【殺意の波動に目覚めた健太郎くん】

文字数 2,516文字

 弱い犬ほどよく吠えるという。

 ほんとその通りだと思う。というのも、調子に乗るヤツは基本的にギャンギャン吠えるし、その割には大体ろくな仕事もしないからだ。

 まぁ、それだけ口が発達しているのなら別にいいのではないかと思えなくもないのだけど、そういうヤツは残念なことに、発達したのは口周りの筋肉だけで、語彙力やワードセンスはほぼなく、奥行きのある会話もできないのが殆どだ。

 そりゃ、人前で話をする能力に長けているのならいい。頭のいい会話ができなくとも、異性にモテる会話術を体得しているのなら、それだけでも価値があるし、それも立派なスキルであることはいうまでもない。

 ただ、問題は偉そうにしている割に知性やセンスがまったく感じられないヤツだ。

 こういうヤツは往々にしてすぐ人に突っ掛かる。自分が理解できない、納得できないことには、仮にそれがどんなに合理的な話であっても、NOのひとことですべてを覆そうとする。

 まぁ、よくここで話す「老害」というのが、そういったタイプなのだけど、こういった人たちは年齢が上な分、余計に質が悪い。

 この世の中には、年長者に意見を申し立てられる気概のある人は少ない。だからといって、おれみたいなチンピラばかりになれというワケでもないけどな。

 ただ、何もギャンギャン吠えるのは老害だけではない。若いヤツでもケンカ腰の子犬みたいにやたらと喚き散らしたり、人に突っ掛かるバカはたくさんいる。

 まぁ、そういうヤツはちょっと強く出ただけでビビって突っ掛かるのを止めたり、危害を加えるのを止めたりしちゃうんだけどな。

 さて、今日も二千字目標で書いていこうかね。じゃ、やってくーー

 あれは中学三年の年末のことだった。

 ある日ーーおれは学校をハネて塾の教室で自習していたのだ。そのまま時は経ち、授業の時間となると先生が入ってきたのだけど、どうも先生の顔が険しく見えた。

 おれの通っていた塾の先生は、基本的に冗談が好きで教室に入ってくる時は大体笑顔なのだが、極たまに、表情が険しい時がある。

 表情が険しい時ーーそれは誰かが何かをやらかしただとか、成績が余りにもよろしくなかっただとか、生徒の気が緩んでいただとか、おおよそそんな時だ。

 これはきっとまた何かがあったのだろう。そんなのは想像するのも容易かった。

 椅子に座る先生ーー座るなりおれのほうを見て、こんなことをいった。

「五条くん、麦藁くん大変だなぁ」

 唐突にそんなこといわれても何のことかわからなかった。だが、確かに教室に麦藁の姿がなかった。この時の麦藁は一応は真面目な男で、塾の授業をサボることはなかった。

 何のことかわからず、おれは先生に訊ね返した。すると、

「黒板消しで顔を殴られて大変なんだってさ」

 どういうこと?

 これにはおれも思わず声を上げた。だが、詳しい話はその場ではわからなかった。

 麦藁のことは覚えているだろうか。『体育祭篇』で登場した、人のことをバカにしては悦に入る可笑しな男子だ。

 おれとはまぁまぁ仲がよかったのだけど、一時期しょっちゅう人のことをバカにする麦藁のその性格に、おれもぶちギレてしまい、険悪な仲になったことがあった。

 まぁ、黒板消しで顔面を殴られたというと、どうせろくでもないことをやったのだろう。結局、その日はそれ以上麦藁を心配することもなく、そのまま授業は開始された。

 翌日、学校に行くと顔をボッコボコに腫らした麦藁が自分の机にぽつんと座っていた。まるで破裂寸前のシュークリームーー間違いなく不味い。

 そんなことは気にせずに、麦藁に何があったのか訊ねてみるとーー

「鳶にやられたんだよ!」

 鳶といっても「鳶職」のことではない。ここでいう鳶とは「健太郎くん」のことである。

 ただ、これで殆どの真相が解明されてしまった。健太郎くんは人に対して意味もなく暴力を奮うことはない。ということはーー

 先に仕掛けたのは、麦藁ということだ。

 これは疑いようがなかった。そこで、おれは健太郎くんに話を訊いてみることに。

「昨日、麦藁と何かあったの?」

 そう訊ねると健太郎くんは、

「違うんだよ! アイツが先にやってきたんだよ!」

 と、そこへキャナが爆笑しながらやって来まして、

「いやぁ、マジすごかったよ! 現実で瞬獄殺を見れるとは思わなかったわ」

 とキャナがいうと、健太郎くんはキャナの口を塞ごうとしたのだけど、キャナはそれに抵抗しながらもすべてを語ってくれました。何でもこういうことらしいーー

 前日の放課後、おれが帰宅した後のことだ。

 おれと健太郎くんは、いつも一緒に帰っていたのだけど、その日はたまたま学校でやることがあった健太郎くんは、そのまま教室に残っていたのだ。

 で、その時、教室にはキャナ、麦藁、健太郎くんの三人がいたそうで。そんな中、キャナが教室を出たのだが、忘れものを思い出し、すぐに踵を返して教室に戻ったのだという。そしたらーー

 麦藁が倒れていたというのだ。

 そして、その横には肩で息を切る健太郎くんの姿があったという。

 キャナが一度教室を出て戻るまでの間、掛かった時間は僅かに二分弱、まさに瞬獄殺といった感じだったという、

 そこから問題が発覚、現在に至るというのだ。

「でも、どうして麦藁をぶん殴っちまったんだよ?」

 そう訊ねると、健太郎くんは焦りを見せつつ、その状況を説明した。

 何でも、キャナが教室を出た直後、麦藁がふざけて健太郎くんの制服をチョークの粉がたっぷり着いた黒板消しで汚したのだそう。

 それで健太郎くんがぶちギレた。

 すぐさま黒板消しを麦藁の手から奪い、そのまま顔面にチョークまみれの黒板消しをぶち込んだのだという。で、そこにキャナが帰って来てーー

 瞬獄殺の完成というワケだ。

 これにはおれも苦笑するしかなかった。確かに健太郎くんは過剰にやり返してしまったかもしれない。だけど、

 切っ掛けは麦藁だったんかい。

 そりゃ、黒板消しでぶん殴られても文句はいえんよな。

 結局、それから一、二週間程は、麦藁の顔が不味そうなシュークリームみたいになっていましたとさ。まぁ、自業自得だよな。

 人には優しく、な。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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