【勝手にしやがれ】

文字数 3,135文字

 わからないことを自分で調べる能力はあるだろうか。

 そんなんできるよ、当たり前じゃんーーそういう人は多いだろう。だが、残念なことにわからないことを調べるという至極簡単なことができない人というのも少なからずいるのだ。

 では、そういう人がわからないことがあったらどうするのか。簡単である。

 結論だけ人に訊くのだ。

 人に訊くのは重要だろうと思った人もいると思う。実際、自分の専門分野ではない部分は詳しい人に訊くべきだと思うし、同じ仕事や何かをやっている人であっても、キャリアや能力が上の人には意見を求めて然るべきではある。

 問題は何でも人に訊こうとするヤツだ。

 往々にして、こういった人種は何がわからないのかがわかっていない。いってしまえば、わからないの過程が抜け落ちているのだ。

 だが、そんな過程の抜けた疑問ーーいってしまえば、回答者におんぶに抱っこを強いるような疑問をぶつけられれば、質問された側もいい気はしないし、何よりも困ったことが、こういった質問というのは、ちょっと自分で調べれば二秒でわかるようなことが多いのだ。

 だが、モノを調べるという行為は能動的なモノだ。人にモノを訊くのも能動的ではあるが、それはおんぶに抱っこを強いる場合は当てはまらない。それは相手に自分の答えを委ね、依存しているのと何ら変わらないからだ。

 恐らく、彼、あるいは彼女らは、自分の手を煩わせず、楽に結論に辿り着きたいと思っているのだろう。だが、それでは本質的には何も変わらない。

 他人から表面的な結論を聴いただけでは知識は体系化されず、付け焼き刃にもならない。

 やはり、人に訊くのも、その前に自分である程度は調べてみる必要があると思う。その果てにわからないことがあれば、調べた結果わかったことと合わせて質問する内容を吟味すれば、相手に悪い気はさせないハズなのだ。

 要は、訊く前に自分で調べてみることが大切だということだ。

 かくいうおれはというと、わからないことがあると結構調べものをしてしまう性質だ。たまに後回しにしてしまいがちではあるが、ある程度のことは調べつつ、人にモノを訊くときは、可能な限り具体的に、何がわからないのかを明確にして伝えるようにしている。

 まぁ、医学や法学みたいな専門分野は、それこそプロフェッショナルに質問しちゃったほうが早いんだけどな。付け焼き刃的な知識でモノを語るのは非常に危険だし、そうするくらいなら丁重に無知であることを認めつつ、平身低頭に質問すれば、相手だって悪い気はしない。

 それに調べものをしている暇のない時は、人に訊くしかない。そういう場合もやはり、態度次第で訊く相手の気持ちも変わる。

 まぁ、おれも別にその道のプロではないとはいえ、母親にパソコンの操作のことをよく訊かれるのだけど、どの質問も検索エンジンで調べれば二秒でわかることばかりで、かつ「わかんねぇんだけど、何とかしろよ」みたいなスタンスで来られる分いい気はしないし、そう来られると「自分で調べろよ」と思ってしまう。

 特に酷かったのは、ネットショッピングで欲しいものがあるから、買って欲しいといわれ、提示されたモノを実際に買ったら、それが数回分の定期配達のモノで、二回目の代引き配達が来たときに何故かキレられるという。で、定期配達だと指摘すると、「そんなことは知らない。キャンセルしろ」である。

 これ以来、何があっても母からネットショッピングを頼まれても、「自分で調べて買え」というようになったのだけど、やはり、人に教えを請うのも態度が重要だし、何よりわからなければ、まずは自分で調べてみることが重要だと思うのだ。いつも携帯している小さい箱があるんだしさ。

 それはさておき、今日はそんな話ーー

 あれは中学三年生の頃だった。

 その時はちょうど総合学習の発表の日で、同じ学年の生徒たちをアトランダムに四つのクラスに分けて、その中でグループを組み、各々のテーマに基づいて調べたことを発表することとなっていたのだ。

 ちなみに五条氏は、榎本、麦藁と共にカラスの生態とその害について調べ、それを演劇化するということをやったワケだ。ちなみに本は三人の共同執筆。何だかんだ、この頃から芝居というモノを意識してたのかもしれんな。

 それはさておき、おれたちは自分たちの発表が近づく中、他の班の人が発表する内容に耳を傾けていたのだ。

 そんな中、ひとりの男の発表の番となった。

 つよしである。

 つよしを覚えているだろうか。例の林間学校におけるチクり事件と、体育の100メートル走を全力疾走して酸欠で運ばれた、あのつよしである。

 まぁ、100メートル走のことは笑い事にはできないのだけど、それを除いても中々に特異な人物であったことはいうまでもないし、それ故、他人とのコミュニケーションも余り上手く行っていなかったのは事実で。

 それ故にか、どの班も最低でもふたりはメンバーがいたにも関わらず、つよしはひとり。ひとりで発表することとなっていたのだ。

 つよしは準備として、ポスター大の用紙を黒板に貼ると、

「こ、これから……、すぅー、はっぴょ!……すぅー、えー、始め、ます……」

 と発表を始めたワケだ。そのテーマとしては、ゴミ問題における環境への影響みたいな感じのオーソドックスなモノだった。

 模造紙に書かれた文字は小さく雑で、お世辞にも読みやすいとはいえなかった。オマケに消え入るようなつよしの声では、何をいっているのかよくわからない。

 取り敢えず、ゴミについてちゃんと調べたのだろうなと思ったのだけど、最初のセクションの途中で、つよしは凄いことをいったのだ。というのもーー

「えー、後は自分で調べて、下さい……」

 えっと、聞き間違いだろうか。

 何かをプレゼンする時に、自分の意思で調べるよう注釈を入れることはまずない。ま、まぁ、おれの聞き違いだろう。

 そう思って気づいたら次のセクションに移っていたつよしは早々にこういい放ったのだ、

「えー、というワケです……。すぅー。後は、すぅー、自分で調べて下さい……」

 聞き違いじゃなかった。

 間違いなく、つよしは「自分で調べろ」といっていたのだ。これには流石に困惑を隠せず、周りの様子を確かめたのだけど、やはり周りもざわついておりまして。担当の教員も苦笑いしておりました。そりゃそうよな。

 更につよしは次のセクションでも、その次のセクションでもーー

「後は……すぅー、自分で、すぅー、調べて下さい、すぅー」

 といった具合だったのだ。そして、

「これにて、すぅー、発表を、すぅー、終わりにします……」

 と発表を終えたのだ。拍手は疎らもいいところだった。教員のほうも首を傾げながら、

「もうちょっとマジメにやろうな」

 とコメントしておりました。

 でも、おれは感動していた。そう、おれたちは「発表会」という桟敷の上に胡座を掻いた道楽者でしかなかったのだ。

 社会に出たら、人は必ずしも丁寧にモノを教えてくれるワケじゃなくなる。やはり、大事なのは自分で調べること。それができなきゃ、お前ら、生きていけないぞーー多分、つよしはそういいたかったのだろう。そう、おれたちが甘かったのだ。こればかりは反省しなければーー

 んなワケねぇだろ。

 発表という形式である以上、自分で調べろはダメよな。

 結局、そのクラスの発表にて優秀とされ、代表として学年全体の発表に出ることとなったのは、おれと榎本、麦藁のカラスの生態とその害について纏めた芝居でしたとさ。

 でも、個人的には発表会と名がつけば何でも教えてくれるという勘違いを根底から覆してくれたつよしの発表を推したかったんだけどな。

 すいません、ウソです。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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