【帝王霊~捌拾~】

文字数 1,168文字

 皮膚を打つ音がこだましていた。

 とある一室、椅子に座らされ縛られた女性がグッタリしていた。女性は鈴木詩織だった。顔には無数のアザが浮かんでいた。目は完全に生気を失っており、ぽっかりと開いた口からは穴の開いたボンベのように吐息が漏れていた。衣服はボロボロになっていた。ズタズタになったシャツからは皮膚に沈殿したアザが見えていた。下はパンツ一丁で、主に太ももがどす黒いアザを見せていた。

「いう気になったか?」

 そういったのは髪の長い男だった。男は身長の高いほっそりとした体型で、黒のスキニーに蛇柄のシャツを着ていた。目は蛇というよりは悪意ある狐目ではあるが、見た感じは悪党というよりは、そこら辺の美容室にいそうなそんな雰囲気だった。右手には乗馬用の鞭が握られていた。そう、詩織を何度も殴打した得物がその鞭だった。

 詩織は何もいわず、何の反応も見せなかった。はぁはぁと微かな吐息を吐き続けるばかりで、他に何の反応も見せなかった。

「女ぁ、いい度胸だな」

 男は鞭を振り上げ、一気に振り下ろした。再び皮膚が弾ける音がした。鞭は詩織の顔を、身体を、脚を何度も弾き、殴打した。激しく打つ鞭は詩織の身体をとうとう引き裂き、口許から、頬から、胸から、腿から血が流れ出し始めた。

 詩織は俯いていた。呼吸は荒くなり、寒さからか全身がブルブルと震えていた。

「しぶとい女だな、さっさとーー」

「どうするんだ?」

 突然、第三者の声が男の声を制した。男は振り返った。と、突然、顔が弾かれた。男は思い切り倒れ、頭を地面に強く打ち付けた。男は呻いていた。男を殴りつけた者は、そのまま男の頭を何度も蹴り、踏みつけた。何度も何度も頭に衝撃を受けた男は痙攣し、そしてそのまま動かなくなった。

 祐太朗ーー呼吸を荒くして倒れた男を見下ろしていた。顔は阿修羅のように歪んでいた。顔がボコボコに変形した男の顔面を最後にもう一度蹴り飛ばすと、祐太朗は詩織のほうへと飛んで行った。

「詩織、大丈夫か!?」

 声を掛けても詩織はうっすらとしか反応を見せなかった。祐太朗はもう大丈夫といい、詩織を拘束していた縄を、男が机の上に用意していたナイフで切った。

 詩織の身体がまるで壊れた人形のようにだらりとした。祐太朗は詩織の身体を支え、何度も何度も名前を呼んだ。

「お兄ちゃん......」詩織はうっすらと笑みを浮かべ、吐息混じりにいった。「ありがとう......」

 そういうと詩織はだらんと肩を落とし、首を垂らした。祐太朗は尚も詩織の名前を呼んだ。強く、より強く名前を呼んだ。

 だが、詩織は何の反応も示さなかった。

 祐太朗は詩織を抱き締めた。強く、強くーー詩織の肌が白くなるほど強く。だが、詩織はもう何の反応も示さなくなっていた。

 祐太朗は尚も詩織の名前を呼び続けた。

 すすり泣く声が響いた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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