楽しさが逆に虚しさを増幅させた。
笑顔の奥で、おれのマインドではさめざめと雨が降っていた。それとは対照的に、外の雨は上がっていた。薄暗い夕暮れ。
食事を終え会計を済ませると、それぞれ帰路に着くことに。森ちゃんの車に乗り込み、ウタゲのメンバーに別れを告げる。
そして、長いようで短かった遠征公演が幕を閉じた。
信号の灯りが雨で濡れた黒いアスファルトを、鮮やかに染め上げていた。
赤く染まっていたアスファルトが、美しい緑に染まった。車が動き出すーー
【続く】
まぁ、そのひと段落したモノが何かにもよるのだろうけど、大体の人はウキウキ気分になるのではないだろうか。
特に、試験や何かの自分を縛り付け、押さえ付けるモノから解放された時の爽快感といったらかなりのモノで、ウキウキするのも可笑しくないだろう。
これが逆に楽しい何かであってもそうだろう。そういう場合は解放感とは違って、達成感だったり、高揚感だったりと、また違ったベクトルからウキウキするはずだ。
ただ、中にはそうならない人だっている。
楽しい何かを経たからといって、必ずしも達成感や高揚感に満たされることはない。
これは最終的に訪れた結果にも左右されるだろう。だが、中には個人のパーソナリティーでそう思えなくなってしまう人というのがいる。
まぁ、かくいうおれがそういったタイプなのだけど、何故、楽しいことがあった後に高揚感や達成感を得てウキウキできないのか。
それは喪失感がデカ過ぎるからだ。
おれという人間は、達成感や高揚感以上に、まず喪失感がやってくるタイプの人間なのだ。
これがいいことか悪いことかとは一概にはいえないのだろうけど、おれとしては、喪失感が大きすぎるのも考えモノだと思うのだ。
やはり、楽しいことを終えたらハッピーにその場を去りたい。達成感や高揚感に抱かれて、いい気分で夜を迎えたい。そう思うのだ。
さて、『遠征芝居篇』のラストである。あらすじを書くにしても、三度のシナリオを挟んだ後だとどこから書けばいいのか微妙なところではあるけれど、シナリオ前から書いてくか。というワケであらすじーー
「千秋楽の朝、五条氏は森ちゃんと共に映画館のオフィスで目覚め、メンバーたちと共に準備を終えると、会場へと向かった。最後のモラトリアム。音楽を聴いたり、セリフの確認をしたりして時間を潰していると、気づけば本番前。おれと森ちゃんは受付にて、千秋楽の来場者の整理を行っていた。ヒロキさんとミサオさんと顔を合わせ、緊張は最高潮。そして、本番が始まったのだったーー」
とまぁ、こんな感じか。ラストとはいえ、エピローグ的な話があるんで、今日が本当のラストではないんだけどな。じゃ、やってくーー
終わった。すべてが終わった。
芝居が終わって、おれのマインドに残ったのは、喪失感が殆ど。達成感はあるにはあったが、それも虚しさに掻き消されてしまう。
芝居が終わってデュオニソスのメンバーと共にヒロキさん、ミサオさんと話をする。
ベストと身体の大きさが合っていないのは違和感だったという。それは確かにそう。だが、芝居自体はとても良かったとのことだった。
嬉しかったのはいうまでもない。だが、やはりこころのどこかにポッカリと大きな穴が空いてしまったような気がしてならなかった。
話を終え、客出しを終えると、片付けの時間となる。舞台となった喫茶店も、これにて普通の喫茶店に戻ることになる。
メンバーが多い分、作業はスラスラと進んだ。さっきまで舞台としての体をなしていた店内がみるみる内に普通の姿へ戻っていく。
日常が戻ってくる。
明日という未来と共に、いつも通りの日常がやってくる。
魔法は解けた。
もうおれは架空の物語の世界を生きる『冬樹』という青年ではない。いつも通りの仕事をしながら居合と文章を書くことに精を出すチンピラに戻るだけだ。それが虚しくて、寂しくて仕方なかった。
何だっておれはこうも芝居を終えると虚しさと寂しさに襲われるのだろう。
気がつけば、片付けも終了していた。店内はかつて下見に来た時と同じ、平凡な喫茶店に戻っていた。
同時に外は雨模様。シトシトと降りしきる雨が、しっとりとした雰囲気を更に湿らせるような気がした。
日常が音を立てて戻ってくる。
おれはそれを否定するかのように、マスターとロックンロールの話をした。店内に飾ってあったインドの楽器『シタール』を弾かせてもらったりもした。だが、
現実が目の前から消え去ることはない。
気づけば、タイムリミットはおれの肩に手を掛けていた。そう、終わりの時間が来たのだ。
おれは、よっしー、ゆうこと森ちゃんの運転する車に乗って二日間お世話になった喫茶店を後にした。たった一日ちょいしか見ていないはずなのに、見慣れたような景色を後にして。
これからのスケジュールとしては、下留さんの提案で、みんなでレストランで食事をして解散しようということになっていた。
レストランに着いて、ウタゲ、デュオニソスの両メンバーがテーブルを繋げ、みんなで最後の晩餐を楽しむこととなった。
が、そこに最後といった雰囲気はまったくなく、それどころか和気藹々としていた。おれも、何故かそう振る舞っていた。まぁ、喪失感を前面に出すというのも変な話だしな。
美味しい食事を胃につめながら、一日前や千秋楽の朝と何の変わりもなく取るに足らない会話を繰り広げる。楽しい時間。だが、その楽しさが逆に虚しさを増幅させた。
笑顔の奥で、おれのマインドではさめざめと雨が降っていた。それとは対照的に、外の雨は上がっていた。薄暗い夕暮れ。
食事を終え会計を済ませると、それぞれ帰路に着くことに。森ちゃんの車に乗り込み、ウタゲのメンバーに別れを告げる。
そして、長いようで短かった遠征公演が幕を閉じた。
信号の灯りが雨で濡れた黒いアスファルトを、鮮やかに染め上げていた。
赤く染まっていたアスファルトが、美しい緑に染まった。車が動き出すーー
【続く】