【ゴキブリはネットワークに巣を作る】
文字数 4,781文字
近年、詐欺は地味に巧妙になってきている。
残念な話だが、今の世の中、テクノロジーの進化と共に犯罪まで進化している。
流出した個人のメールアドレスや電話番号にメッセージを送り、お前のアカウントはハックしたと警告し、金を払わせようとする。
中には、荷物を配達に伺ったが留守だったので、ホームページから再配達の手配をして欲しいなんてメッセージをショートメールから送って、偽物のホームページから個人情報を騙し取ろうとしてくるクソまでいる。
ちなみにひとついえるのは、運送屋の配達員の持っている携帯のナンバーに「090」はないということだ。
配達員の携帯のナンバーは基本的に「070」で、「090」ナンバーは、詐欺グループが即席で用意した新規携帯のナンバーだと思っておいたほうがいい。ちなみに、「080」ナンバーもあるにはあるが、極一部でしかない。配達員からのショートメールにはご注意を。
それにしても最近では、ラインの普及もあって、個人のナンバーを介した通話やメールというのは、ビジネスの場を除けば殆ど絶滅仕掛けているが、人を騙して金を得ようとするゴキブリは、流行りや世の流れには敏感だ。
何かが現れ脚光を浴びれば、必ずそれを利用して人の足許を掬おうとする。法を整備したところで、結局は抜け穴を見つけて新たなる温床を見つけコミュニティを作り再びボイラーの裏のように暖かい場所に蔓延ることとなる。
終わることのない善と悪のいたちごっこ。
おれらのようなただの庶民にできるのは、そういったアウトローどものウソに騙されないよう知識をつけ、冷静に対処するぐらいだろう。そして、巧妙になりゆく犯罪に対して常に目を大きく開けておくことだ。
さて、珍しく真面目腐った話をしてしまったけど、やはり詐欺には気をつけなければならないと思うのだ。
かくいうおれも、大学時代やなんかにSNSのスパムアカウントとやり合ったりしたけど、本来ならこういったスパムに目をつけられる時点で、コイツなら騙せると思われているワケだから、本当に気をつけなければならない。
とはいえ、中にはそういったモノにまったく動じない人がいる。本当に羨ましい限りだ。
さて、今日はそんな詐欺の話ーーかと思いきや、詐欺紛いのことをした結果、酷い目に遭った男の話だ。じゃ、やってくーー
あれは大学二年の五月頃のことだった。
おれの通っていた大学の学部は、一年生の時と、それ以降では通うキャンパスが異なる為、下宿組の殆どは学年が上がると、引っ越しをすることとなる。
おれも例に漏れず、キャンパス変更に合わせて引っ越しをしたのだけど、二年生になると、先輩後輩の上下関係にもちょっとした変化が訪れる。
というのも、一年生の時は、学部の先輩がいない分、サークルに所属している別学部の先輩とサークル室で会うか会わないか程度だったが、二年生になりキャンパスが変わると、サークルでも何でも学部直属の先輩と顔を合わせることとなり、当然、サークル内の付き合いもより狭く深くなるワケで、唐突に先輩に呼び出させて飲み会に参加したり、夜のキャンパスで花見をしたりとその楽しみ方も変わってくる。
まぁ、人に合わせるのが嫌いなお前のことだから、そういう集まりには顔を出さなかったんだろと思われるかもしれないけど、実際はその逆だった。
この当時のおれは、先輩からそういう飲み会に誘われるのが嬉しくて、よく顔出ししていた。とはいえ、サークル関係だけだったけど。
まぁ、新キャンパスで過ごした三年間では、先輩にご馳走して貰ったり、遊んで貰ったりしたこともあって、今考えるとつまらないことばかりではなかったんよなーーただ、サークルの同期との関係が悪かっただけで。
それはさておき、その日も先輩たち数人と同期の家で鍋をつついて楽しんでいたのだ。
ちなみに、この同期の家というのは、目黒さんと柳さんというふたりの先輩のドッキリがあった、あの同期の家だ。詳しくは『空から地雷が降ってくる』を読んでくれな。
で、この時の参加者は、家主の金原ーー『暴力ラーメン』にて登場済ーーと目黒さんに柳さん、ひとつ上の先輩である津村さんと長老の笹森さん、同期のゴリとコーディと田口、そしておれの七人だった。
以前登場した金原、目黒さん、柳さんは過去記事を参照して貰うとして、津村さんとゴリ、笹森さんとコーディに関して簡単に説明していくとーー
津村さんはひとつ上の先輩で、イケメンのギタリスト。イギリスのロックンロールが好きで歩くアルハリスト。飲み会ではこの人が現れると後輩はみんな逃げていた。
ゴリは、ガレッジセールのゴリに似てるからゴリ。野球が好きで音楽には興味なし。ちなみに、バンドを始めたのは、仲がいい友人がやりたいというので。マウントを取りたがる点は面倒だったが、在学中はよく遊んだ人のひとり。
笹森さんは、二留した先輩で、この時点で四年生。普段は紳士的なのだが、酒を飲むと面倒で、おれも酔った勢いで、スリッパで頭を叩かれたことがあるーーまぁ、キスされた同期に比べたらずっとマシか。
田口はサークルに入って最初に仲良くなったヤツで、どこか大人っぽい雰囲気の持ち主だった。まぁ、最初の頃は同期から「気取ってる」という理由で好かれてはなかったけど、話してみると非常に面白いヤツで、先輩との関係を築くのが誰よりも上手かった。
コーディは、絶対音感持ちの長身のイケメン。在学中はよくメシに行ったり、飲んだり、ゲームをしたりと付き合いの深かったメンバーのひとり。多分、在学中に出会った中では一番の人格者。ちなみに、学祭でのボーカル話に出てきた『ゴーディ』とは別人、な。
とこんな感じ。まぁ、毎度のことながらメンバー紹介が長くなりがちではあるけど、また大学の話を書く時に説明するのも面倒なんでね。
さて、そんな感じの七人で鍋をしながら飲んでいたのだけど、こういった小規模な飲み会ともなるとアルハラ常習犯の津村さんも飲ませようとはしてこず、先輩後輩関係なしにゆったり飲んでは、各々、音楽の話からアダルトビデオの話なんかで盛り上がっていた。
ちなみに、その当時のおれはムッツリだったこともあって、かすみりさが好きとかはいわなかったーー何いわせるんだ!
そんな中、サークル内でも学部の若頭的な存在だった柳さんがこんなことをいったのだ。
「で、二年生は、一年生と絡んだのかよ?」
柳さんがこう訊ねたのも理由がある。というのも、二年生になるとキャンパスが変わることもあって、キャンパス違いの一年生とは関わりたくとも関わる機会が少なくなるからだ。
ちなみに、金原もゴリもコーディも田口も殆ど一年生とは関わっていなかった。
というのも、ゴリとコーディは単純に人見知りで、田口はその風貌のせいで一年生に距離を取られていたワケだ。金原に至っては新勧に興味がないといって来なかったので、そもそも一年生を知らなかった。
では、おれはどうだったか。
どうせ、お前のことだから後輩と絡みなんかしねぇんだろと思われるかもだけど、多分、この時のメンバーの中では一番一年生との絡みがあったのがおれだった。
というのも、おれは初めて会った相手でも案外普通に話せてしまうのだ。それこそ、一見すると人当たりのいい詐欺師みたいにな。
そんな感じで同期一堂が後輩との関係を話していると、津村さんが、
「何だよ、ダメだな。よし、じゃあ二年生、今から一年生に電話掛けてみ」
ワケがわからなかった。
何でそんなことしなきゃならんのか。
とはいえ、おれのいた学部の派閥は体育会気質で断れる雰囲気でもなかった。だがーー
「でも、一年生の連絡先知らないですけど」
とおれがいうと、津村さんはバッグから何やら怪しげなバインダーを取り出し、
「パクって来ちゃった、名簿」
と初めてのメイク・ラヴを恥じらう女子高生みたいなトーンで、おれたちにサークル本部からパクってきたサークルに加入した新一年生の名前と連絡先が載っている名簿をちらつかせたのだ。準備周到とはこのことーーまぁ、窃盗だけど。
そんな感じでおれら二年生は一年生に電話を掛けることとなってしまったのだ。
最初に掛けたのは、コーディだった。適当に名簿から一年生の連絡先を掬い、電話を掛けた。
電話が繋がると、コーディは名前を名乗り、いい感じに会話をしていた。電話を切り、詳細を話すと、何でもコーディからの電話に一年生は驚きつつも感激していたとのこと。理由は、新勧でコーディのギターボーカルを見て感動したからとのことだった。
そのいい流れに次は田口がアダルトチャンネル風のイタズラ電話を掛けたのだけど、結果はスカ。そもそも田口は一年生に存在を認知されておらず、結局は変態的な電話を掛けて来たヤバイ先輩みたいな空気のまま電話を切ることとなってしまったのだった。
「何だよ田口ぃ。仕方ない、ゴジョー、手本を見せてやれよ!」
柳さんにいわれ、次はおれが電話を掛けることとなった。おれがピックアップしたのは、二宮という男子だった。
二宮は、二度の新勧イベントで仲良くなった一年生だった。 学部こそ違うが、気が良さそうで少年ぽい雰囲気を纏った男子で、僅かな時間の中で談笑し合った後輩のひとりだった。
そんな感じでおれは、二宮に非通知で電話を掛けたーー
「はい」二宮が電話に出た。
「オタク、二宮さんだよな」いつもより低い声で、おれはいった。「アダルトサイトの利用料金がまだ支払われてないんだけど」
二宮は明らかに戸惑っていた。が、おれは、
「ウソウソ、サークルの新勧で話した二年のゴジョーだよ」
そういうと二宮は驚きつつも安堵の声を上げた。それからネタバラシ。二宮も完全に安心したようで、
「いやぁ、マジで動揺しました。そういうことだったんですね。でも、何か楽しかったです。ありがとうございました」
と何故かお礼をいわれてしまったのだ。
電話を切ると、先輩と同期から感嘆の声が上がった。
「すげえな」と同期たち。
「やっぱゴジョーは違うな。この調子でもう一件掛けちゃえよ」
津村さんにそういわれ、おれはもう一件電話を掛けることにした。得意気になってウキウキしながら名簿を捲る。
ふたり目に選んだのは、学部の後輩にあたる高畑だった。高畑を選んだのは、彼が二宮と仲が良く、おれが二宮と新勧で談笑した時、一緒にいて仲良くなったからだった。
二宮の時と同様、非通知で電話を掛けるーー
「はい」高畑が電話に出た。
「オタク、高畑さんだよねーーアダルトサイトの利用料金が未納……」
「あ!?」
と、高畑に電話をガチャ切りされたんだわ。
これにはおれもマズイと思い、高畑に電話を掛け直すもーー
「オ掛ケニナッタ電話ハーー」
ですよ。それから何度掛けても繋がらないんで、おれも意気消沈してしまいまして。二宮に電話を掛け直して、事情を話したんだわ。
「ははは、マジすか」と二宮。「高畑もなぁ……。取り敢えず事情はわかりました。高畑に伝えておきますんで、心配しないで下さい」
それから何度も礼をいって電話を切りました。結局、おれの惨劇のお陰で新一年生に電話を掛ける会は終了。そのまま、みんな無難に朝まで飲み続けましたとさ。
で、後日、バンドのライヴイベントで、本部のキャンパスのほうへいったんですが、その時ちょうど高畑と会ったんで、事情を改めて話して平謝りしましたわ。高畑もーー
「二宮に話聴いて悪いことしちゃったなって思いましたよ。全然大丈夫なんで、気にしないでくださいね」
といってくれたとはいえ、ねぇ……。やっぱり、イタズラ電話なんてするもんじゃない。勿論、詐欺もな。
皆さんは詐欺もイタズラもしちゃダメよーーおれがいうなって話か。
アスタラビスタ。
残念な話だが、今の世の中、テクノロジーの進化と共に犯罪まで進化している。
流出した個人のメールアドレスや電話番号にメッセージを送り、お前のアカウントはハックしたと警告し、金を払わせようとする。
中には、荷物を配達に伺ったが留守だったので、ホームページから再配達の手配をして欲しいなんてメッセージをショートメールから送って、偽物のホームページから個人情報を騙し取ろうとしてくるクソまでいる。
ちなみにひとついえるのは、運送屋の配達員の持っている携帯のナンバーに「090」はないということだ。
配達員の携帯のナンバーは基本的に「070」で、「090」ナンバーは、詐欺グループが即席で用意した新規携帯のナンバーだと思っておいたほうがいい。ちなみに、「080」ナンバーもあるにはあるが、極一部でしかない。配達員からのショートメールにはご注意を。
それにしても最近では、ラインの普及もあって、個人のナンバーを介した通話やメールというのは、ビジネスの場を除けば殆ど絶滅仕掛けているが、人を騙して金を得ようとするゴキブリは、流行りや世の流れには敏感だ。
何かが現れ脚光を浴びれば、必ずそれを利用して人の足許を掬おうとする。法を整備したところで、結局は抜け穴を見つけて新たなる温床を見つけコミュニティを作り再びボイラーの裏のように暖かい場所に蔓延ることとなる。
終わることのない善と悪のいたちごっこ。
おれらのようなただの庶民にできるのは、そういったアウトローどものウソに騙されないよう知識をつけ、冷静に対処するぐらいだろう。そして、巧妙になりゆく犯罪に対して常に目を大きく開けておくことだ。
さて、珍しく真面目腐った話をしてしまったけど、やはり詐欺には気をつけなければならないと思うのだ。
かくいうおれも、大学時代やなんかにSNSのスパムアカウントとやり合ったりしたけど、本来ならこういったスパムに目をつけられる時点で、コイツなら騙せると思われているワケだから、本当に気をつけなければならない。
とはいえ、中にはそういったモノにまったく動じない人がいる。本当に羨ましい限りだ。
さて、今日はそんな詐欺の話ーーかと思いきや、詐欺紛いのことをした結果、酷い目に遭った男の話だ。じゃ、やってくーー
あれは大学二年の五月頃のことだった。
おれの通っていた大学の学部は、一年生の時と、それ以降では通うキャンパスが異なる為、下宿組の殆どは学年が上がると、引っ越しをすることとなる。
おれも例に漏れず、キャンパス変更に合わせて引っ越しをしたのだけど、二年生になると、先輩後輩の上下関係にもちょっとした変化が訪れる。
というのも、一年生の時は、学部の先輩がいない分、サークルに所属している別学部の先輩とサークル室で会うか会わないか程度だったが、二年生になりキャンパスが変わると、サークルでも何でも学部直属の先輩と顔を合わせることとなり、当然、サークル内の付き合いもより狭く深くなるワケで、唐突に先輩に呼び出させて飲み会に参加したり、夜のキャンパスで花見をしたりとその楽しみ方も変わってくる。
まぁ、人に合わせるのが嫌いなお前のことだから、そういう集まりには顔を出さなかったんだろと思われるかもしれないけど、実際はその逆だった。
この当時のおれは、先輩からそういう飲み会に誘われるのが嬉しくて、よく顔出ししていた。とはいえ、サークル関係だけだったけど。
まぁ、新キャンパスで過ごした三年間では、先輩にご馳走して貰ったり、遊んで貰ったりしたこともあって、今考えるとつまらないことばかりではなかったんよなーーただ、サークルの同期との関係が悪かっただけで。
それはさておき、その日も先輩たち数人と同期の家で鍋をつついて楽しんでいたのだ。
ちなみに、この同期の家というのは、目黒さんと柳さんというふたりの先輩のドッキリがあった、あの同期の家だ。詳しくは『空から地雷が降ってくる』を読んでくれな。
で、この時の参加者は、家主の金原ーー『暴力ラーメン』にて登場済ーーと目黒さんに柳さん、ひとつ上の先輩である津村さんと長老の笹森さん、同期のゴリとコーディと田口、そしておれの七人だった。
以前登場した金原、目黒さん、柳さんは過去記事を参照して貰うとして、津村さんとゴリ、笹森さんとコーディに関して簡単に説明していくとーー
津村さんはひとつ上の先輩で、イケメンのギタリスト。イギリスのロックンロールが好きで歩くアルハリスト。飲み会ではこの人が現れると後輩はみんな逃げていた。
ゴリは、ガレッジセールのゴリに似てるからゴリ。野球が好きで音楽には興味なし。ちなみに、バンドを始めたのは、仲がいい友人がやりたいというので。マウントを取りたがる点は面倒だったが、在学中はよく遊んだ人のひとり。
笹森さんは、二留した先輩で、この時点で四年生。普段は紳士的なのだが、酒を飲むと面倒で、おれも酔った勢いで、スリッパで頭を叩かれたことがあるーーまぁ、キスされた同期に比べたらずっとマシか。
田口はサークルに入って最初に仲良くなったヤツで、どこか大人っぽい雰囲気の持ち主だった。まぁ、最初の頃は同期から「気取ってる」という理由で好かれてはなかったけど、話してみると非常に面白いヤツで、先輩との関係を築くのが誰よりも上手かった。
コーディは、絶対音感持ちの長身のイケメン。在学中はよくメシに行ったり、飲んだり、ゲームをしたりと付き合いの深かったメンバーのひとり。多分、在学中に出会った中では一番の人格者。ちなみに、学祭でのボーカル話に出てきた『ゴーディ』とは別人、な。
とこんな感じ。まぁ、毎度のことながらメンバー紹介が長くなりがちではあるけど、また大学の話を書く時に説明するのも面倒なんでね。
さて、そんな感じの七人で鍋をしながら飲んでいたのだけど、こういった小規模な飲み会ともなるとアルハラ常習犯の津村さんも飲ませようとはしてこず、先輩後輩関係なしにゆったり飲んでは、各々、音楽の話からアダルトビデオの話なんかで盛り上がっていた。
ちなみに、その当時のおれはムッツリだったこともあって、かすみりさが好きとかはいわなかったーー何いわせるんだ!
そんな中、サークル内でも学部の若頭的な存在だった柳さんがこんなことをいったのだ。
「で、二年生は、一年生と絡んだのかよ?」
柳さんがこう訊ねたのも理由がある。というのも、二年生になるとキャンパスが変わることもあって、キャンパス違いの一年生とは関わりたくとも関わる機会が少なくなるからだ。
ちなみに、金原もゴリもコーディも田口も殆ど一年生とは関わっていなかった。
というのも、ゴリとコーディは単純に人見知りで、田口はその風貌のせいで一年生に距離を取られていたワケだ。金原に至っては新勧に興味がないといって来なかったので、そもそも一年生を知らなかった。
では、おれはどうだったか。
どうせ、お前のことだから後輩と絡みなんかしねぇんだろと思われるかもだけど、多分、この時のメンバーの中では一番一年生との絡みがあったのがおれだった。
というのも、おれは初めて会った相手でも案外普通に話せてしまうのだ。それこそ、一見すると人当たりのいい詐欺師みたいにな。
そんな感じで同期一堂が後輩との関係を話していると、津村さんが、
「何だよ、ダメだな。よし、じゃあ二年生、今から一年生に電話掛けてみ」
ワケがわからなかった。
何でそんなことしなきゃならんのか。
とはいえ、おれのいた学部の派閥は体育会気質で断れる雰囲気でもなかった。だがーー
「でも、一年生の連絡先知らないですけど」
とおれがいうと、津村さんはバッグから何やら怪しげなバインダーを取り出し、
「パクって来ちゃった、名簿」
と初めてのメイク・ラヴを恥じらう女子高生みたいなトーンで、おれたちにサークル本部からパクってきたサークルに加入した新一年生の名前と連絡先が載っている名簿をちらつかせたのだ。準備周到とはこのことーーまぁ、窃盗だけど。
そんな感じでおれら二年生は一年生に電話を掛けることとなってしまったのだ。
最初に掛けたのは、コーディだった。適当に名簿から一年生の連絡先を掬い、電話を掛けた。
電話が繋がると、コーディは名前を名乗り、いい感じに会話をしていた。電話を切り、詳細を話すと、何でもコーディからの電話に一年生は驚きつつも感激していたとのこと。理由は、新勧でコーディのギターボーカルを見て感動したからとのことだった。
そのいい流れに次は田口がアダルトチャンネル風のイタズラ電話を掛けたのだけど、結果はスカ。そもそも田口は一年生に存在を認知されておらず、結局は変態的な電話を掛けて来たヤバイ先輩みたいな空気のまま電話を切ることとなってしまったのだった。
「何だよ田口ぃ。仕方ない、ゴジョー、手本を見せてやれよ!」
柳さんにいわれ、次はおれが電話を掛けることとなった。おれがピックアップしたのは、二宮という男子だった。
二宮は、二度の新勧イベントで仲良くなった一年生だった。 学部こそ違うが、気が良さそうで少年ぽい雰囲気を纏った男子で、僅かな時間の中で談笑し合った後輩のひとりだった。
そんな感じでおれは、二宮に非通知で電話を掛けたーー
「はい」二宮が電話に出た。
「オタク、二宮さんだよな」いつもより低い声で、おれはいった。「アダルトサイトの利用料金がまだ支払われてないんだけど」
二宮は明らかに戸惑っていた。が、おれは、
「ウソウソ、サークルの新勧で話した二年のゴジョーだよ」
そういうと二宮は驚きつつも安堵の声を上げた。それからネタバラシ。二宮も完全に安心したようで、
「いやぁ、マジで動揺しました。そういうことだったんですね。でも、何か楽しかったです。ありがとうございました」
と何故かお礼をいわれてしまったのだ。
電話を切ると、先輩と同期から感嘆の声が上がった。
「すげえな」と同期たち。
「やっぱゴジョーは違うな。この調子でもう一件掛けちゃえよ」
津村さんにそういわれ、おれはもう一件電話を掛けることにした。得意気になってウキウキしながら名簿を捲る。
ふたり目に選んだのは、学部の後輩にあたる高畑だった。高畑を選んだのは、彼が二宮と仲が良く、おれが二宮と新勧で談笑した時、一緒にいて仲良くなったからだった。
二宮の時と同様、非通知で電話を掛けるーー
「はい」高畑が電話に出た。
「オタク、高畑さんだよねーーアダルトサイトの利用料金が未納……」
「あ!?」
と、高畑に電話をガチャ切りされたんだわ。
これにはおれもマズイと思い、高畑に電話を掛け直すもーー
「オ掛ケニナッタ電話ハーー」
ですよ。それから何度掛けても繋がらないんで、おれも意気消沈してしまいまして。二宮に電話を掛け直して、事情を話したんだわ。
「ははは、マジすか」と二宮。「高畑もなぁ……。取り敢えず事情はわかりました。高畑に伝えておきますんで、心配しないで下さい」
それから何度も礼をいって電話を切りました。結局、おれの惨劇のお陰で新一年生に電話を掛ける会は終了。そのまま、みんな無難に朝まで飲み続けましたとさ。
で、後日、バンドのライヴイベントで、本部のキャンパスのほうへいったんですが、その時ちょうど高畑と会ったんで、事情を改めて話して平謝りしましたわ。高畑もーー
「二宮に話聴いて悪いことしちゃったなって思いましたよ。全然大丈夫なんで、気にしないでくださいね」
といってくれたとはいえ、ねぇ……。やっぱり、イタズラ電話なんてするもんじゃない。勿論、詐欺もな。
皆さんは詐欺もイタズラもしちゃダメよーーおれがいうなって話か。
アスタラビスタ。