【冷たい墓石で鬼は泣く~捌拾睦~】
文字数 659文字
休んでいる暇はもはやなかった。
わたしは人質に取った男の両手を縛り、口に布を噛ませ喋るのを困難にすると、提灯を持って空き家を去った。
どれだけ歩いたかはわからない。ただ、未だに月が出ており、辺りはまだ夜の闇が粘りついているところからして、そんなに長くは歩いていないに違いなかった。
恐らく、やたらと長い間歩いていたように思えたのは、わたしの身体に沈み込んだ疲れが溢れ出さんとしているからだろう。限界がすぐそこにまで来ている。少しは休んでから行けば良いだろうとも思われるだろうが、明日もまだ命が残っているとは限らない。人質を拘束しているからといって逃げられないとは限らないし、あの小屋での殺戮の後、連中が帰って来なければ、様子を見に来ることはいうまでもないだろう。それに、あの空き家も見つかることなく素通りされるとも限らない。ならば、多少無理をしても、今ここで決着をつける必要がある。
歩みを止めた。その先にはやや古びた建物だった。外の壁の木々はやや腐っているようにも見えた。ちょっとした隙間から漏れ出る灯りとガヤガヤした喧騒は中にいる人の多さを物語っていた。わたしは唾を飲んだ。
「あそこだよ」
布を噛ませているせいで殆どのことばは潰れていたが、男がそういっていることは容易に聞き取れた。わたしは軽く返事をした。男に突き付けていた刀の切っ先が震えて、今にも男の背中に突き刺さらんばかりだった。男に少し刺さってしまったのか相変わらず潰れた声でわたしを非難するように小さく喚いた。
マズイ、早く終わらせなければ。
【続く】
わたしは人質に取った男の両手を縛り、口に布を噛ませ喋るのを困難にすると、提灯を持って空き家を去った。
どれだけ歩いたかはわからない。ただ、未だに月が出ており、辺りはまだ夜の闇が粘りついているところからして、そんなに長くは歩いていないに違いなかった。
恐らく、やたらと長い間歩いていたように思えたのは、わたしの身体に沈み込んだ疲れが溢れ出さんとしているからだろう。限界がすぐそこにまで来ている。少しは休んでから行けば良いだろうとも思われるだろうが、明日もまだ命が残っているとは限らない。人質を拘束しているからといって逃げられないとは限らないし、あの小屋での殺戮の後、連中が帰って来なければ、様子を見に来ることはいうまでもないだろう。それに、あの空き家も見つかることなく素通りされるとも限らない。ならば、多少無理をしても、今ここで決着をつける必要がある。
歩みを止めた。その先にはやや古びた建物だった。外の壁の木々はやや腐っているようにも見えた。ちょっとした隙間から漏れ出る灯りとガヤガヤした喧騒は中にいる人の多さを物語っていた。わたしは唾を飲んだ。
「あそこだよ」
布を噛ませているせいで殆どのことばは潰れていたが、男がそういっていることは容易に聞き取れた。わたしは軽く返事をした。男に突き付けていた刀の切っ先が震えて、今にも男の背中に突き刺さらんばかりだった。男に少し刺さってしまったのか相変わらず潰れた声でわたしを非難するように小さく喚いた。
マズイ、早く終わらせなければ。
【続く】