【一年三組の皇帝~参拾弐~】
文字数 1,274文字
何とも可笑しなことになった。
ぼくの両手には包みを開けずに収まったままのチーズバーガーがひとつ。まだバーガーは温かい。右横にはバーガーショップの縦に長く水滴をまとったカップに入ったコーラがレンガ造りの縁に水の円を作っていた。
ぼくが座っているのは川澄通り商店街の中央にある中央広場である。広場の端には祭りの時に活躍するが、何もない時は立ち入りが禁止されているイベント用のステージがどっしりと構えていた。ぼくはその真向かいかつ、広場中央にある噴水の縁に座っていた。
「夏には七夕祭、秋には川澄祭、そのどちらかでうちの部が簡単な芝居を披露することになっている」
以前、岩浪先輩がそう説明していた。そして、その芝居を披露する場所というのが、今ぼくが眺めているイベント用のステージだった。ぼくもあそこに立つことになるのだろうか。まったく想像が出来なかった。
「食わんのかい?」
となりに座る男の人がいった。そう、さっき会ったガタイがよくて髪をカチューシャでうしろで撫で付けた怖い顔ながらイケメンのお兄さんだ。
ぼくがお兄さんとぶつかった後、お兄さんはぼくに大丈夫かと訊ねた。ぼくは自信なさげに、大丈夫ですと答えた。だが、それが逆に引っ掛かったらしく、お兄さんは本当に大丈夫なのかと更に訊ねてきた。が、ぼくは答えることに戸惑い黙ってしまった。と、お兄さんは、付いて来なといって歩き出した。ぼくは付いて行かざるを得なかった。何よりもお兄さんが怖かったし、逃げたら何をされるかわからなかったから。
が、お兄さんがたどり着いたのはフランチャイズのバーガーショップだった。ぼくは呆気に取られていた。店内に入るとカウンターはすいていて、お兄さんはすぐに注文のカウンターに向かった。ぼくはただ突っ立っていたが、お兄さんに、おいでといわれてただ何となくそっちに向かった。
と、お兄さんに何がいいか訊かれ、ぼくは最初遠慮したが、お兄さんは大丈夫だからといったので、あまり断ると逆に怖いことになりそうだと思ってチーズバーガーを単品で注文しようとした。しかし、お兄さんはセットでなくていいのかといったので、ぼくはチーズバーガーにコーラとポテトを付けて頼むことにしたのだ。お兄さんは店で一番大きなバーガーのセットをテイクアウトで頼んだ。
そして、今に至るワケだ。
お兄さんは大きなバーガーを既に四分の三たいらげていた。早い。バーガーを食べてはサイズの大きなカップに入ったメロンソーダを吸う様は、まるで銃を撃った後にリロードするようだった。
「あ、ありがとうございます」
ぼくはそれしかいえなかった。確かに小腹は空いていた。でも、中々に手をつけづらかった。頭の中に浮かんで来る様々な問題が、ぼくから食欲を削っていた。
「......何か、学校で問題でも?」お兄さんはいった。「まぁ、初対面のおれにはいいづらいか。でも、逆にいえば、学校の人間じゃなくて後腐れもないようなおれだからこそ、話せることもあるんじゃないかね? まぁ、キミが話したければの話だけど」
ぼくはお兄さんを見た。
【続く】
ぼくの両手には包みを開けずに収まったままのチーズバーガーがひとつ。まだバーガーは温かい。右横にはバーガーショップの縦に長く水滴をまとったカップに入ったコーラがレンガ造りの縁に水の円を作っていた。
ぼくが座っているのは川澄通り商店街の中央にある中央広場である。広場の端には祭りの時に活躍するが、何もない時は立ち入りが禁止されているイベント用のステージがどっしりと構えていた。ぼくはその真向かいかつ、広場中央にある噴水の縁に座っていた。
「夏には七夕祭、秋には川澄祭、そのどちらかでうちの部が簡単な芝居を披露することになっている」
以前、岩浪先輩がそう説明していた。そして、その芝居を披露する場所というのが、今ぼくが眺めているイベント用のステージだった。ぼくもあそこに立つことになるのだろうか。まったく想像が出来なかった。
「食わんのかい?」
となりに座る男の人がいった。そう、さっき会ったガタイがよくて髪をカチューシャでうしろで撫で付けた怖い顔ながらイケメンのお兄さんだ。
ぼくがお兄さんとぶつかった後、お兄さんはぼくに大丈夫かと訊ねた。ぼくは自信なさげに、大丈夫ですと答えた。だが、それが逆に引っ掛かったらしく、お兄さんは本当に大丈夫なのかと更に訊ねてきた。が、ぼくは答えることに戸惑い黙ってしまった。と、お兄さんは、付いて来なといって歩き出した。ぼくは付いて行かざるを得なかった。何よりもお兄さんが怖かったし、逃げたら何をされるかわからなかったから。
が、お兄さんがたどり着いたのはフランチャイズのバーガーショップだった。ぼくは呆気に取られていた。店内に入るとカウンターはすいていて、お兄さんはすぐに注文のカウンターに向かった。ぼくはただ突っ立っていたが、お兄さんに、おいでといわれてただ何となくそっちに向かった。
と、お兄さんに何がいいか訊かれ、ぼくは最初遠慮したが、お兄さんは大丈夫だからといったので、あまり断ると逆に怖いことになりそうだと思ってチーズバーガーを単品で注文しようとした。しかし、お兄さんはセットでなくていいのかといったので、ぼくはチーズバーガーにコーラとポテトを付けて頼むことにしたのだ。お兄さんは店で一番大きなバーガーのセットをテイクアウトで頼んだ。
そして、今に至るワケだ。
お兄さんは大きなバーガーを既に四分の三たいらげていた。早い。バーガーを食べてはサイズの大きなカップに入ったメロンソーダを吸う様は、まるで銃を撃った後にリロードするようだった。
「あ、ありがとうございます」
ぼくはそれしかいえなかった。確かに小腹は空いていた。でも、中々に手をつけづらかった。頭の中に浮かんで来る様々な問題が、ぼくから食欲を削っていた。
「......何か、学校で問題でも?」お兄さんはいった。「まぁ、初対面のおれにはいいづらいか。でも、逆にいえば、学校の人間じゃなくて後腐れもないようなおれだからこそ、話せることもあるんじゃないかね? まぁ、キミが話したければの話だけど」
ぼくはお兄さんを見た。
【続く】