【モノローグ~牙鳥~】
文字数 2,056文字
ーー暗転の中、爆発(SE:爆発2)、雨が降る(SE:街を襲う集中豪雨)。明転すると、そこには五条。とドアをノックする音(SE:木のドアをノック)、ドアが開き閉じる音(SE:ドアを開ける&ドアを閉める)がすると、客席側から相手が登場ーー
「またとなし、と鳴くカラスのことはご存知ですか?......いやぁ、これは失礼。先にお部屋で待たせて頂きました。お掛け下さい。
......にしても酷い雨ですね。もう何時間も経ちますか。お陰でこの山奥のロッジも封鎖状態。何があっても山岳警備隊は来れないし、あらゆる音も雨に消える。オマケに麓で起きた殺人事件の犯人が拳銃を持ってここに紛れ込んでいるというのだから困ったモンです。......とまぁ、ちょっとお話があるんですが、よろしいですか?」
(何、ですか......?)
「もうお分かりかとは思いますが、一連の殺人事件に関してです」
(な、何ですか急に!)
「何ですかって、言ってませんでしたっけ。実はわたしーー」
ーー五条、懐から警察手帳を出すーー
「こういう者です」
(警察......?)
「えぇ。最初は『公務員』といいましたが、刑事だったんです。まぁ、今は非番ですし、一般の方たちに変な緊張を与えないためにも『公務員』と名乗ることにしていたんです」
(でも、その手帳は......)
「非番なのにどうして手帳を持っているのか、ってことですか?
いやぁ、鋭いですね。確かに非番の時は、手帳は署で管理することになっているんですが、最近では一部の都道府県や部署では非番でも持ち歩けるようになったんです。
例えば、詐欺や暴行、殺人といった事件に遭遇した場合はいち早く対応しなければならないですからね」
(そ、そんな......!)
「......それにしても、管理人は何処へ行ってしまったんでしょう。ガレージには管理人の車はなかった。逃げたとも考えられますが、地面にはヒューズの残骸と漏れたブレーキオイルが残されていた。さっき外で凄い音がしましたね。そして夜だというのに可笑しな明かりが見えている。もしかしたら、あれは車が爆発炎上したモノかもしれません。ほんと、ここまで良くやりましたね」
(......何を言ってるんだ、犯人はーー)
「えぇ、犯人はーーアナタです」
(......はぁ?)
「驚かれるのも当然かと思いますが、わたしも適当に推理をしているワケではありません。アナタが犯人であるという決定的な根拠があるんです。それはーー
ここで生き残っているのが、わたしとアナタのふたりしかいないということーーつまり、必然的に犯人はアナタということになる。
犠牲になった方たちのことを思うと胸が痛みますが、何の証拠もなく逮捕は出来ませんからね。とはいえ、凶器の隠し場所なんてそう多くはありません。例えばこの中にでもーー」
ーー五条、下手側のカーテンの中をあさるーー
「あぁ!」
ーー五条、カーテンから顔を出す。と、そこには拳銃が握られているーー
「見つけましたよ。45口径。管理人は行方不明としても死んだ四名は見事に頭を撃ち抜かれていた。それも後頭部から大きな口径で。何の抵抗もなく犯人に背を向けられるのは、犯人が被害者たちにとって心を許せる相手だった、ということ。そして、この口径と弾頭に残ったシリンダー痕は麓の殺人のモノと一致する。
わたしの今回のミスは、自分と犯人以外のすべての人が犠牲になった後で犯人逮捕に踏み切らなければならなくなったことです。でも、それも仕方がない。
......アナタを逮捕します」
ーー暗転。だが、また明転する。五条は突然、手首を叩いて拍手するーー
「いぇーい、ドッキリ大成功! 驚きました? 実はこれ、アナタのお友達が仕掛けたドッキリだったんです」
(......ドッキリ?)
「えぇ。アナタ、今度お誕生日ということじゃないですか。それでね、ドッキリを仕掛けてお祝いしようとアナタのお仲間が企画したんですよ!」
(じゃあ、アナタは......)
「わたしですか? アナタのお友達の知り合いの俳優ですよ。いやぁ、いいお芝居だったでしょう? これもね、小道具のモデルガンなんです」
(......そうだったんですか)
「えぇ、驚かせてごめんなさいね。お友達ももちろん死んでません。あれはちょっとした血糊でしてね。でも、麓であんなことが起きたと聞かされたら気が気じゃないですよね。
でも、大丈夫です。お友達は下で待ってます。すぐに顔を見せてあげて下さい」
(......そうですか、ありがとうございます)
ーー五条、ドアのほうへと向かう男を見送るーー
「あ、ひとつ言い忘れてました。今の全部ウソです」
ーー五条、去り行く男に向かって銃を撃つ(SE:狙撃銃発射)。と、静かに前を向くーー
「かくしてカラスは、飛び立たず、じっと止まっているーー止まっている。そしてわたしの魂が床に浮かんでいる影から、逃れることもーーまたとあるまい」
ーー暗転、銃撃(SE:狙撃銃発射)ーー
【終幕】
「またとなし、と鳴くカラスのことはご存知ですか?......いやぁ、これは失礼。先にお部屋で待たせて頂きました。お掛け下さい。
......にしても酷い雨ですね。もう何時間も経ちますか。お陰でこの山奥のロッジも封鎖状態。何があっても山岳警備隊は来れないし、あらゆる音も雨に消える。オマケに麓で起きた殺人事件の犯人が拳銃を持ってここに紛れ込んでいるというのだから困ったモンです。......とまぁ、ちょっとお話があるんですが、よろしいですか?」
(何、ですか......?)
「もうお分かりかとは思いますが、一連の殺人事件に関してです」
(な、何ですか急に!)
「何ですかって、言ってませんでしたっけ。実はわたしーー」
ーー五条、懐から警察手帳を出すーー
「こういう者です」
(警察......?)
「えぇ。最初は『公務員』といいましたが、刑事だったんです。まぁ、今は非番ですし、一般の方たちに変な緊張を与えないためにも『公務員』と名乗ることにしていたんです」
(でも、その手帳は......)
「非番なのにどうして手帳を持っているのか、ってことですか?
いやぁ、鋭いですね。確かに非番の時は、手帳は署で管理することになっているんですが、最近では一部の都道府県や部署では非番でも持ち歩けるようになったんです。
例えば、詐欺や暴行、殺人といった事件に遭遇した場合はいち早く対応しなければならないですからね」
(そ、そんな......!)
「......それにしても、管理人は何処へ行ってしまったんでしょう。ガレージには管理人の車はなかった。逃げたとも考えられますが、地面にはヒューズの残骸と漏れたブレーキオイルが残されていた。さっき外で凄い音がしましたね。そして夜だというのに可笑しな明かりが見えている。もしかしたら、あれは車が爆発炎上したモノかもしれません。ほんと、ここまで良くやりましたね」
(......何を言ってるんだ、犯人はーー)
「えぇ、犯人はーーアナタです」
(......はぁ?)
「驚かれるのも当然かと思いますが、わたしも適当に推理をしているワケではありません。アナタが犯人であるという決定的な根拠があるんです。それはーー
ここで生き残っているのが、わたしとアナタのふたりしかいないということーーつまり、必然的に犯人はアナタということになる。
犠牲になった方たちのことを思うと胸が痛みますが、何の証拠もなく逮捕は出来ませんからね。とはいえ、凶器の隠し場所なんてそう多くはありません。例えばこの中にでもーー」
ーー五条、下手側のカーテンの中をあさるーー
「あぁ!」
ーー五条、カーテンから顔を出す。と、そこには拳銃が握られているーー
「見つけましたよ。45口径。管理人は行方不明としても死んだ四名は見事に頭を撃ち抜かれていた。それも後頭部から大きな口径で。何の抵抗もなく犯人に背を向けられるのは、犯人が被害者たちにとって心を許せる相手だった、ということ。そして、この口径と弾頭に残ったシリンダー痕は麓の殺人のモノと一致する。
わたしの今回のミスは、自分と犯人以外のすべての人が犠牲になった後で犯人逮捕に踏み切らなければならなくなったことです。でも、それも仕方がない。
......アナタを逮捕します」
ーー暗転。だが、また明転する。五条は突然、手首を叩いて拍手するーー
「いぇーい、ドッキリ大成功! 驚きました? 実はこれ、アナタのお友達が仕掛けたドッキリだったんです」
(......ドッキリ?)
「えぇ。アナタ、今度お誕生日ということじゃないですか。それでね、ドッキリを仕掛けてお祝いしようとアナタのお仲間が企画したんですよ!」
(じゃあ、アナタは......)
「わたしですか? アナタのお友達の知り合いの俳優ですよ。いやぁ、いいお芝居だったでしょう? これもね、小道具のモデルガンなんです」
(......そうだったんですか)
「えぇ、驚かせてごめんなさいね。お友達ももちろん死んでません。あれはちょっとした血糊でしてね。でも、麓であんなことが起きたと聞かされたら気が気じゃないですよね。
でも、大丈夫です。お友達は下で待ってます。すぐに顔を見せてあげて下さい」
(......そうですか、ありがとうございます)
ーー五条、ドアのほうへと向かう男を見送るーー
「あ、ひとつ言い忘れてました。今の全部ウソです」
ーー五条、去り行く男に向かって銃を撃つ(SE:狙撃銃発射)。と、静かに前を向くーー
「かくしてカラスは、飛び立たず、じっと止まっているーー止まっている。そしてわたしの魂が床に浮かんでいる影から、逃れることもーーまたとあるまい」
ーー暗転、銃撃(SE:狙撃銃発射)ーー
【終幕】