【藪医者放浪記~玖拾~】
文字数 673文字
落ち着きなんか持てるワケがなかった。
そうでなくとも場は焦燥としているのに、自分のような庶民が落ち着けるワケがなかった。そう、茂作の表情には書いてあった。
茂作は中庭にいた。猿田源之助に牛野寅三郎と別れた後は再び中庭に戻り、松平天馬と共にその場の様子を眺めていた。
天馬はのびのびとその場の混乱を眺めていられるような立場では到底なかったが、逆にいえば何をしていいのかわからなかったのかもしれない。『天誅屋』という闇の稼業の元締とはいえ、こういう場にはつくづく慣れていないのがよくわかる。まったく威厳も何もあったモンじゃない。
武田藤十郎は殆ど呆然自失状態。もはや何も考えられないといった様子だった。
「あぁ、ひでえなぁ......」
あまりの状況に茂作も他人事のように話すことしか出来ない。女給のお羊はいつしかいなくなっている。とはいえーー
「ほんとになぁ」
「いやいや、元はといえばアンタがすべての原因じゃねえか」
平和ボケしたようにいうお咲の君に茂作はいった。お咲の君は目の前で起きている出来事を軽蔑するような眼差しで見ている。
「何というか」お咲の君はいう。「馬鹿バカしいとは思わんか?」
「え?」突然の質問に茂作は驚いた。「......ん、まぁ、立派な武家が結婚だの病気だのでこんな風にみっともなくバタバタしてるのは想像もしなかったし、確かに」
「そうだろう? 結局、身分なんて所詮は霞のようなモノで、実際は何の意味もないんだから」
これには茂作も何もいえなかった。大混乱状態。そこには威厳も何もない。
「そういやーー」
茂作は口を開いた。
【続く】
そうでなくとも場は焦燥としているのに、自分のような庶民が落ち着けるワケがなかった。そう、茂作の表情には書いてあった。
茂作は中庭にいた。猿田源之助に牛野寅三郎と別れた後は再び中庭に戻り、松平天馬と共にその場の様子を眺めていた。
天馬はのびのびとその場の混乱を眺めていられるような立場では到底なかったが、逆にいえば何をしていいのかわからなかったのかもしれない。『天誅屋』という闇の稼業の元締とはいえ、こういう場にはつくづく慣れていないのがよくわかる。まったく威厳も何もあったモンじゃない。
武田藤十郎は殆ど呆然自失状態。もはや何も考えられないといった様子だった。
「あぁ、ひでえなぁ......」
あまりの状況に茂作も他人事のように話すことしか出来ない。女給のお羊はいつしかいなくなっている。とはいえーー
「ほんとになぁ」
「いやいや、元はといえばアンタがすべての原因じゃねえか」
平和ボケしたようにいうお咲の君に茂作はいった。お咲の君は目の前で起きている出来事を軽蔑するような眼差しで見ている。
「何というか」お咲の君はいう。「馬鹿バカしいとは思わんか?」
「え?」突然の質問に茂作は驚いた。「......ん、まぁ、立派な武家が結婚だの病気だのでこんな風にみっともなくバタバタしてるのは想像もしなかったし、確かに」
「そうだろう? 結局、身分なんて所詮は霞のようなモノで、実際は何の意味もないんだから」
これには茂作も何もいえなかった。大混乱状態。そこには威厳も何もない。
「そういやーー」
茂作は口を開いた。
【続く】