【藪医者放浪記~死重死~】
文字数 1,155文字
勘違いは誰にでもあるモノだ。
ましてや自分の国から逃げ延びて他の国に来たとなれば、ことばは通じないし、文化も全然異なって来る。そうともなれば、何かしらの誤解が生じるのは当たり前のことだ。
まぁ、見るからに悪党といった様子の銀次を悪党と見抜けないのは流石にどうかといった話ではあるが。
それはさておき、である。リューはそれ以降、猿田たちに敵意を向けることはなかった。それどころか、猿田を指して、
「アナタ、なかなかのケンポーの使い手。見た感じ清の武術のようだけど、よく見るとそうでないようにも見える。それがケンジュツか? カトリか? ムガイリューか?」
と猿田の武術の技能に興味を示して止まなかった。さっきまで敵同士対峙していたにも関わらず、この変わり様。猿田も困惑せざるを得なかった。もしかしたら、これはこっちを油断させる手なのかもしれない。そういった疑念、勘繰りがやまないのはいうまでもない。だが、目を輝かして猿田に詰め寄るリューからはまったくの疚しさも見えなかった。
猿田もリューが止まらないモノだから、仕方なしに自分が土佐流と琉球手の使い手だということを説明した。だが、そんな話をしてしまったが最後、リューはその技術を触りだけでも教えて欲しいと食い下がった。まぁ、この時代の武術及びそれに追随する流派というのが門外不出であるのは、いうまでもなく、猿田もそう事情を話しはしたが、逆にリューはふてくされてしまった。これには三人も困惑せざるを得なかった。
かと思いきや、リューはブスッと不機嫌そうな顔をしながらも口を開いた。
「確かにワタシも人に自分の技術を教えたことはない。上からも教えるなといわれた。バレるのはマズイとかいって。確かにアナタのいうこともわかる」
リューは尚も不服そうだった。だが、逆に猿田は少しホッとした様子だった。しかし、リューは再び猿田に詰め寄った。
「ワタシ、誰もアナタの技術を教えたりしない。それに見ただけのモノを誰かに教えようとも出来ないし、だから、お願いがある」
強い信念の籠った目だった。猿田はタジタジになりながらも、教えたりすることは出来ないと更に続けていった。だが、
「違う違う! アンタ、またワタシと闘って欲しい! 今度はサイを使わず素手で!」
この申し出には猿田も呆然とし、これからどうするのか訊ねた。と、リューは、
「ワタシ、清には帰れない。他の場所もわからない。だから川越にいる」
とのことだった。そのあまりにも子供じみた好奇心に押され、猿田はただ、はいと頷くしか出来なかった。その答えにはリューもまるで子供のように喜びを露にした。
と、突然にお雉が声を掛けた。
「あのさぁ、楽しんでるとこ悪いけど、本当の目的を忘れてない?」
猿田は固まった。そして、声を上げた。
【続く】
ましてや自分の国から逃げ延びて他の国に来たとなれば、ことばは通じないし、文化も全然異なって来る。そうともなれば、何かしらの誤解が生じるのは当たり前のことだ。
まぁ、見るからに悪党といった様子の銀次を悪党と見抜けないのは流石にどうかといった話ではあるが。
それはさておき、である。リューはそれ以降、猿田たちに敵意を向けることはなかった。それどころか、猿田を指して、
「アナタ、なかなかのケンポーの使い手。見た感じ清の武術のようだけど、よく見るとそうでないようにも見える。それがケンジュツか? カトリか? ムガイリューか?」
と猿田の武術の技能に興味を示して止まなかった。さっきまで敵同士対峙していたにも関わらず、この変わり様。猿田も困惑せざるを得なかった。もしかしたら、これはこっちを油断させる手なのかもしれない。そういった疑念、勘繰りがやまないのはいうまでもない。だが、目を輝かして猿田に詰め寄るリューからはまったくの疚しさも見えなかった。
猿田もリューが止まらないモノだから、仕方なしに自分が土佐流と琉球手の使い手だということを説明した。だが、そんな話をしてしまったが最後、リューはその技術を触りだけでも教えて欲しいと食い下がった。まぁ、この時代の武術及びそれに追随する流派というのが門外不出であるのは、いうまでもなく、猿田もそう事情を話しはしたが、逆にリューはふてくされてしまった。これには三人も困惑せざるを得なかった。
かと思いきや、リューはブスッと不機嫌そうな顔をしながらも口を開いた。
「確かにワタシも人に自分の技術を教えたことはない。上からも教えるなといわれた。バレるのはマズイとかいって。確かにアナタのいうこともわかる」
リューは尚も不服そうだった。だが、逆に猿田は少しホッとした様子だった。しかし、リューは再び猿田に詰め寄った。
「ワタシ、誰もアナタの技術を教えたりしない。それに見ただけのモノを誰かに教えようとも出来ないし、だから、お願いがある」
強い信念の籠った目だった。猿田はタジタジになりながらも、教えたりすることは出来ないと更に続けていった。だが、
「違う違う! アンタ、またワタシと闘って欲しい! 今度はサイを使わず素手で!」
この申し出には猿田も呆然とし、これからどうするのか訊ねた。と、リューは、
「ワタシ、清には帰れない。他の場所もわからない。だから川越にいる」
とのことだった。そのあまりにも子供じみた好奇心に押され、猿田はただ、はいと頷くしか出来なかった。その答えにはリューもまるで子供のように喜びを露にした。
と、突然にお雉が声を掛けた。
「あのさぁ、楽しんでるとこ悪いけど、本当の目的を忘れてない?」
猿田は固まった。そして、声を上げた。
【続く】