【帝王霊~捌拾睦~】

文字数 1,085文字

 視界がグラグラと揺れていた。

 音はまったくしなかった。また自分の精神が大きく揺れ、動揺しているのがわかった。おれは変化に弱かった。何をやるにしても、突然の変化が起きると視界と精神が大きく揺らいでしまう。

 にも関わらず役者なんてモノが続いてしまったのは、おれがどういうワケか本番には強いタイプの人間だったからだった。彩色豊かな照明にその場その場を彩るBGMの数々、そして自分を見ている客席の人たち。

 確かに前ふたつが抜けることは舞台の上では全然ある話だ。そう考えると、おれはもしかしたら、人に見られていると、とてつもない力を発揮するタイプなのかもしれなかった。

 だが、それも本番の話であって、稽古の時はその逆、何をやろうと上手く行かなかった。そう、おれは即興で何かをするということに異常な苦手意識があった。そうなった瞬間に、おれの身体ーー殊に肩はガチガチに固まっておれの動きを阻害した。

 何度となく肩の筋肉を切断してやろうかと思った。これまで何においても、肩の筋肉にあらゆる場面で邪魔をされてきた。

 何故なのだ。

 おれはどうして自分の意識に、肉体に支配され、失敗し続けなければならないのか。意識など、小さい頃に構築されたモノから大きく変わることなどない。カエルを恐れる少年は大人になってもカエルを恐れたままで、その意識が覆ることは殆どないのだ。

 そして肉体も、一度固まってしまえば、その形を維持しようとして戻ることはなくなる。おれの身体は完全な欠陥品でしかなかった。人から見た目のことを褒められたことは何度かあるが、そんなモノは殆どが世辞でしかなく、仮に本心からそうだといわれたところで、見た目など本質とは何の関係もない。

 つまり、おれは見た目ばかりが体裁よく整えられた欠陥品でしかないということだった。

 確かにこんなおれのことを評価してくれる、慕ってくれる人もいた。中でも外山がその代表かもしれない。しかし、今となっては外山もおれが余計なことをしてしまったことでおれの元から去っていってしまった。

 おれにはもはや何もない。身につけた技術も所詮は小手先のモノでしかなく、そこには中身がない。広い世界では通用しない。不能感に苛まれるとそれが浮き彫りになる。

 おれはーー木偶の坊でしかなかった。

 高校時代に散々通った川澄の街、そしてシンゴに初めて会った中央広場、どうすればいい。おれはどうすればいい。

 神がおれを助けやしないことなどわかっている。だからこそおれ自身で何とかしなければ。頼れるのは自分だけ。おれはーー

「和雅くん!」

 声を掛けられたーーヤエ先生だった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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