【一年三組の皇帝~参拾死~】
文字数 1,072文字
自分がどんな大人になるのかなんて見当もつかなかった。
でも、今思ったのは、目の前にいるお兄さんみたいな大人になれたらいいな、ということだ。優しくてオーラがあって、人のことばを打ち消す前にまず話を聞く。そういう姿勢を取れるお兄さんは非常に魅力的だった。
「そうなんだ」お兄さんはいった。「で、キミはどうしたいの?」
そう訊ねられて、ぼくのことばはストップした。ぼくはこの打ち明け話をして楽になっていた。それは自分が抱え込んでいたモノを吐き出し、その重さを人と共有出来たからだ。そして、自分では意識していなかったが、無意識のうちに、打ち明けることでお兄さんに何とかして貰えるのではないかという甘い考えを持っていたようだった。
お兄さんは何ひとつ追及することなく、ぼくのことばを待ってくれていた。ぼくは完全にことばに詰まっていた。何てて答えればいいか、わからなかった。そんなぼくに愛想を尽かしたようにお兄さんは軽く息を吐き、
「友達を助けたいんじゃない?」
そうだ。ぼくは田宮を助けたい。でも、そのためにどうすればいいかわからない。優等生を倒すために、ヤンキーと手を組むのは正直イヤだった。でも、ぼくはーー
「はい」ぼくは頷いていった。「でも、そのためにヤンキーと組むのは......」
「なるほど、ね」
お兄さんはため息混じりにそう呟くと空を見詰めた。興味がない、というよりは何かを考えているようだった。
「もし、仮に、さ」お兄さんが口を開いた。「おれがキミの大好きな誰かを今すぐにでも殺そうとしているとしたら、キミはどうする?」
ぼくはその質問に呆然とした。お兄さんに家族を殺されそうになったら?ーーそんなことはわからない。それに、ぼくからしたらたった数十分とはいえ、お兄さんがそういうことをする人間には思えなかった。その考えが邪魔をして、ぼくはやはり口を閉ざした。
「......おれというのが、まずかったかな? じゃあ、キミのまったく知らない、何処の誰かもわからないヤツがキミの好きな人を殺そうとしたら、どうする?」
「それは......」ぼくは答えた。「止めます!」
「ほんとに? 死ぬかもしれないとしても?」ぼくは即答で、「はい!」
「でも、何でそんな何の得にもならないことをするんだい?」
確かに誰かのために何かをして死ぬ、ということには何の得もなく、むしろ死んでしまう分、損しかないだろう。だがーー
「それは......ッ!」ぼくは一瞬ことばを飲み込みそうになったが、答えた。「それはその人のことが好きだからです」
お兄さんは朗らかに笑った。
【続く】
でも、今思ったのは、目の前にいるお兄さんみたいな大人になれたらいいな、ということだ。優しくてオーラがあって、人のことばを打ち消す前にまず話を聞く。そういう姿勢を取れるお兄さんは非常に魅力的だった。
「そうなんだ」お兄さんはいった。「で、キミはどうしたいの?」
そう訊ねられて、ぼくのことばはストップした。ぼくはこの打ち明け話をして楽になっていた。それは自分が抱え込んでいたモノを吐き出し、その重さを人と共有出来たからだ。そして、自分では意識していなかったが、無意識のうちに、打ち明けることでお兄さんに何とかして貰えるのではないかという甘い考えを持っていたようだった。
お兄さんは何ひとつ追及することなく、ぼくのことばを待ってくれていた。ぼくは完全にことばに詰まっていた。何てて答えればいいか、わからなかった。そんなぼくに愛想を尽かしたようにお兄さんは軽く息を吐き、
「友達を助けたいんじゃない?」
そうだ。ぼくは田宮を助けたい。でも、そのためにどうすればいいかわからない。優等生を倒すために、ヤンキーと手を組むのは正直イヤだった。でも、ぼくはーー
「はい」ぼくは頷いていった。「でも、そのためにヤンキーと組むのは......」
「なるほど、ね」
お兄さんはため息混じりにそう呟くと空を見詰めた。興味がない、というよりは何かを考えているようだった。
「もし、仮に、さ」お兄さんが口を開いた。「おれがキミの大好きな誰かを今すぐにでも殺そうとしているとしたら、キミはどうする?」
ぼくはその質問に呆然とした。お兄さんに家族を殺されそうになったら?ーーそんなことはわからない。それに、ぼくからしたらたった数十分とはいえ、お兄さんがそういうことをする人間には思えなかった。その考えが邪魔をして、ぼくはやはり口を閉ざした。
「......おれというのが、まずかったかな? じゃあ、キミのまったく知らない、何処の誰かもわからないヤツがキミの好きな人を殺そうとしたら、どうする?」
「それは......」ぼくは答えた。「止めます!」
「ほんとに? 死ぬかもしれないとしても?」ぼくは即答で、「はい!」
「でも、何でそんな何の得にもならないことをするんだい?」
確かに誰かのために何かをして死ぬ、ということには何の得もなく、むしろ死んでしまう分、損しかないだろう。だがーー
「それは......ッ!」ぼくは一瞬ことばを飲み込みそうになったが、答えた。「それはその人のことが好きだからです」
お兄さんは朗らかに笑った。
【続く】