【帝王霊~玖拾玖~】
文字数 1,077文字
暗闇そのもの、といった感じだった。
そこにあるのは無限の闇。木の葉がザラザラ揺れる音はまるで怨霊の呻き声のようだった。これまでにない恐怖がぼくの心臓を鷲掴みにしていた。
これまで何度となく生活安全委員の仕事をして来たとはいえ、それは学校という小さなコミュニティでの、命の保証のある仕事でしかなかった。もちろん、辻たちにボコボコにされた時も、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。仮にイジメにあって、精神的に追い詰められれば、自殺していたかもしれない。死の恐怖は日常の何処にでもあるというのに、こういう時ばかり、そういった悪魔は笑みを浮かべて人のことを手招きしている。
吐き気が止まらない。これまで味わったことのない緊張感がぼくの身体を凍りつかせた。怖い。怖くて仕方がない。
そもそも、本当にここにいるかなんてわかりはしない。これは殆どぼくの勘でしかない。でも、恐怖はどこまでもぼくを追い詰める。ぼんやり浮かぶ寺の本堂は不気味そのモノだった。本来ならば神聖な建物のはずなのに、夜闇に紛れると、他の何処よりも不気味に見えた。ほんと、悪霊たちが飛び出して来んばかりの様子だった。
ジャリッ、ジャリッという靴底が敷き詰める小石を踏み締める音が耳と神経に響き渡った。目が血走っているように神経が行き渡っていた。風の音がうるさかった。
微かな音が聞こえた。
何の音だかはわからなかった。ひとついえるのは、これがぼく自身、そして自然が起こした音ではないということだった。
ぼくは辺りの音に集中した。やはり、何か聞こえるのだ。微かな、吐息のようなモノが。スマホを取り出すべきか迷った。あまりの暗さにライトを点けようかと思った。だが、辺りが見渡せる安心感は、逆にぼくの居場所を知らせて自分の身を危機に陥らせるだけの材料にもなることに気づいてしまった。ぼくは尻ポケットに伸びた手を静かに引っ込めた。
また、何か音がした。
自分の心音までが聞こえて来るほどに緊張がぼくの身体を侵していた。いつしか視界がブレ始めていた。悪い意味で集中が切れていた。逃げたいという気持ちが強くなった。
また音がした。
ぼくはハッと振り向いた。闇の奥。ぼくはその場にある石を拾い上げ、音のしたほうへと投げつけた。
鈍い音がした。
何に当たったかといえば、少なくとも固いモノではない。ある程度の弾力があるモノ。確かに草の音はしたが、草の音は弾力のある何かに当たった後に聞こえて来た。おそらくネズミやネコではないだろう。動物なら石が当たれば鳴き声を上げるはずだからだ。
ぼくは闇を注視した。
【続く】
そこにあるのは無限の闇。木の葉がザラザラ揺れる音はまるで怨霊の呻き声のようだった。これまでにない恐怖がぼくの心臓を鷲掴みにしていた。
これまで何度となく生活安全委員の仕事をして来たとはいえ、それは学校という小さなコミュニティでの、命の保証のある仕事でしかなかった。もちろん、辻たちにボコボコにされた時も、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。仮にイジメにあって、精神的に追い詰められれば、自殺していたかもしれない。死の恐怖は日常の何処にでもあるというのに、こういう時ばかり、そういった悪魔は笑みを浮かべて人のことを手招きしている。
吐き気が止まらない。これまで味わったことのない緊張感がぼくの身体を凍りつかせた。怖い。怖くて仕方がない。
そもそも、本当にここにいるかなんてわかりはしない。これは殆どぼくの勘でしかない。でも、恐怖はどこまでもぼくを追い詰める。ぼんやり浮かぶ寺の本堂は不気味そのモノだった。本来ならば神聖な建物のはずなのに、夜闇に紛れると、他の何処よりも不気味に見えた。ほんと、悪霊たちが飛び出して来んばかりの様子だった。
ジャリッ、ジャリッという靴底が敷き詰める小石を踏み締める音が耳と神経に響き渡った。目が血走っているように神経が行き渡っていた。風の音がうるさかった。
微かな音が聞こえた。
何の音だかはわからなかった。ひとついえるのは、これがぼく自身、そして自然が起こした音ではないということだった。
ぼくは辺りの音に集中した。やはり、何か聞こえるのだ。微かな、吐息のようなモノが。スマホを取り出すべきか迷った。あまりの暗さにライトを点けようかと思った。だが、辺りが見渡せる安心感は、逆にぼくの居場所を知らせて自分の身を危機に陥らせるだけの材料にもなることに気づいてしまった。ぼくは尻ポケットに伸びた手を静かに引っ込めた。
また、何か音がした。
自分の心音までが聞こえて来るほどに緊張がぼくの身体を侵していた。いつしか視界がブレ始めていた。悪い意味で集中が切れていた。逃げたいという気持ちが強くなった。
また音がした。
ぼくはハッと振り向いた。闇の奥。ぼくはその場にある石を拾い上げ、音のしたほうへと投げつけた。
鈍い音がした。
何に当たったかといえば、少なくとも固いモノではない。ある程度の弾力があるモノ。確かに草の音はしたが、草の音は弾力のある何かに当たった後に聞こえて来た。おそらくネズミやネコではないだろう。動物なら石が当たれば鳴き声を上げるはずだからだ。
ぼくは闇を注視した。
【続く】