【帝王霊~漆拾~】
文字数 1,061文字
日常生活を送る上で使うことばなど殆ど限られているといっていいだろう。
もちろん、あたしのような探偵や警察官といった職業上の専門用語は存在するのはいうまでもなく、そういったことばを日常生活の上で使えば、それだけでそのことばは浮き、場の空気を変質させる。
この時もまたそうだった。
霊道ーー日常生活ではまず出てこないであろうことば。こんなことばを聴くのは夏場の風物詩となっている心霊特番くらいだろう。或いは日本製の心霊系ホラー映画だろうか。いずれにせよ、そんなことばが日常の中で出てくれば、それだけで浮き上がるのはいうまでもないだろう。
だが、今のシチュエーションは果たして日常的と形容していいモノだろうか。今のあたしは廃ビルの中で幽霊の見える女とふたりきり。そう考えると霊道ということばも異常な状況下では正常なのかもしれない。
「霊道......?」
あたしは詩織に訊ねた。昔心霊特番で耳にしたことがあるとはいえ、それが具体的にどういうモノかはわからなかった。
詩織の説明によれば、霊道とは『幽霊の通り道』とのことだった。もっと具体的にいうと、あの世とこの世を繋ぐ場所、ということだった。何だか頭が痛くなって来そうだ。
「でもさ、何か変なんだよね」
そういって詩織は首を傾げた。あたしは詩織にそう思う理由を訊ねた。
詩織がいうには、この場所は霊道になってまだ間もないとのことだった。そもそも霊道とはどういう場所がそうなりがちなのか。それはたくさんの人が死んだ場所がそうなりやすく、或いは廃墟なんかも霊道になりやすいのだそうだ。確かにこのビルではヤーヌスの関係者が何人か命を落としている。
だが、そんな霊道が通るほどの死の数は見られないと詩織は説明した。あたしにはちんぷんかんぷん。加えていうと、廃墟といっても何処か人から忘れ去られたような場所にある廃墟こそが霊道になりやすいのに対して、ここは人の通りも多いストリートの真ん中にある廃ビルだ。ともなれば霊道にはなりにくいとも詩織は説明した。何でも、霊たちが霊道を通るのに生きた人間は邪魔なのだそうだ。だからこそ、人里離れたような場所にこそ霊道は開かれ、霊も集まりやすくなるという。
で、肝心な可笑しなことだが、ここの霊道にはそこら辺の低級霊や動物霊とはまた違ったグロテスクな空気が漂っているというのだ。
「どういうこと?」
あたしが訊ねると詩織は少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「何というか......、この霊道、無理矢理こじ開けられたような、そんな感じがするんだ」
【続く】
もちろん、あたしのような探偵や警察官といった職業上の専門用語は存在するのはいうまでもなく、そういったことばを日常生活の上で使えば、それだけでそのことばは浮き、場の空気を変質させる。
この時もまたそうだった。
霊道ーー日常生活ではまず出てこないであろうことば。こんなことばを聴くのは夏場の風物詩となっている心霊特番くらいだろう。或いは日本製の心霊系ホラー映画だろうか。いずれにせよ、そんなことばが日常の中で出てくれば、それだけで浮き上がるのはいうまでもないだろう。
だが、今のシチュエーションは果たして日常的と形容していいモノだろうか。今のあたしは廃ビルの中で幽霊の見える女とふたりきり。そう考えると霊道ということばも異常な状況下では正常なのかもしれない。
「霊道......?」
あたしは詩織に訊ねた。昔心霊特番で耳にしたことがあるとはいえ、それが具体的にどういうモノかはわからなかった。
詩織の説明によれば、霊道とは『幽霊の通り道』とのことだった。もっと具体的にいうと、あの世とこの世を繋ぐ場所、ということだった。何だか頭が痛くなって来そうだ。
「でもさ、何か変なんだよね」
そういって詩織は首を傾げた。あたしは詩織にそう思う理由を訊ねた。
詩織がいうには、この場所は霊道になってまだ間もないとのことだった。そもそも霊道とはどういう場所がそうなりがちなのか。それはたくさんの人が死んだ場所がそうなりやすく、或いは廃墟なんかも霊道になりやすいのだそうだ。確かにこのビルではヤーヌスの関係者が何人か命を落としている。
だが、そんな霊道が通るほどの死の数は見られないと詩織は説明した。あたしにはちんぷんかんぷん。加えていうと、廃墟といっても何処か人から忘れ去られたような場所にある廃墟こそが霊道になりやすいのに対して、ここは人の通りも多いストリートの真ん中にある廃ビルだ。ともなれば霊道にはなりにくいとも詩織は説明した。何でも、霊たちが霊道を通るのに生きた人間は邪魔なのだそうだ。だからこそ、人里離れたような場所にこそ霊道は開かれ、霊も集まりやすくなるという。
で、肝心な可笑しなことだが、ここの霊道にはそこら辺の低級霊や動物霊とはまた違ったグロテスクな空気が漂っているというのだ。
「どういうこと?」
あたしが訊ねると詩織は少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「何というか......、この霊道、無理矢理こじ開けられたような、そんな感じがするんだ」
【続く】