【扉の先、ノスタルジア】

文字数 2,807文字

 旧友との再会をどう思うだろうか。

 そこには驚きもあるだろう。喜びが込み上げて来ることもあるだろう。はたまた、何か複雑な思いもあるかもしれない。

 いずれにせよいえるのは、昔の友人と会うというのは、何かしらこころが動かされる出来事のひとつであろうということだ。

 そして、それがまたそれなりに時間の空いた相手となると、また格別だろう。

 下手したら、殆んど他人のように接することしかできないかもしれない。時間と距離感が隔てた関係を元に戻すのは容易なことではない。

 ただ、かつて同じ教室で、同じ黒板を見て勉強していたーーそう考えると、また違ってくる。遠いセピア色の過去の中で、自分は友人たちと楽しくやっている。

 そんな記憶が鮮やかな色彩を持つのもそう難しいことではない、とおれは思うのだ。

 あれは三年前の年末のことだった。

 年末ムードで気分は高揚しつつも、仕事内容もハードになり、肉体的な疲れが全身に鈍くのし掛かって来るような感じの中、唐突にこんなメッセージが入った。

「久しぶり! 今度、写真展で自分の写真を出展することになったんだ。よかったら観に来て欲しいな。日時はーー」

 そういって、写真展の知らせとチラシを送って来たのは、高校時代の友人である馬渕だった。

 馬渕は高校二、三年で一緒のクラスだったヤツだった。馬渕は非常に特徴的な容姿の持ち主で、確かホルモンの関係か何かで、身長が1メートルぐらいしかなかった。

 まぁ、そんな感じではあったので、何かと彼に気を遣い過ぎたり、容姿を「可愛い」といったりする人は多かったのだけど、おれはそんな馬渕でも雑に扱っていた。

 というより、おれは馬渕を同じクラスの友人のひとりとして扱っていたこともあって、変に気を遣うつもりもなく、他の人と大差ない扱いをするようにしていた。

 というか、思春期の男に「可愛い」は、本人的にも複雑だと思うし、扱いを特別にしていい気になれるかといっても、そうでもないと思うしな。

 そんな彼も人並みに高校を卒業し、大学に行き、バンドを組んだり、普通の大学生と変わらぬ生活を送り、普通に就職したのだが、そんな彼と最後に会ったのは、大学四年に上がる前ーー地震が起きる前でかつ、まだおれがパニックになる前のことだった。

 その時までは、まだ高校時代の仲の良かった友人たちともコンスタントに会う習慣があった。が、それもいつの間にかなくなり、今でも関係のある高校時代の友人というと、五村西中から共に上がってきた外山と成川ぐらい。

 写真展か。おれはすぐさま返信を打った。日程的にも多分大丈夫。この日には会場にいるか、そう訊ねると馬渕はーー

「午後からならずっといるよ。チケットとかも特にないから気軽に来て欲しい」

 そういわれて、おれは馬渕が写真を出展しているという写真展に出向くことにした。

 ただ、どうせなら、ひとりよりふたりのほうがいいだろう。そう思い、おれは外山に馬渕から来た宣伝とチラシを送り、

「これ、行ってみないか?」

 と声を掛けてみた。すると、外山は、

「おぉ、行く行く」

 とのことだった。結構乗り気らしい。

 さて、写真展当日。おれは外山と共に電車に乗って、写真展の会場へと向かった。

「しかし、馬渕から連絡来た時は驚いたわ」

 行きの電車の中で、おれはいった。外山はそれに対して驚いて見せ、

「は? 馬渕?」

 ワケがわからないといった調子。そこで話を訊いてみると、外山はーー

 その写真展に馬渕が出展していることに気づかなかったというのだ。

 ちなみに馬渕と外山は、高三で同じクラスなので、ちゃんと面識はある。

 じゃあ何で写真展に何か行こうと思ったのかというと、ちょうど目的の駅が近づき、外山は外の景色へと目をやり、

「あ、アレだよアレ!」

 と、何かを指差した。それはちょっと特徴的な色をしたドアだった。取るに足らないマンションの一室でありながら、そこの部屋のドアだけ鮮やかな色をしていたのだ。

「おれ、いつも出勤する時この電車なんだけど、いつもあそこ何なんだろうって思ってたんだよな」

 と、そういうことらしい。確かに、日常的にこの電車に乗っていたら、あの鮮やかな色彩を持つドアが気になることだろう。

 そして、その鮮やかなドアこそが、この日の目的地だったのだ。

 おれと外山は目的の駅に着き、改札を潜ってその地に降り立った。地図を頼りに目的の場所まで歩く。例のドアは、何てことのない住宅街にある。そうなると建物が乱立する中を探さなければならず、中々に迷宮的。

 漸く目的の場所を見つけ、おれと外山は階段を登った。目的の扉の前まで来ると、スタッフらしき女性がおり、

「◯◯写真展においでですか?」

 と訊ねて来たので、そうですと答えた。すると、女性は目的の部屋まで案内してくれ、おれたちふたりは例の鮮やかなドアを潜った。

 室内は非常に狭く、そんな中で溢れんばかりの人が地べたに座っていた。何でもトークショーをやっているらしい。話しているのは、写真展の企画者とモデルとなった女性。何でも、この写真展は、ひとりの女性を如何に撮るかというのがコンセプトなのだそうだ。

 部屋に入って奥へ進もうとすると、やや身長の低い男性がすぐそこにいた。男性はおれと外山を見て、「あっ」と声を上げた。そうーー

 馬渕である。

 馬渕は何も変わっていなかった。同じ校舎で同じ授業を受けている時と、何も変わらなかった。ただ、久しぶりの再会にどこか気恥ずかしさがあったのは事実だけど。

 トークショーが終わり、自由時間となった。おれと外山は、馬渕と話した。やはり、何年も会っていなかったせいか、会話もどこかギコチナイ。正直、おれも何を話していいのかわからなかった。再開するには時間が空きすぎた。

 話したいことは沢山ある。だが、どこから話していいかわからない。すべて話していられるほどの時間もない。

 だが、馬渕の写真は素敵だった。何でも、この写真展に出展している人の中でも二位の成績を修めたらしい。そもそも、この写真展に写真を出展できるのは、数いる中でも上位の人だけとのことだった。

 そうか、頑張ってんだな……。漠然とそう思った。そう考えると、自分も頑張らなければとぼんやりと思った。

 写真展を観、三人で写真を撮ると、会場の外に出て三人で懐かしの高校時代の話をした。アイツは今どうしてるーーそんな感じの話もした。ノスタルジアがマインドに沸き上がる。

 そして、時間も過ぎ、おれと外山は馬渕に別れを告げ、その場を後にした。

「何か、すごかったな」外山がいった。

「そうだな」

 それしかいいようがなかった。詳細に話そうと思えば話せるだろう。ただ、感情がそれを阻んだ。感情が、余計な虚飾をすべて取っ払ってしまったのだ。

「メシ食って帰るか」おれはいった。

「そうだな!」

 沈みゆく茜色の夕陽に、濃厚な紫がうっすらと、溶け出していた。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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