【二度目の悪夢は許さない】
文字数 2,283文字
二度あることは三度あるという。
これはある種、当たり前の話だ。同じ失敗を二度繰り返すヤツが三度目も同じ失敗を繰り返すのは当たり前にある話だ。
これに対して、「三度目の正直」というワードがある。これは説明するまでもないだろうけど、二度の失敗の後、学習した結果、三度目こそは成功するぞということだ。
まぁ、どっちが正しいんだよって話なんだけど、これも結局はその人がどういう姿勢で物事に取り組んでいるかがモノをいうのだと思う。
というのも、前者は失敗を活かせず、おざなりな姿勢のまま同じ失敗をし、後者は失敗に対してしっかりと向き合って取り組み、三度目こそは成功するということだと思っている。
結局、自分がどう立ち振る舞うかが重要だとおれは思うのだ。
まぁ、いってしまえば、三度目になる前にすべてが上手く纏まることが理想であるのはいうまでもない。
さて、今日は二回目の通しからだ。昨日は通しの前に話忘れたことを話したこともあって、事実上、一日開いてしまったようなものだけど、大丈夫だよな。
というワケであらすじーー「五条氏はショージさん、タカシさんとともに五村のローカルラジオ番組にゲストとして出演したのだ」
珍しくまともなあらすじをいったんで、どうしたんだとも思われるかもしれないけど、たまにはこういうのもいいだろ。
間違ってもネタを考えるのが面倒になったワケではない。ワケでは……。
ということで、始めてくーー
劇団から誕生日プレゼントを貰った翌日、二度目の通し稽古があった。場所は前回と違い、いつも通りの稽古場だった。
会議室にてイスとテーブルを片付けて床に場ミリを張る。それから予め衣装と小道具を確認しておく。すべての確認を終える頃にはメンツも揃い、準備運動と発声を始める。
平静と緊張の間でマインドが揺れる。
これまでしっかり稽古を積んでいい感じになったのだ、できることをやればいい。そう思う反面、前回ダメだったこともあるし今回もダメなのではないかという不安もよぎる。
今回の通しは前回ほど厳密ではなく、メイクもしていない。ただ、前回以上に本番を想定して取り組まなければならなかった。
荒くなる呼吸に、込み上げてくる吐き気。自分の中に潜む悪魔が微かに姿を現す。冷たい手で心臓を搾り取られるような感覚が、冷や汗と脂汗を滲ませる。
怖いのはいうまでもなかった。大きく深呼吸して気持ちを整えようとするも、そう簡単には落ち着けはしなかった。
ヨシエさんが音頭を取り、通しの開始がアナウンスされると音響が入り、通しの舞台稽古が幕を開ける。
できることをやったーーとにかく、できることをやるしかなかった。
が、稽古とはいえ、舞台には魔物が住んでいる。おれはどういうワケかーー
何度となく口にしてきたセリフをど忘れしてしまったのだ。
これは流石にやってしまったという感覚が強かった。それもそうよな、今までできていたことが急にできなくなるんだから。
大きな出番を終え、後はオーラスまで出番はないのだけど、やはりその手の失敗は結構精神に来るもので、舞台の裏で少しダウナーな気分になってしまった。
「ジョー、どうしたぁ?」
夏美さんが小声で話し掛けてくる。今まで普通にいえていたセリフが出てこなかったことを伝えると、夏美さんはーー
「あぁ、あるよね。わたしもさっきセリフとちっちゃった。でも、唐突にこういうことになるから不思議なんだよね」
セリフを急にトチることは夏美さんでも普通にあることらしい。それからは、夏美さんとそんな話をしつつ、シナリオの終わりを待った。
最後のシーン、おれをはじめ、他の役者もセリフのないサイレント芝居をする。これは失敗せずに何とかできた。というより、ここで失敗してたら話にならないだろうけど。
終幕後、カーテンコールの並びと挨拶の確認をして、その日の通し稽古は終了。稽古自体もそこで終了し、そのままアフターへ向かった。
通しの後ということもあってか、あまりメンツは多くなかった。ヨシエさん、ショージさん、ヒロキさんにタカシさんにミサオさん、ゆーきさんにあおいにおれとそんな程度だった。
正直、通しの後ということもあってアフターにいくか迷ったが、通しの話を聞いておきたかったこともあって参加することに。するとーー
「直すところはまだあるけど、よくなったね。後は最終調整で何とかなるかな」
とヨシエさん。それから、改善すべき点を聞く。やはり、課題となるのは、病人としての動きだった。病人的な話し方はほぼコンプリートしていた。そのやり方は、本番の時に話すわ。
そんな中、タカシさんがこう切り出す。
「やっぱ、大野さんはダメだなぁ……」
今考えると、んなこと陰でグチグチいってんなよって気もしないでもないのだけど、そんな話が出るくらいに大野さんの芝居に変化はなかった。これは本人から聴いたのだが、芝居を変えようにも変えられないのだそうだ。
人間が変化を嫌う生き物であるのはいうまでもない。特にそれまでやっていたスタイルを突然変えるとなると、とてつもない労力が必要となる。大野さんは、自分のスタイルというどつぼに完全にハマっていた。
タカシさんのことばに、ヨシエさんは物思いにふけたようだったーー
と、今日はここまで。次回くらいが稽古のラストスパートかな。まぁ、また長くなるだろうけど。
アスタラビスタ。
これはある種、当たり前の話だ。同じ失敗を二度繰り返すヤツが三度目も同じ失敗を繰り返すのは当たり前にある話だ。
これに対して、「三度目の正直」というワードがある。これは説明するまでもないだろうけど、二度の失敗の後、学習した結果、三度目こそは成功するぞということだ。
まぁ、どっちが正しいんだよって話なんだけど、これも結局はその人がどういう姿勢で物事に取り組んでいるかがモノをいうのだと思う。
というのも、前者は失敗を活かせず、おざなりな姿勢のまま同じ失敗をし、後者は失敗に対してしっかりと向き合って取り組み、三度目こそは成功するということだと思っている。
結局、自分がどう立ち振る舞うかが重要だとおれは思うのだ。
まぁ、いってしまえば、三度目になる前にすべてが上手く纏まることが理想であるのはいうまでもない。
さて、今日は二回目の通しからだ。昨日は通しの前に話忘れたことを話したこともあって、事実上、一日開いてしまったようなものだけど、大丈夫だよな。
というワケであらすじーー「五条氏はショージさん、タカシさんとともに五村のローカルラジオ番組にゲストとして出演したのだ」
珍しくまともなあらすじをいったんで、どうしたんだとも思われるかもしれないけど、たまにはこういうのもいいだろ。
間違ってもネタを考えるのが面倒になったワケではない。ワケでは……。
ということで、始めてくーー
劇団から誕生日プレゼントを貰った翌日、二度目の通し稽古があった。場所は前回と違い、いつも通りの稽古場だった。
会議室にてイスとテーブルを片付けて床に場ミリを張る。それから予め衣装と小道具を確認しておく。すべての確認を終える頃にはメンツも揃い、準備運動と発声を始める。
平静と緊張の間でマインドが揺れる。
これまでしっかり稽古を積んでいい感じになったのだ、できることをやればいい。そう思う反面、前回ダメだったこともあるし今回もダメなのではないかという不安もよぎる。
今回の通しは前回ほど厳密ではなく、メイクもしていない。ただ、前回以上に本番を想定して取り組まなければならなかった。
荒くなる呼吸に、込み上げてくる吐き気。自分の中に潜む悪魔が微かに姿を現す。冷たい手で心臓を搾り取られるような感覚が、冷や汗と脂汗を滲ませる。
怖いのはいうまでもなかった。大きく深呼吸して気持ちを整えようとするも、そう簡単には落ち着けはしなかった。
ヨシエさんが音頭を取り、通しの開始がアナウンスされると音響が入り、通しの舞台稽古が幕を開ける。
できることをやったーーとにかく、できることをやるしかなかった。
が、稽古とはいえ、舞台には魔物が住んでいる。おれはどういうワケかーー
何度となく口にしてきたセリフをど忘れしてしまったのだ。
これは流石にやってしまったという感覚が強かった。それもそうよな、今までできていたことが急にできなくなるんだから。
大きな出番を終え、後はオーラスまで出番はないのだけど、やはりその手の失敗は結構精神に来るもので、舞台の裏で少しダウナーな気分になってしまった。
「ジョー、どうしたぁ?」
夏美さんが小声で話し掛けてくる。今まで普通にいえていたセリフが出てこなかったことを伝えると、夏美さんはーー
「あぁ、あるよね。わたしもさっきセリフとちっちゃった。でも、唐突にこういうことになるから不思議なんだよね」
セリフを急にトチることは夏美さんでも普通にあることらしい。それからは、夏美さんとそんな話をしつつ、シナリオの終わりを待った。
最後のシーン、おれをはじめ、他の役者もセリフのないサイレント芝居をする。これは失敗せずに何とかできた。というより、ここで失敗してたら話にならないだろうけど。
終幕後、カーテンコールの並びと挨拶の確認をして、その日の通し稽古は終了。稽古自体もそこで終了し、そのままアフターへ向かった。
通しの後ということもあってか、あまりメンツは多くなかった。ヨシエさん、ショージさん、ヒロキさんにタカシさんにミサオさん、ゆーきさんにあおいにおれとそんな程度だった。
正直、通しの後ということもあってアフターにいくか迷ったが、通しの話を聞いておきたかったこともあって参加することに。するとーー
「直すところはまだあるけど、よくなったね。後は最終調整で何とかなるかな」
とヨシエさん。それから、改善すべき点を聞く。やはり、課題となるのは、病人としての動きだった。病人的な話し方はほぼコンプリートしていた。そのやり方は、本番の時に話すわ。
そんな中、タカシさんがこう切り出す。
「やっぱ、大野さんはダメだなぁ……」
今考えると、んなこと陰でグチグチいってんなよって気もしないでもないのだけど、そんな話が出るくらいに大野さんの芝居に変化はなかった。これは本人から聴いたのだが、芝居を変えようにも変えられないのだそうだ。
人間が変化を嫌う生き物であるのはいうまでもない。特にそれまでやっていたスタイルを突然変えるとなると、とてつもない労力が必要となる。大野さんは、自分のスタイルというどつぼに完全にハマっていた。
タカシさんのことばに、ヨシエさんは物思いにふけたようだったーー
と、今日はここまで。次回くらいが稽古のラストスパートかな。まぁ、また長くなるだろうけど。
アスタラビスタ。