【栄光は風とともに】

文字数 3,632文字

 何事においても一番になるのは難しい。

 そんなことは、何かに真剣に取り組んだことがある人間なら誰だってわかっているはずだ。

 そんなことないと思っているのは、容易に一番になれるような要領がいい人か、何かに大して真剣に取り組んでいないヤツか、腐って日陰で他人を嗤うことに時間を費やすことに喜びを見出だしているゴミぐらいだろう。

 しかし、物事に真剣に取り組めば取り組むほどに、天は果てしなく高くなっていく。何となく登り始めた山がとてつもなく高く感じられる。

 そう、何事にも上には上があり、上には上がいるものだ。

 まぁ、とはいいつつも上ばかり見ていては、その高さにウンザリして、挑戦することを辞めてしまったり、好奇心や向上心までもが奪われたりしてしまうので、あくまで自分は自分と割り切るのが大切なんだろうけど。

 ちなみにおれは何かで一番になった経験が殆どない。

 オフィシャルなモノでいえば、これまで何度か話している居合の大会での優勝と、高三の二学期の音楽の成績が学年一位だったくらいで、後は中学生の時によく原野くんの家で開催されていたゲーム大会で何度か優勝したことがあるくらいしかないと思う。

 それくらいに、おれは勝利というか、優勝、一位といったものとは縁がない。

 まぁ、そういうモノを手にするには並大抵の努力ではどうにもならないのは今になってよくわかるし、自堕落でどうしようもなかった少年時代の自分が何かでトップに立ってしまったとしたら、それはもはや社会が間違ってるレベルで可笑しいと思えてならないーー社会が間違ってるは流石に違うか。

 ちなみに出来レースで一位や優勝することには何の価値もない。あぁ、そこまでのコネを得たという意味では価値あるわ。おれは興味ないけどな。

 まぁ、そうはいったものの、少年時代のおれはそういったミラクルが起こって容易に一番になれたらなと考えるのが常だったワケだ。

 典型的なバカガキもいいところなんだけど、実際、「楽して○○したい」と考える人が多いことを考えると、案外少年時代の自分のそういった考え方も余り否定できたモノでもないのかもしれない。

 楽して○○したいーーそれは多くの人が思うことだが、実際にそんなミラクルが起きる可能性なんて、もはや天文学的な確率でしかなく、やはり最後に勝つのは地道にやって来たその積み重ねでしかないのだろうと思うのだ。

 だからこそ、経験を積み重ねた果てに得た勝利というのは尊いワケだ。

 とまぁ、随分とお堅い話をしてしまったけども、今日はそんな勝利を手にしたその末に起こったことの話をしていきたいと思う。通常回も久しぶりだな。まぁ、気楽に書くわ。

 あれは高校三年の時の話だった。

 その当時のクラスといえばすごいもので、靴下の中に入ってた蜂に足を刺されて学校を一週間休むヤツもいれば、自分の局部の写真を部活の仲間に送って拡散された変態もいたワケだ。

 当然それ以外にもすごいのはたくさんいたのだけど、その話はまたいつか。

 まぁ、そんな中でもあっちゃん、成川、外山といった中学時代の同級生もいて、もはや同じ中学のヤツが自分含めて四人もいると、いつも一緒にいるんだろ?みたいな感じになりそうだけど、そうでもなく。

 あっちゃんと成川はややひとりでいる傾向にあり、外山は高一の頃から仲がよかったヤツらと一緒にいることが多く、おれは高二からの仲の柄の悪めなインテリ集団と一緒にいることが多かったものの、基本的にどのグループにも属せるオールラウンダーといった感じだった。

 まぁ、オールラウンダーだとか、ひとりでいる傾向だとか、どのグループだとかいいはしたけれど、基本的にクラスのメンバーは仲がよく、余程調子に乗りさえしなければ、普通に生きていける空間だった。

 とはいえ、男子校ということもあって女子がいないのはいうまでもなく、みなその手のことには餓えまくっていた。

 そして、男子校ともなると、やはりイベントごとは盛り上がらない。盛り上がると思った?ーー残念、男はかっこつけたい女がいないと盛り上がらないんですよ。

 そんなワケで体育祭なんてやっても、全然盛り上がらないのが現実だったりする。

 かくいうおれも体育祭のクラスTシャツとクラス旗はデザインしたものの、正直体育祭そのものにはまったく興味がなく、イスに座ってクラスメイトと駄弁ってばかりだった。

 とはいえ、棒倒しの最中に、高二のバスケの時間におれの腹を殴ってきたヤンキーホストをどさくさ紛れにブチのめしたりして何だかんだ楽しんではいたのだけど、やはり、盛り上がらないのが男子校の体育祭だった。

 そんな中、個人長距離走の時間となった。

 まぁ、当時から走るのが嫌いだったおれは、いうまでもなくこの競技に出ることはなく、早く帰りたいと思いながら何となくイスに座っていたのだ。

 で、個人長距離走だが、選手は各クラスから代表がひとり選ばれることとなっていた。

 そんな中、うちのクラスから選ばれたのが、成川だった。

 成川は小学校はユースのサッカークラブ、中学は卓球部と経験してきたが、高校に入ると元から走ることが好きだったのもあって陸上部に入ったのだ。ちなみに専門は長距離。うってつけの人材だったってワケだ。

 各選手、スタートラインに立ち、合図を待つ。

 位置について、よーい……。

 銃声。

 レースが始まった。

 成川も走り出す。流石は長距離の選手とだけあって、ペースは速いが表情は余裕だ。

「あのタイ人のゲイ、速いな」

 とか、

「あのゲイ人のタイ、やべえな」

 とか、

「タイってニューハーフが多いらしいよ」

 とかクラスメイトとそんなことを話しながら成川の走りを見ていたのだけど、これが本当に速かった。

 他のヤツラはある程度スピードをセーブしているのだけど、成川はスピードをセーブしても他のヤツらと比べるととんでもなく速く、必然的に一位になり、二位ととんでもない差をつけて先頭を爆走していた。

 これにはクラスメイト全員が成川に目を見張り、「これ、余裕勝ちじゃないか?」とクラス内がざわつき始めていた。

 そして、開始から数分後、成川はぶっちぎりの一位でゴールしたのだった。

 これにはクラスメイトも歓喜の声を上げ、タイ人コールとゲイコールが飛び交ったのだ。ちなみに成川はノンケの純日本人です。

 成川がクラスの待機場所に戻ってくるとこれはもう祭りで、タイだ、ゲイだ、ペイだ、おっぱいだ、アフガンだと大盛り上がりだった。それに対して成川は、

「タイでもゲイでもおっぱいでもアフガンでもねえよ! てか、ペイって何?」

 といっていたのだけど、残念ながらそんなこと誰も聴いてなかった。担任の小木田先生も、クラススペースまできて成川を激励していた。

 成川はこの時、紛れもなくクラスのヒーローだった。

 そんな盛り上がりを見せつつ体育祭の全プログラムは終了した。閉会前の表彰の際は、校長が成川に賞状と造花で編まれた冠を贈り、成川は全校生徒から割れんばかりの拍手を贈られたのだった。

 閉会式が終わると、小木田先生がクラスの生徒を召集し、みんなで写真を撮ろうと提案した。そんな感じでみんなして列を作ろうとしている中、おれはゴタゴタに紛れて成川に、

「すげえじゃん」

 と声を掛けた。おれと成川といえば、「頭大丈夫?」の一件以来、おれが成川を一方的に弄り倒すような関係になっていたのだけど、この時ばかりは本心から成川を褒め称えていた。成川も、

「サンキュウ~♪」

 とかホラー映画に出てきたら真っ先に○されそうなヤツみたいな口調でお礼をいっていた。それから冠の位置を調整しーー

「あぁ......ッ!!」

 唐突に悲鳴が響いた。成川だ。成川が唐突におれの目の前で悲鳴を上げたのだ。何かと思い成川をよく見てみるとーー

 成川が冠を壊してた。

 これはもう笑うしかなかった。何で冠壊してんだよって感じで。頭大丈夫?ーーいや、冠大丈夫?

 そんな感じで笑うおれにつられてクラスメイトが何事かと次々集まり、壊れた冠を見てまたひとり、またひとりと笑い出したのだ。ヒーローはどこへいった。

 で、その壊れた冠を見て小木田先生も、

「あぁ……! これ、高いんだぞぉ!?」

 ともはやネタとしか思えないようなことをマンガみたいな顔で嘆いてました。とはいえ、そんなことしていても時間の無駄だし、もう面倒だから写真撮っちまおうということになってクラス全員で記念撮影をしたんですが、

 写真に納められた成川の悲壮感たっぷりの顔をおれは未だに忘れない。

 こうして成川の栄光は風とともに消えてしまったのだった。誰だ壊れやすく設計したのは。

 結局これ以降も成川はクラスメイトからタイ人のゲイだとか、冠クラッシャーだとかいわれて弄られて過ごすこととなったとさ。

 不謹慎だけど、成川の嘆き方って変に芝居染みてて思わず笑ってしまうんよな。クズ?ーー知ってる。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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