【闇に蠢く虫たちのカンタータ】

文字数 2,774文字

 よくわからないウワサが流れていた。

 それは間違っても、「毎日のようにゴミみたいな文章を更新している」だとか、「家でアリゲーターを飼っている」だとか、「最近太ったので、ダイエットを慣行している」だとかではない。最初と最後は事実だわ、すまん。

 では、どんなウワサが立っていたのか。それはーー

 おれが『椿三十郎』のラストシーンの居合をやれる、といったものだ。

 とりあえず、これだけでは話が掴めないだろうから状況を説明していくと、今日、居合の稽古があったのだ。

 うちの支部にて居合をやっている方々の多くは、時代劇が好きで、それこそ自分もよくその話をするのだけど、おれが殺陣の経験者ということもあって、あの抜き方の型と原理を知っているのでは、ということから広まったらしい。

 幸い、その型は以前練習していたこともあって、特に苦労することなくその抜き打ちをこなし、何とかウワサ通りの展開を作り上げることができたのだ。危なかったな。

 まぁ、どんな感じかわからない方は、『椿三十郎』を観るとよろし。間違っても動画サイトで「椿三十郎 ラスト」とか検索してはいけないよ。いけないかんね!

 にしても、今回はこれでよかった。というのも、このウワサが自分の尊厳を傷つけることなく、むしろおれを好意的に評価したポジティブなものだったからだ。

 が、基本的にウワサというものはネガティブなものが多い。というか、人が人のウワサをするときは大抵ネガティブなネタになりがちだ。

 それは人間がゴシップ好きな生き物だからだ。だからこそ信憑性の怪しいゴシップ誌も飛ぶように売れるし、ネット上でよくわからないウワサやデマが蔓延るのだろう。

 そして、そのネガティブなウワサというのを本人が耳にした時は、大抵の場合、手遅れになっていることが殆どだ。

 高校の時である。

一応いっておくと、おれの通っていた高校は男子校で、それこそ女子に飢えた野獣のような男たちの巣窟だったワケだ。

 そんなこともあって学内では、日々ハードコアな下ネタが飛び交い、エロ動画にエロ画像、エロサイトがトレンドとして語られていた。

 そんな中、とんでもないモノが校内を出回ったのだ。

 男のイチモツの写真である。

 当時、高校一年、まだ入学して半年と経っていない頃の話である。おれはそのイチモツの写真を見せられて、「何だこれは……」と絶句してしまった。が、その写真を見せてくれた同級生がいったのはーー

「これ、二組の金井のヤツだよ」

 これには五条氏の顔も青ざめてしまいまして。いや、金井のとか関係なく、何でそんな写真を持ってんのよ。その理由を問うとーー

 金井が人に送ったモノが学校中に流れているとのことだった。

 確かに金井のイチモツの写真を持っているこの同級生も同級生だが、自分のイチモツの写真を送る金井も金井だった。

 金井は、二組にいた野球部の男で、一五歳にも関わらず、四五歳にしか見えないオッサンベイベーな見た目をしていた。

 金井は当時、後に足の裏をハチに刺されて一週間学校を休むこととなるシュンスケとも仲がよく、おれもシュンスケから金井の話をよく聞いていた。話を聞いた限りだとこれといって問題があるようにも思えなかったが、写真の一件以降、ヤバいウワサが飛び交うようになった。

 では、そもそも何故あのような写真が出回ったのか。それはーー

 金井がSNS上で出会いを求めて色んな女性に声を掛けまくっていたことが原因だという。

 これはまぁ、あの当時はよくあったことだとは思うのだけど、金井が出会い目的で女を漁っていると聞いた野球部のヤツが、女の振りをしてアカウントを作り、金井に接近したのだ。

 それからメールでやり取りするまでトントン拍子で進み、その野球部の男が冗談半分でイチモツの写真が欲しいといったのだ。そして、送られてきたのが、件の写真というワケだ。

 本来、こんな写真が出回っていると知ったら、不登校になるか、学校を辞めるかになるのだろうけど、金井はタフだった。何事もなかったように、日々の生活を送っていた。

 人のウワサも七五日というが、あれはウソだ。というのも、金井に関するウワサは、卒業するまで消えるどころか、どんどん増えていったのだから。話を戻そうーー

 一年生も終わり二年生になっても、金井のイチモツの写真は学内に広まり続けた。そして、二年生になると更なるウワサが広まったのだ。

 きっかけは、例の女の振りをしてイチモツの写真を送らせた野球部のヤツだった。ヤツは写真が広まって以降も、それを送らせたのが自分だということを伏せて金井と友人関係を結び続けていた。そんなヤツが、今度はこんな話を流布し始めたのだ。何とーー

 金井が、日帰りで高松までいってネットで釣った女をカラオケで襲ったというのだ。

 これが本当なら、金井は犯罪者だが、デマならば名誉毀損もいいところだ。訴えれば間違いなく勝てるだろう。が、その野球部のヤツ曰く、これは本人の口から直接聞いた話なので間違いないとのことだった。

 これはおれもウソか本当かわからなくなってしまった。今考えるとそんなデマいくらでも流せるだろうけど、その当時はネガティブなウワサが流れすぎていて、みんなマジだと信じてしまったのだ。本当かどうかもわからんのに。

 あまりいい話ではないなーーやめよう。

 兎に角、その後も金井に関するウワサは幾度ともなく飛び交ったが、金井はそれに屈することなく、ちゃんと高校を卒業したのでした。

高松の件も、特にそういった話もないので、多分、ウソなんだろう。でも、どうして金井はそのウワサを否定しなかったのか。今となってはまったくの謎である。

ちなみに、高松ってのはフェイクな。実際の場所はエリア的に近いのかもしれないけど、敢えて伏せさせて貰うわ。

 しかし、出会い目的で女を漁るほうも漁るほうだし、ソイツをハメようとするヤツもハメようとするヤツだよな。でも、わかったのはーー

ゴシップは人間にとっては最高のエンターテイメントでしかないということだ。

 ただ、覚えておかなければならないのは、ウワサは時に人を殺す凶器になるということ。

今の情報過多な世の中においては、真実かどうかも確認せずに、話を鵜呑みするのは危険だということは頭にいれておいたほうがいい。

 それが、今の情報という海の中を泳ぐ人間の義務だと思うのだ。

 加えて、日頃の行いにも気をつけなければならないだろう。イカれたウワサを流されてからではもう遅いのだから。

 うーん、胸くそ悪い回……。


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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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