【週末は終末への道】
文字数 2,211文字
終わりが近づく雰囲気というのにはどうにも慣れない。
まぁ、しんどいだけのモノだったら、あと少しだと自分を鼓舞するだけで終わりだろうけど、しんどさの中に楽しさが入り混じっているものに関しては、自分を鼓舞しつつも一抹の寂しさなブレンドされている気がしてならない。
変な話、あれだけイヤだったはずの体育祭応援団長も終わる頃には少し寂しかったのも事実だしな。
こと芝居に関していえば、特にその気持ちが強いような気がしてーーというか、芝居をやると毎回そんな寂寞感に襲われている気がする。まぁ、ひとつだけ例外はあったけど。
さて、またもや『初舞台篇』の続きである。漸く終盤ですよ。まぁ、書き終えることに関しては寂しさはないんだけどね。
前回のあらすじーー「二回目の通し稽古は、まぁまぁな結果に終わった。が、セリフをトチった五条氏は、改めて帯を締め直すのだった」
本文とあらすじをマイナーチェンジするなって感じだけど、大方合ってるんでこれで。んじゃ、やっていくーー
二度目の通しが終わり、次の稽古の日がやって来た。おれへの評価は前回話した通り順調だがまだやれることがあるとのことだった。
他のメンツもほぼ同様だったーー大野さんを除いて、は。
ヨシエさんは、大野さんの番になると口をつぐんでしまった。少しして、オブラートに包みながらヨシエさんは話始めたーー
「ヨシエちゃん、大野さんに個人的にいったんだって」稽古後、あおいがいった。「本番まであと少しだけど、キツかったら辞めていいんだよって」
これは意地悪でいっているのではなく、ヨシエさんなりに気を使っていったのだった。
人間、我慢しなければならないことは多い。だが、大野さんはすでにそのレベルを超えていた。彼はただただストレスが溜まるばかりで芝居を楽しんでいないのがまるわかりだった。
ヨシエさんはそれを見ていられなかったのだ。
が、大野さんは結論を明確にするというよりは、少し曖昧な感じでできるならやりたいと答えたのだそうだ。
できるならやりたいーーそれは誰もが思うだろう。ただ、思いだけで何かを成し遂げることはできない。何かを成し遂げるには具体的な行動が伴うからだ。
大野さんは、おれにも相談をしてきた。何とも声を掛けようがなかった。ただ、話を聴くしかできなかった。
結局、大野さんは明確な結論を出せず、続投となった。というより、ヨシエさんの問に対して、反射的にやりますと答えてしまったとのことだった。
次の稽古。ヨシエさんは浮かない顔をしていた。それもそうだろう。大野さんとの対話の中で思うことも少なくなかったはずだから。
すると、ショージさんがヨシエさんのとなりで正座した。珍しい光景だった。夫婦とはいえ、『ブラスト』の時は周りに気を使っているのかそこまで近づくことはなかった。
稽古が開始されたーーと思いきや、ヨシエさんからアナウンスが入った。
「稽古の最初に申し訳ないのですが、ひとつ謝らせてください」
ヨシエさんもショージさんも神妙な面持ち。ヨシエさんが更に口を開く。
「実はこの度、子供ができました」
稽古場がざわつく。しかし、子供ができたからといって謝るというのも可笑しな話ではある。普通は祝福するものなのに。が、
「本来ならリスクを避けて舞台の演出をやるのは好ましくない、と医者からもいわれましたが、わたしはどうしてもこの舞台をやり遂げたいと思っています。この報告で、自己管理ができていないと思われることも覚悟の上です。気を使ってくれとも思っていません。幸い、残りの期間もあと少しです。それまでどうか、付き合わせてください」
そういって、ヨシエさんとショージさんは団員たちに頭を下げていた。
確かに顔色からしてもこのことをあまりよく思っていなさそうなメンバーはいた。だが、そこで口には出さなかった。
それもそうかもしれない。今はふたりを罵倒するより、本番のことを考えなければならない。演出を罵倒するにはまだ早い。
ちなみにおれはあおいから事情を聴いていたこともあって、動揺はなかった。それよりも、あと少しでこの舞台稽古が終わると考えると、焦燥感と寂寞感が込み上げてくる。
終わるーー終わってしまう。キツイこともたくさんあった。だけど、ここまできて思うのは、やっててよかったということだ。
ただ、終わりを迎えるにはまだピースが足りない。まだ稽古は終わっていないのだ。緊張を解くにはまだ早すぎる。
ヨシエさんの話が終わり、稽古に入る。その日の稽古は大野さんの出る場面を徹底して行った。演出の付け方もこれまでとは変わり、できることを最優先して朗らかな調子となった。
おざなりか、諦めかといわれるかもしれないが、芝居をやる際は、ある程度の方向転換を求められることは普通にある。
それは役者も演出もスタッフも変わりはないし、本番寸前だろうが関係ない。ただ、求められることをやるしかないのだ。
おれは、大野さんとあおいの稽古が上手くいくことを祈りつつ、尚ちゃんと自分たちの稽古に励むのだったーー
と終わりです。次回は、どうかな。もう一度稽古の話か、本番前のリハーサルの話か、その両方か。ま、その時次第だな。じゃ、
アスタラビスタ。
まぁ、しんどいだけのモノだったら、あと少しだと自分を鼓舞するだけで終わりだろうけど、しんどさの中に楽しさが入り混じっているものに関しては、自分を鼓舞しつつも一抹の寂しさなブレンドされている気がしてならない。
変な話、あれだけイヤだったはずの体育祭応援団長も終わる頃には少し寂しかったのも事実だしな。
こと芝居に関していえば、特にその気持ちが強いような気がしてーーというか、芝居をやると毎回そんな寂寞感に襲われている気がする。まぁ、ひとつだけ例外はあったけど。
さて、またもや『初舞台篇』の続きである。漸く終盤ですよ。まぁ、書き終えることに関しては寂しさはないんだけどね。
前回のあらすじーー「二回目の通し稽古は、まぁまぁな結果に終わった。が、セリフをトチった五条氏は、改めて帯を締め直すのだった」
本文とあらすじをマイナーチェンジするなって感じだけど、大方合ってるんでこれで。んじゃ、やっていくーー
二度目の通しが終わり、次の稽古の日がやって来た。おれへの評価は前回話した通り順調だがまだやれることがあるとのことだった。
他のメンツもほぼ同様だったーー大野さんを除いて、は。
ヨシエさんは、大野さんの番になると口をつぐんでしまった。少しして、オブラートに包みながらヨシエさんは話始めたーー
「ヨシエちゃん、大野さんに個人的にいったんだって」稽古後、あおいがいった。「本番まであと少しだけど、キツかったら辞めていいんだよって」
これは意地悪でいっているのではなく、ヨシエさんなりに気を使っていったのだった。
人間、我慢しなければならないことは多い。だが、大野さんはすでにそのレベルを超えていた。彼はただただストレスが溜まるばかりで芝居を楽しんでいないのがまるわかりだった。
ヨシエさんはそれを見ていられなかったのだ。
が、大野さんは結論を明確にするというよりは、少し曖昧な感じでできるならやりたいと答えたのだそうだ。
できるならやりたいーーそれは誰もが思うだろう。ただ、思いだけで何かを成し遂げることはできない。何かを成し遂げるには具体的な行動が伴うからだ。
大野さんは、おれにも相談をしてきた。何とも声を掛けようがなかった。ただ、話を聴くしかできなかった。
結局、大野さんは明確な結論を出せず、続投となった。というより、ヨシエさんの問に対して、反射的にやりますと答えてしまったとのことだった。
次の稽古。ヨシエさんは浮かない顔をしていた。それもそうだろう。大野さんとの対話の中で思うことも少なくなかったはずだから。
すると、ショージさんがヨシエさんのとなりで正座した。珍しい光景だった。夫婦とはいえ、『ブラスト』の時は周りに気を使っているのかそこまで近づくことはなかった。
稽古が開始されたーーと思いきや、ヨシエさんからアナウンスが入った。
「稽古の最初に申し訳ないのですが、ひとつ謝らせてください」
ヨシエさんもショージさんも神妙な面持ち。ヨシエさんが更に口を開く。
「実はこの度、子供ができました」
稽古場がざわつく。しかし、子供ができたからといって謝るというのも可笑しな話ではある。普通は祝福するものなのに。が、
「本来ならリスクを避けて舞台の演出をやるのは好ましくない、と医者からもいわれましたが、わたしはどうしてもこの舞台をやり遂げたいと思っています。この報告で、自己管理ができていないと思われることも覚悟の上です。気を使ってくれとも思っていません。幸い、残りの期間もあと少しです。それまでどうか、付き合わせてください」
そういって、ヨシエさんとショージさんは団員たちに頭を下げていた。
確かに顔色からしてもこのことをあまりよく思っていなさそうなメンバーはいた。だが、そこで口には出さなかった。
それもそうかもしれない。今はふたりを罵倒するより、本番のことを考えなければならない。演出を罵倒するにはまだ早い。
ちなみにおれはあおいから事情を聴いていたこともあって、動揺はなかった。それよりも、あと少しでこの舞台稽古が終わると考えると、焦燥感と寂寞感が込み上げてくる。
終わるーー終わってしまう。キツイこともたくさんあった。だけど、ここまできて思うのは、やっててよかったということだ。
ただ、終わりを迎えるにはまだピースが足りない。まだ稽古は終わっていないのだ。緊張を解くにはまだ早すぎる。
ヨシエさんの話が終わり、稽古に入る。その日の稽古は大野さんの出る場面を徹底して行った。演出の付け方もこれまでとは変わり、できることを最優先して朗らかな調子となった。
おざなりか、諦めかといわれるかもしれないが、芝居をやる際は、ある程度の方向転換を求められることは普通にある。
それは役者も演出もスタッフも変わりはないし、本番寸前だろうが関係ない。ただ、求められることをやるしかないのだ。
おれは、大野さんとあおいの稽古が上手くいくことを祈りつつ、尚ちゃんと自分たちの稽古に励むのだったーー
と終わりです。次回は、どうかな。もう一度稽古の話か、本番前のリハーサルの話か、その両方か。ま、その時次第だな。じゃ、
アスタラビスタ。