【藪医者放浪記~捌拾玖~】
文字数 641文字
思いもかけない事実に気づくと、顔が青ざめることはある。
猿田源之助と牛野寅三郎も同様だった。今さっき確かに老人から盗んで来た荷物がいつの間にかなくなっている。
「落としたんじゃ......」
猿田がそういうのも無理はなかった。それ以外にあの大きさの荷物をなくすことはないだろうから。だが、寅三郎はーー
「それは、ないと思います」少しいいづらそうにいった。「あの大きさの木箱なら落とした時に結構な音が出るかと思います。それが仮に土の上だとしても。それに、それなりの重さがあったあの箱が手から離れれば、まず普通に気づくはずです」
しかし、寅三郎は気づかなかった。彼自身は確かに敷地に入った時もそれを手にしていた。それは猿田も見ていた。と、なるとーー
「あ!」猿田は声を上げた。「あの女ぁ!」
漸く気づいたようだった。いうまでもなく、あの箱はお雉が盗んで行ったのだった。持っていたモノが唐突になくなる。考えられるとしたら、お雉しかいなかった。
「でも、わたしは確かにしっかりと持っていたのですが......」
そういうのを関係なしにモノを盗んで行くのがお雉という女だった。まぁ、その結果、今酷い目に遭っているのだが。寅三郎は猿田の説明を聴いて納得したと共にハッとした。
「だとしたら、今、あの箱は......」
いうまでもなく、玄関、表門のほうである。老人を遠ざけるために盗んで邸内に持って来たというのに、これではまた逆戻り。
「どうすればいいんだ......」
猿田は珍しく頭を抱えた。
【続く】
猿田源之助と牛野寅三郎も同様だった。今さっき確かに老人から盗んで来た荷物がいつの間にかなくなっている。
「落としたんじゃ......」
猿田がそういうのも無理はなかった。それ以外にあの大きさの荷物をなくすことはないだろうから。だが、寅三郎はーー
「それは、ないと思います」少しいいづらそうにいった。「あの大きさの木箱なら落とした時に結構な音が出るかと思います。それが仮に土の上だとしても。それに、それなりの重さがあったあの箱が手から離れれば、まず普通に気づくはずです」
しかし、寅三郎は気づかなかった。彼自身は確かに敷地に入った時もそれを手にしていた。それは猿田も見ていた。と、なるとーー
「あ!」猿田は声を上げた。「あの女ぁ!」
漸く気づいたようだった。いうまでもなく、あの箱はお雉が盗んで行ったのだった。持っていたモノが唐突になくなる。考えられるとしたら、お雉しかいなかった。
「でも、わたしは確かにしっかりと持っていたのですが......」
そういうのを関係なしにモノを盗んで行くのがお雉という女だった。まぁ、その結果、今酷い目に遭っているのだが。寅三郎は猿田の説明を聴いて納得したと共にハッとした。
「だとしたら、今、あの箱は......」
いうまでもなく、玄関、表門のほうである。老人を遠ざけるために盗んで邸内に持って来たというのに、これではまた逆戻り。
「どうすればいいんだ......」
猿田は珍しく頭を抱えた。
【続く】