【コマンドサンボで夏死すべし】

文字数 3,125文字

 人間、生きていれば誰だって間違いを犯すことはある。

 というか、この世に生を受けてパーフェクトに正しかった者などひとりもいない。みんな何かしらの失敗を犯し、その果てに軌道を修正して今があると考えると、やはり人間は失敗から学び、生きているのだなぁと思うのだ。

 まぁ、「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」ということばもあるが、これは決して失敗の経験をすることが愚者であるということに直結するワケではないとおれは思うのだ。

 当然、悪例のようなモノがたくさんある中で、同じ轍を踏むのは愚者といわざるを得ないけど、中には明確な答えのないモノや、経験として自分の脳や身体に技術を落とし込まなければならないモノも一定数は存在するワケで、そう考えると、必ずしも経験から学ぶ者が愚者ともいい切れないと思うのだ。

 ちなみに、この「賢者は歴史から学ぶ」だが、おれはこれを昔話ではなく、今、自分の目の前で起きていることも「歴史」に含まれていると考えている。

 つまり、自分以外の誰かがやらかした経験もそれは現在進行形の「歴史」であると捉えることができるのでは、ということだ。

 それはさておき、やはりどんな賢者であろうとも、失敗はすると思うのだ。

 そのシチュエーションとしては、当然先ほどいったような、明確な答えのないモノに取り組む時だったり、答えがあっても、その時々の体調、精神状況、肉体的なハンディによって判断能力が鈍っている場合がそうだ。

 そういう場合はどうしようもない、仕方ないと割り切るしかないだろう。

 ただ、マズイのは明らかな準備不足や勉強不足によって失敗することだ。こればかりは目も当てられない。こういったシチュエーションこそが「愚者は経験から学ぶ」に当てはまるといえるのかもしれないが、これは半分正解で半分は違うと思うのだ。

 というのも、こういった失敗をするヤツは基本的にまた同じ失敗を繰り返す傾向にあるということだ。それは結局のところ、経験から何も学んでいないということになる。

 まぁ、または一度目の失敗ーー即ち初めての段階では勝手がわからず、失敗も当然起こりうると考えて、それをひとつの「歴史」と定義付け、二度目、三度目以降の失敗を重ねた「経験」として定義付けるとするならば、「賢者は~、愚者は~」というのも当てはまると思うのだが、これは話が複雑かつややこしく、自分でも何いってるかわからなくなりそうなので、この話はここで終わり。

 早い話が、馬鹿でも聡明でも、失敗なんてモノは誰でもやりうるということだ。

 かくいうおれもいい年して致命的なバカなだけあって、やはり失敗の経験は多い。それも普段から不注意な上に、コンディションも悪いのだから失敗の頻度も笑いごとでは済まされないレベルで、だ。

 この前の居合の稽古でも、師匠に昇段試験の模擬稽古をつけて頂いたのだけど、

 見事に不合格だったワケだ。

 その理由はーー

 勘違いして、指定された業以外の業をやってしまったからである。

 これは技術が足りないとかではなくて、もはや頭が足りていないワケで目も当てられない。

 まぁ、本番でそれをやらなかった分、幸いっちゃ幸いで、今の内にこの失敗をやらかしておけば、後で同じことをしないための材料にはなるのでそれはそれでいいのだけどーー

 おれが同じミスをしないワケがないよな。

 こればかりは本当に気をつけないとマジでヤバイだろうなと今から自戒の日々である。

 とまぁ、おれレベルのマヌケさは別としても、こういった致命的な勘違いによるミスは誰だってやり得ることなのはいうまでもないということだ。さて、今日はそんな話ーー

 あれは二年前のことだった。その日はウィークデーで、おれも普通に働いていたのだ。

 まぁ、とはいえうだつの上がらない、日にひとつは業務中にミスをする五条氏ではあるのだけど、そんなおれもちょっとした楽しみがあったワケだ。それはーー

 かつなさんをイジることだった。

 また初登場のヤツが出てきたよと思われるかとしれないけど、実はこの駄文集の中で一度か二度かつなさんのことを話したことがある。それは、初期の頃に書いた同僚を経歴を詐称しまくるみたいな話でなのだが、そこに書いた経歴というのがまたメチャクチャなのだ。

 例を挙げると、かつなさんはムジャハディーンの首領だった父とKGBのトップエージェントだった母から生まれ、誕生時は身長五メーター八十二、体重二百キロ、邪馬台国の初代皇帝で、南北朝の時代には後鳥羽上皇を島流しにし、安土桃山では、信長を暗殺後、明智に罪を擦り付け、秀吉を影から操る黒幕となったが、後に大坂の陣ではコマンドサンボを駆使してたったひとりで豊臣の軍勢を壊滅させたというとんでもないモノだったワケだ。

 まぁ、上に挙げた経歴はまだほんの氷山の一角で、他にもコマンドサンボを駆使してひとりで旅客機の墜落を食い止めたとか、マーシャルアーツで自分の体内に巣食うステージ4のガン細胞を壊滅させたとか、整形手術を重ねて約六メートルあった身長を一メーター七〇まで落としただとか、ママチャリで太平洋を横断しただとか、邪馬台国の時代から世界各国の戦争すべてに兵士として参戦して生き残っているだとかそんな話ばかりなのだけど、下らな過ぎるんでこれ以上はいわないでおく。てか、そんなヤツいたらこの世界は終わっているだろうに。

 まぁ、そんな感じなんで当然頭も良くて、レニングラード国立大学を主席で卒業しているとウワサのかつなさんなのだけど、ある日突然、

「何だこれ」

 と大天才にあるまじき疑問を呈したのだ。まぁ、そうなるとおれも気になって仕方がないワケで、横目でかつなさんが何をまたワケのわからないことをやっているのか伺ってみたのだ。

 するとどうやら、かつなさんは何かの伝票を見ているらしかった。それで、おれも更なる観察を続けたのだけど、かつなさんは徐に、

「誰だこれ、坂野?」

 と、その伝票に書いてある名前を読み上げたのだ。で、おれもかつなさんからその伝票を取り上げて内容を確かめたのだけど、

 坂野なんて名前、どこにも書いてなかったのだ。

 ちなみに、字のサイズは比較的大きめ。かつなさんもネタは抜きにして目は普通にいい人だった。だとしたら、どうしてーー

 が、おれは気づいてしまったのだ。というのも、かつなさんはーー

「板野」を「坂野」と読み間違えていたのだ。

 いやいや、どう間違えたら板野と坂野を読み間違えるんだよって話だけど、かつなさんレベルの大天才なら何をどう間違えるかなんてわからない。そもそも猿も木から落ちるというではないか。と、そこでかつなさんがいったのは、

「字が小さくて読めねぇんだよ」

 何度もいうようだが、かつなさんは目がよくて、かつ伝票の字も大きかった。つまり、

 読み間違いようがないのだ。

 これにはおれも大天才が字を読み間違えたとバカ丸出しで騒ぎ立てることしかできなくなってしまったワケだ。下賤な民、五条。

 とまぁ、こんな感じでレニングラード国立大を主席で卒業したかつなさんでも漢字の読み間違えくらいはするのだ。おれみたいな穢多非人が間違いを犯すことなどーー

 流石にバカにし過ぎか。

 ちなみに、かつなさんは現在十二才年下の彼女のヒモとなって悠々自適な生活をしているというウワサが立てられているけど、おれはそうは思っていない。かつなさんのことだ、多分、イスラエル辺りの軍隊にでも入ってクラヴマガの指導でもしてるに違いないーー

 んなワケねぇか。

 ちなみに、夏が擬人化したらかつなさんが得意のコマンドサンボで始末してくれるとのこと。有り得ねぇよな。暑き夏死すべし。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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