【ボケ老人を待ち侘びて】
文字数 2,431文字
約束というのは尊いモノだ。
当たり前といえば当たり前なのだけど、今も昔も約束を守るということは人が思っている以上に軽視されがちだ。
約束を破ることは信用問題に直結する。当たり前ではあるけど約束を破れば、相手との関係性にもよるが、信用はガタ落ちする。
仮にこれが何か回避できない緊急事態に直面し、連絡が取れずに約束を破る破目になってしまったというのなら相手の理解を得ることも出来るだろうが、そうでない場合は完全にダメ。
更にいうなら約束を忘れてしまっていたというのもよくない。そもそも忘れるということはその約束の優先順位が低いことになる。つまり、それだけその人にとってその約束に価値がないということであるし、印象も最悪だ。
もっとマズイのは約束を破った理由を正直にいわずにウソをついてしまうことだ。そして、それが明らかなウソの場合は相手の心象を限りなく悪くし、信用のプールは空っぽ、泳ぐことはおろか飛び込めば顔面を硬い床に打ち付けてのたうち回ることになるだろう。
とはいえ人間は弱い生き物だ。うしろめたいが故に保身のためのウソをつくこともある。だとしても自分の非は素直に認めるべきだが。
かくいうおれも可能な限り自分の非を素直に認めようとはしているが、場合によってはウソをついてしまう心の弱さを持っている。
良くないとはわかっていても、どうしてもやってしまう。それは多分、殆どのコミュニティで褒められることなく怒られ続けて来たからなのだろうけど、それはそれでこれはこれ。
というか、その話は今回は関係ないので、逃げるようにーー保身に走るように本題に入っていこうと思う。反省?ーー後でしとくわ。というワケで、やってくーー
あれは中学二年のことだった。
あまりにも中学二年の時の話題を出し過ぎてもはや説明など不要だと思うのだけど、敢えて説明すると、おれにとっての中学二年は色々なトラブルや出来事があって最も混沌としていた時期だったーー説明になってないな。
それはさておき、その当時の担任は、後に三度に渡って学校の備品であるCDプレイヤーを忘れ、それを笑って済ませようとしたという文面だけでもガイキチレベル・フルスロットルって感じで、ついでにいうと生徒にホームページを荒らされまくって掲示板を閉鎖せざるを得なくなるという完全にナメられてるとしか思えない腐敗した深海魚のような顔した動く即身仏こと小野寺先生だったーー酷ぇいわれようだな。
そんな小野寺先生のクラスといえば表向きは非常に平和だったのだけど、その反面退屈しのぎに結構トチ狂ったことも平気でやれる甘っちょろさもあった。まぁ、そもそも一番狂ってるのは担任ーーいや、何でもない。
さて、そんなある日のことである。休み時間も終了間際で、おれはあくびをしながら自分の席について授業が始まるのを待っていたのだ。
チャイムが鳴った。授業の開始時刻だ。
この時の授業は小野寺先生の英語だったが、小野寺先生の姿はなかった。とはいえ、生徒たちは特に不思議に思っている節はなかった。
というのも、小野寺先生は授業の準備に時間を掛ける人で、時間通り来ることは比較的少なかったからだ。
授業が始まって五分が経った。が、小野寺先生は来なかった。あれ、小野寺ティーチャー遅くね。そんな声もちらほら聴こえて来る。英語教師だからって別にティーチャーとか呼ばんでもよかろうにとかいう話は別としても確かに小野寺先生は遅かった。
十分経過。だが、小野寺先生は来なかった。流石に遅いと生徒たちも違和感マックスハートでキョロキョロし始める。
十五分経過。もしかしたら何かあったのでは。生徒たちの間に不穏な空気が流れ始め、学級委員も職員室に様子を見に行ったほうがいいのではといい始める。
二十分経過。やはり小野寺先生は来ない。学級委員も様子を見に行こうと立ち上がる。が、レイジーなクラスメイトが、
「このまま黙ってようぜ」
と学級委員を制す。学級委員もそれはマズイのではといいつつも再び席につく。
三十分が経過した。授業時間も半分を過ぎてしまい流石にヤバイんじゃないかと不安を口にする学級委員。だが、またもやレイジーなクラスメイトによって職員室への偵察を阻止されてしまった。結果ーー
最後まで小野寺先生は現れなかった。
一体何があったのか。もしかして小野寺先生も聖二と同様に洗濯物を畳むために帰宅してしまったのだろうかーーだとしたらシンプルにバカだよなーー、疑問は尽きなかった。
が、その疑問も帰りのホームルームですべてが払拭されることとなった。
帰りのホームルームの時間になると小野寺先生は平然とした顔で教室に入ってきた。そして、生徒のひとりが小野寺先生に、
「今日の授業はどうしたんですか?」
と訊ねたのだ。そしたら、小野寺先生は笑いながらこういったのだーー
「授業あるの忘れてたよ、ハッハッハッ!」
……は?
バカなのか?
普通に考えて自分の授業の時間を忘れること自体ヤバイし、それがしかも自分が担任を受け持っているクラスのモノと考えたら、これはもはや覚醒剤でもやってんじゃないかってレベルでーーいや、むしろ覚醒したほうがいいんじゃないかと思えるレベルでヤバイ。
「いやぁ、ゴメンよ。もう授業を忘れないって約束するよ。ハッハッハッ!」
と小野寺先生は悪びれる様子もなく生徒たちに二度と授業があることを忘れないと約束したのだけどーー
このすぐ後、また授業があるのを忘れたからな。
しかも三回連続で。
これはナチュラルに健忘症か何かだろうと生徒の間でもウワサが立ったのだけど、真偽の程は不明。ちなみに一昨年の同窓会に小野寺先生も来ていたそうだけど、ボケてはいなかったとのこと。とはいえ、この事件が切っ掛けで、
小野寺先生のアダ名が「ボケ老人」になったのはいうまでもない。
約束は勿論だけど自分の仕事も忘れてはいけない。てか忘れないよな、普通。
アスタラビスタ。
当たり前といえば当たり前なのだけど、今も昔も約束を守るということは人が思っている以上に軽視されがちだ。
約束を破ることは信用問題に直結する。当たり前ではあるけど約束を破れば、相手との関係性にもよるが、信用はガタ落ちする。
仮にこれが何か回避できない緊急事態に直面し、連絡が取れずに約束を破る破目になってしまったというのなら相手の理解を得ることも出来るだろうが、そうでない場合は完全にダメ。
更にいうなら約束を忘れてしまっていたというのもよくない。そもそも忘れるということはその約束の優先順位が低いことになる。つまり、それだけその人にとってその約束に価値がないということであるし、印象も最悪だ。
もっとマズイのは約束を破った理由を正直にいわずにウソをついてしまうことだ。そして、それが明らかなウソの場合は相手の心象を限りなく悪くし、信用のプールは空っぽ、泳ぐことはおろか飛び込めば顔面を硬い床に打ち付けてのたうち回ることになるだろう。
とはいえ人間は弱い生き物だ。うしろめたいが故に保身のためのウソをつくこともある。だとしても自分の非は素直に認めるべきだが。
かくいうおれも可能な限り自分の非を素直に認めようとはしているが、場合によってはウソをついてしまう心の弱さを持っている。
良くないとはわかっていても、どうしてもやってしまう。それは多分、殆どのコミュニティで褒められることなく怒られ続けて来たからなのだろうけど、それはそれでこれはこれ。
というか、その話は今回は関係ないので、逃げるようにーー保身に走るように本題に入っていこうと思う。反省?ーー後でしとくわ。というワケで、やってくーー
あれは中学二年のことだった。
あまりにも中学二年の時の話題を出し過ぎてもはや説明など不要だと思うのだけど、敢えて説明すると、おれにとっての中学二年は色々なトラブルや出来事があって最も混沌としていた時期だったーー説明になってないな。
それはさておき、その当時の担任は、後に三度に渡って学校の備品であるCDプレイヤーを忘れ、それを笑って済ませようとしたという文面だけでもガイキチレベル・フルスロットルって感じで、ついでにいうと生徒にホームページを荒らされまくって掲示板を閉鎖せざるを得なくなるという完全にナメられてるとしか思えない腐敗した深海魚のような顔した動く即身仏こと小野寺先生だったーー酷ぇいわれようだな。
そんな小野寺先生のクラスといえば表向きは非常に平和だったのだけど、その反面退屈しのぎに結構トチ狂ったことも平気でやれる甘っちょろさもあった。まぁ、そもそも一番狂ってるのは担任ーーいや、何でもない。
さて、そんなある日のことである。休み時間も終了間際で、おれはあくびをしながら自分の席について授業が始まるのを待っていたのだ。
チャイムが鳴った。授業の開始時刻だ。
この時の授業は小野寺先生の英語だったが、小野寺先生の姿はなかった。とはいえ、生徒たちは特に不思議に思っている節はなかった。
というのも、小野寺先生は授業の準備に時間を掛ける人で、時間通り来ることは比較的少なかったからだ。
授業が始まって五分が経った。が、小野寺先生は来なかった。あれ、小野寺ティーチャー遅くね。そんな声もちらほら聴こえて来る。英語教師だからって別にティーチャーとか呼ばんでもよかろうにとかいう話は別としても確かに小野寺先生は遅かった。
十分経過。だが、小野寺先生は来なかった。流石に遅いと生徒たちも違和感マックスハートでキョロキョロし始める。
十五分経過。もしかしたら何かあったのでは。生徒たちの間に不穏な空気が流れ始め、学級委員も職員室に様子を見に行ったほうがいいのではといい始める。
二十分経過。やはり小野寺先生は来ない。学級委員も様子を見に行こうと立ち上がる。が、レイジーなクラスメイトが、
「このまま黙ってようぜ」
と学級委員を制す。学級委員もそれはマズイのではといいつつも再び席につく。
三十分が経過した。授業時間も半分を過ぎてしまい流石にヤバイんじゃないかと不安を口にする学級委員。だが、またもやレイジーなクラスメイトによって職員室への偵察を阻止されてしまった。結果ーー
最後まで小野寺先生は現れなかった。
一体何があったのか。もしかして小野寺先生も聖二と同様に洗濯物を畳むために帰宅してしまったのだろうかーーだとしたらシンプルにバカだよなーー、疑問は尽きなかった。
が、その疑問も帰りのホームルームですべてが払拭されることとなった。
帰りのホームルームの時間になると小野寺先生は平然とした顔で教室に入ってきた。そして、生徒のひとりが小野寺先生に、
「今日の授業はどうしたんですか?」
と訊ねたのだ。そしたら、小野寺先生は笑いながらこういったのだーー
「授業あるの忘れてたよ、ハッハッハッ!」
……は?
バカなのか?
普通に考えて自分の授業の時間を忘れること自体ヤバイし、それがしかも自分が担任を受け持っているクラスのモノと考えたら、これはもはや覚醒剤でもやってんじゃないかってレベルでーーいや、むしろ覚醒したほうがいいんじゃないかと思えるレベルでヤバイ。
「いやぁ、ゴメンよ。もう授業を忘れないって約束するよ。ハッハッハッ!」
と小野寺先生は悪びれる様子もなく生徒たちに二度と授業があることを忘れないと約束したのだけどーー
このすぐ後、また授業があるのを忘れたからな。
しかも三回連続で。
これはナチュラルに健忘症か何かだろうと生徒の間でもウワサが立ったのだけど、真偽の程は不明。ちなみに一昨年の同窓会に小野寺先生も来ていたそうだけど、ボケてはいなかったとのこと。とはいえ、この事件が切っ掛けで、
小野寺先生のアダ名が「ボケ老人」になったのはいうまでもない。
約束は勿論だけど自分の仕事も忘れてはいけない。てか忘れないよな、普通。
アスタラビスタ。