【そして桜は舞い上がる】
文字数 2,807文字
自分主導で何かを始めてみようと思ったことはあるだろうか。
それも、自分ひとりでできることではなくて、人を募って、そのメンバーと共に何かひとつのイベントを行ったり、コミュニティを形成したりすることのことだ。
いうまでもないけど、これは容易なことではない。というか、難しいことだろう。何より、自分がトップとなって、他のメンバーを纏めるというのは非常に難しいことだ。
これは、余程根気のある人か、やる気のある人か、はたまた図太い人かでないと一筋縄にはいかないことがわかるだろう。
かくいうおれは、この何かを主導するということが兎に角苦手だ。やったことはあるのだけど、達成率が極めて低く、どちらかといえば、中断の後に頓挫したことが多い。
そもそも、おれは他人とコミュニケーションを取ることが苦手だし、人と協力して何かをするのも得意ではない。加えていえば、リーダーも出来なくはないが、得意でもないのだ。
大体、おれはリーダーには向かない。ずぼらだし、全体を見ることはある程度は出来ても、人に仕事を振るのは非常に苦手だ。
だからこそ精神的にも疲弊しやすく、何かを企画しても長続きすることはない。企画して長続きするものといっても、精々、中学時代の友人との毎月のリモート飲みくらいだ。あれも一応はおれが音頭を取っているワケだけど、あくまで一回やって次へ、と連続性のないことなので、存続するのはそこまで難しくはない。
だからこそ、何かを企画してそれをやり遂げられる人というのは、スゴいと思うのだ。
さて、『遠征芝居篇』のエクストララウンドの1である。一応あらすじーー
「すべてが終わった後、森ちゃんは新天地へと旅立っていった。それからというもの、連絡は途絶えていたが、『ブラスト』の公演を観に来てくれた時に、その後の展望を聴き、森ちゃんの活躍をこころの中で応援するのだった」
とまぁ、こんな感じ。じゃ、やってくーー
四月頭の日曜日の朝は清々しい空気に満ち満ちていた。おれは朝早くから川澄街通りを歩いていた。川澄のメインストリートは朝から活気があり、早朝だというのに人の流れが絶えることはない。
川澄街通りを抜けるとそこは川澄駅。おれは川澄駅構内へと入ると、その場を注意深く見回した。構内を歩いて行くと、
「おはよー」おれに声を掛ける女性の声。「じゃあ、行こうか」
おれは頷いた。おれに声を掛けたこの女性は、過去二度に渡って芝居で相手役をやったよっしーだった。
この日は、よっしーと共に森ちゃんの劇団の旗揚げ公演を観に行こうということになっていたのだ。
本当はゆうこも一緒に行きたいとのことだったのだけど、残念ながら予定が合わず、行くのはおれとよっしーのふたりとなった。
早速電車に乗り移動。電車を最大の敵と称する五条氏に取って、電車移動など地獄の中へ潜って行くようなもの、とも思えるかもしれないけど、この日はよっしーがいたんで特に問題はなかった。ちなみに、よっしーはおれのパニック事情を知っている数少ないブラスト関係者のひとりだったりする。
そんなこんなで電車で移動しつつ新幹線に乗り次いだ。新幹線は電車嫌いなおれでも快適だった。やはり乗り心地の問題なのか、それとも同乗する人の存在なのか。まぁ、両方ともあるんだろうな。
そんな感じで移動は特に問題もなく、そのまま乗り継ぎの駅に着いて新幹線を降りると、今度は地下鉄に乗って目的の駅へ。
地下鉄に乗ると一件のメッセージが届いた。
下留さんからだった。
早速メッセージを確認するとーー
「車を停めるなら、こちらがいいですよ」
というメッセージと共に駐車場のURLが張り付けてあった。とはいえ、電車移動なのでそれも使うことはなく、おれは感謝のことばと共に、自分たちが電車移動であることを告げた。
「あぁ、下留さんから、駐車場のことでメッセージ来たわ」おれがいうと、
「あら。ホント優しいね」とよっしー。
おれはたった二日間のデュオニソスの本番を思い出していた。下留さんをはじめ、みんないい人だった。今日、そのメンバーの一部にお会いすることができる。
それから地下鉄を乗り継いで目的の駅に到着した。改札を抜けてそのまま懐かしい匂いのするアーケードへ潜り込む。風格のある単館系の映画館に街並み、古くさい本屋に食堂とどこか昭和の匂いが漂って来そうだった。
おれとよっしーは街を観光しつつ、目的の劇場へと向かった。劇場は小さめの箱で、小道の奥にある隠れ家的なモノだった。
案内役の制作さんに導かれ、いざ場内へ。場内へ向かう受付の時点で懐かしい顔。ウタゲのメンバーのひとりがいた。おれは、何だか恥ずかしくなってしまい、声を掛けられなかった。
中に入ってもウタゲのメンバーがスタッフとして動いており、懐かしい気持ちが甦る。主宰として場を切り盛りする森ちゃんとも顔を合わせ、思わず照れ笑い。
別に久しぶりな感じはない。というのも、リモートでよく顔を合わせていたからな。でも、直接会えるのは嬉しい限りだった。
挨拶を終えると、席に着き開演を待った。森ちゃんの諸注意が終わり、いざ本番ーー
芝居は二本立て。一本目はバタフライ・エフェクトを用いた現実と過去の話。二本目は既存の物語を芝居としてアレンジした話。
どちらも素晴らしい芝居と脚本、演出だった。オーソドックスな演出の一本目と攻めた演出の二本目と、バランスも良くて見応えがあった。
何より、二年前に一緒に芝居を作ったウタゲのメンバーも出ていて、それこそ二年前のあの本番の日に戻ったような気分になった。
お陰で観劇中は、ニヤニヤが止まらなかった。そして、そんな時間はあっという間に過ぎ去っていった。気づけば芝居の全プログラムが終了し、客出しの時間となった。
懐かしのウタゲのメンツに、森ちゃんと対面すると、あの時の記憶が甦った。アンケートもバカみたいに長くなってしまい、書いておきながら、後でこれを読まれるのかと考えると恥ずかしくなってしまい、皆さんともまともに話せなくなってしまった。これが本当のコミュ障。
そんな感じで顔に見合わないシャイさを見せつつ、その場にいるキャストとスタッフの皆さんにお礼をいって、よっしーと共に会場を後にした。
下留さんは用事でお会いできなかったけど、あの日お世話になった懐かしい顔ぶれに会えたのは本当に嬉しかった。
「面白かったねー」よっしーがいった。
「そうだな」おれは思わずハニかんだ。「何つうか、二年前を思い出したわ」
「そっか、もう二年になるのかー」
時の流れは早いもんだ。気づけば、あれから二年も経ってしまっている。それでも簡単には切れない繋がりも、この世にはある。
「ご飯、食べに行こっか」
よっしーがいった。おれはふたつ返事で同意した。四月、桜の木が古風でオリエンタルな景色を薄紅色に染め上げていた。
【エクストラ弐に続く】
それも、自分ひとりでできることではなくて、人を募って、そのメンバーと共に何かひとつのイベントを行ったり、コミュニティを形成したりすることのことだ。
いうまでもないけど、これは容易なことではない。というか、難しいことだろう。何より、自分がトップとなって、他のメンバーを纏めるというのは非常に難しいことだ。
これは、余程根気のある人か、やる気のある人か、はたまた図太い人かでないと一筋縄にはいかないことがわかるだろう。
かくいうおれは、この何かを主導するということが兎に角苦手だ。やったことはあるのだけど、達成率が極めて低く、どちらかといえば、中断の後に頓挫したことが多い。
そもそも、おれは他人とコミュニケーションを取ることが苦手だし、人と協力して何かをするのも得意ではない。加えていえば、リーダーも出来なくはないが、得意でもないのだ。
大体、おれはリーダーには向かない。ずぼらだし、全体を見ることはある程度は出来ても、人に仕事を振るのは非常に苦手だ。
だからこそ精神的にも疲弊しやすく、何かを企画しても長続きすることはない。企画して長続きするものといっても、精々、中学時代の友人との毎月のリモート飲みくらいだ。あれも一応はおれが音頭を取っているワケだけど、あくまで一回やって次へ、と連続性のないことなので、存続するのはそこまで難しくはない。
だからこそ、何かを企画してそれをやり遂げられる人というのは、スゴいと思うのだ。
さて、『遠征芝居篇』のエクストララウンドの1である。一応あらすじーー
「すべてが終わった後、森ちゃんは新天地へと旅立っていった。それからというもの、連絡は途絶えていたが、『ブラスト』の公演を観に来てくれた時に、その後の展望を聴き、森ちゃんの活躍をこころの中で応援するのだった」
とまぁ、こんな感じ。じゃ、やってくーー
四月頭の日曜日の朝は清々しい空気に満ち満ちていた。おれは朝早くから川澄街通りを歩いていた。川澄のメインストリートは朝から活気があり、早朝だというのに人の流れが絶えることはない。
川澄街通りを抜けるとそこは川澄駅。おれは川澄駅構内へと入ると、その場を注意深く見回した。構内を歩いて行くと、
「おはよー」おれに声を掛ける女性の声。「じゃあ、行こうか」
おれは頷いた。おれに声を掛けたこの女性は、過去二度に渡って芝居で相手役をやったよっしーだった。
この日は、よっしーと共に森ちゃんの劇団の旗揚げ公演を観に行こうということになっていたのだ。
本当はゆうこも一緒に行きたいとのことだったのだけど、残念ながら予定が合わず、行くのはおれとよっしーのふたりとなった。
早速電車に乗り移動。電車を最大の敵と称する五条氏に取って、電車移動など地獄の中へ潜って行くようなもの、とも思えるかもしれないけど、この日はよっしーがいたんで特に問題はなかった。ちなみに、よっしーはおれのパニック事情を知っている数少ないブラスト関係者のひとりだったりする。
そんなこんなで電車で移動しつつ新幹線に乗り次いだ。新幹線は電車嫌いなおれでも快適だった。やはり乗り心地の問題なのか、それとも同乗する人の存在なのか。まぁ、両方ともあるんだろうな。
そんな感じで移動は特に問題もなく、そのまま乗り継ぎの駅に着いて新幹線を降りると、今度は地下鉄に乗って目的の駅へ。
地下鉄に乗ると一件のメッセージが届いた。
下留さんからだった。
早速メッセージを確認するとーー
「車を停めるなら、こちらがいいですよ」
というメッセージと共に駐車場のURLが張り付けてあった。とはいえ、電車移動なのでそれも使うことはなく、おれは感謝のことばと共に、自分たちが電車移動であることを告げた。
「あぁ、下留さんから、駐車場のことでメッセージ来たわ」おれがいうと、
「あら。ホント優しいね」とよっしー。
おれはたった二日間のデュオニソスの本番を思い出していた。下留さんをはじめ、みんないい人だった。今日、そのメンバーの一部にお会いすることができる。
それから地下鉄を乗り継いで目的の駅に到着した。改札を抜けてそのまま懐かしい匂いのするアーケードへ潜り込む。風格のある単館系の映画館に街並み、古くさい本屋に食堂とどこか昭和の匂いが漂って来そうだった。
おれとよっしーは街を観光しつつ、目的の劇場へと向かった。劇場は小さめの箱で、小道の奥にある隠れ家的なモノだった。
案内役の制作さんに導かれ、いざ場内へ。場内へ向かう受付の時点で懐かしい顔。ウタゲのメンバーのひとりがいた。おれは、何だか恥ずかしくなってしまい、声を掛けられなかった。
中に入ってもウタゲのメンバーがスタッフとして動いており、懐かしい気持ちが甦る。主宰として場を切り盛りする森ちゃんとも顔を合わせ、思わず照れ笑い。
別に久しぶりな感じはない。というのも、リモートでよく顔を合わせていたからな。でも、直接会えるのは嬉しい限りだった。
挨拶を終えると、席に着き開演を待った。森ちゃんの諸注意が終わり、いざ本番ーー
芝居は二本立て。一本目はバタフライ・エフェクトを用いた現実と過去の話。二本目は既存の物語を芝居としてアレンジした話。
どちらも素晴らしい芝居と脚本、演出だった。オーソドックスな演出の一本目と攻めた演出の二本目と、バランスも良くて見応えがあった。
何より、二年前に一緒に芝居を作ったウタゲのメンバーも出ていて、それこそ二年前のあの本番の日に戻ったような気分になった。
お陰で観劇中は、ニヤニヤが止まらなかった。そして、そんな時間はあっという間に過ぎ去っていった。気づけば芝居の全プログラムが終了し、客出しの時間となった。
懐かしのウタゲのメンツに、森ちゃんと対面すると、あの時の記憶が甦った。アンケートもバカみたいに長くなってしまい、書いておきながら、後でこれを読まれるのかと考えると恥ずかしくなってしまい、皆さんともまともに話せなくなってしまった。これが本当のコミュ障。
そんな感じで顔に見合わないシャイさを見せつつ、その場にいるキャストとスタッフの皆さんにお礼をいって、よっしーと共に会場を後にした。
下留さんは用事でお会いできなかったけど、あの日お世話になった懐かしい顔ぶれに会えたのは本当に嬉しかった。
「面白かったねー」よっしーがいった。
「そうだな」おれは思わずハニかんだ。「何つうか、二年前を思い出したわ」
「そっか、もう二年になるのかー」
時の流れは早いもんだ。気づけば、あれから二年も経ってしまっている。それでも簡単には切れない繋がりも、この世にはある。
「ご飯、食べに行こっか」
よっしーがいった。おれはふたつ返事で同意した。四月、桜の木が古風でオリエンタルな景色を薄紅色に染め上げていた。
【エクストラ弐に続く】