【帝王霊~睦拾伍~】
文字数 1,133文字
不法侵入。
あたしの記憶に残っていたのは、成松がかつてヤーヌス・コーポレーションとして機能していた廃ビルの中にいたことだった。
管理者を調べることは出来たが、わざわざ中を調べるために許可を取る時間が勿体なかったこともあって、あたしはビルの裏口の窓を割り、詩織と共に中に入った。
内部は廃ビルの名前に恥じないような荒れようで、埃と暗闇の住処となっていた。そのまま残されたデスクや何か重要なことが書かれていたであろう書類が、今では紙くずとなってシワを作り、そこら辺に散らばっていた。
あたしの記憶には、ヤーヌス崩壊前にここに何が入っていたのかという情報は残っていなかった。それよりも上、ヤーヌス・コーポレーションの事務所のほうにしか目も意識も行っていなかったのだから。
そもそも何故、このビルそのモノが廃墟と化してしまったか。それには色々と変なウワサがあった。
ある夏の、ある街の市長選に成松が当選したすぐ後のことだった。成松が死んだ。犯人は成松の秘書を務めていた女。だが、実際に逮捕されたのは、あたしの知っている女とは全然違う女だった。
佐野めぐみ。あの女こそがあたしの知っている成松の秘書だった。背は小柄だが、胸が大きく、目鼻立ちも良ければ口がぷっくりしているセックスという粘土を塗り固めて作ったような女。だが、実際に逮捕されたのは四十代の壮年の女性で、顔は薄くひとえまぶた、顔も身体にも贅肉がでっぷりとついていて、佐野とはまったく異なった姿形をしていた。
何か見えない力が働いている。そしてその力はとてつもない深い闇の底から流れている。ダークウェブというネットワークの深い闇の中から何かしらのコネクション、アプローチがあり、成松は消された。そうとしか思えなかった。
成松が死に、ヤーヌス・コーポレーションは崩壊の一途を辿った。そもそもワンマンでやっていた会社で、後継者となる人材が全然いなかった。とはいえ、何とか後釜として新しく取締役を決めたはいいが、その取締役も就任一週間で怪死。何でも、自室の何もないリビングの真ん中で溺死していたという。衣服も髪も濡れていなかった。強いていえば脂汗を掻いてはいたが、脂汗で溺死など出来るワケがなく、この新取締役の怪死事件はちょっとしたワイドショーのネタになった。
そもそも会社の取締役が立て続けに死んでいるという時点でマスコミも興味本意でスキャンダラスにあることないことを書き立てていたが、結局その謎は解明されなかった。
そして、そんな怪死事件が立て続けに起きたこともあって、その時の従業員はみな逃げ出し、いつしか残ったのは空っぽになったオフィスだけだった、ということだ。
だが、これで終わりではなかったのである。
【続く】
あたしの記憶に残っていたのは、成松がかつてヤーヌス・コーポレーションとして機能していた廃ビルの中にいたことだった。
管理者を調べることは出来たが、わざわざ中を調べるために許可を取る時間が勿体なかったこともあって、あたしはビルの裏口の窓を割り、詩織と共に中に入った。
内部は廃ビルの名前に恥じないような荒れようで、埃と暗闇の住処となっていた。そのまま残されたデスクや何か重要なことが書かれていたであろう書類が、今では紙くずとなってシワを作り、そこら辺に散らばっていた。
あたしの記憶には、ヤーヌス崩壊前にここに何が入っていたのかという情報は残っていなかった。それよりも上、ヤーヌス・コーポレーションの事務所のほうにしか目も意識も行っていなかったのだから。
そもそも何故、このビルそのモノが廃墟と化してしまったか。それには色々と変なウワサがあった。
ある夏の、ある街の市長選に成松が当選したすぐ後のことだった。成松が死んだ。犯人は成松の秘書を務めていた女。だが、実際に逮捕されたのは、あたしの知っている女とは全然違う女だった。
佐野めぐみ。あの女こそがあたしの知っている成松の秘書だった。背は小柄だが、胸が大きく、目鼻立ちも良ければ口がぷっくりしているセックスという粘土を塗り固めて作ったような女。だが、実際に逮捕されたのは四十代の壮年の女性で、顔は薄くひとえまぶた、顔も身体にも贅肉がでっぷりとついていて、佐野とはまったく異なった姿形をしていた。
何か見えない力が働いている。そしてその力はとてつもない深い闇の底から流れている。ダークウェブというネットワークの深い闇の中から何かしらのコネクション、アプローチがあり、成松は消された。そうとしか思えなかった。
成松が死に、ヤーヌス・コーポレーションは崩壊の一途を辿った。そもそもワンマンでやっていた会社で、後継者となる人材が全然いなかった。とはいえ、何とか後釜として新しく取締役を決めたはいいが、その取締役も就任一週間で怪死。何でも、自室の何もないリビングの真ん中で溺死していたという。衣服も髪も濡れていなかった。強いていえば脂汗を掻いてはいたが、脂汗で溺死など出来るワケがなく、この新取締役の怪死事件はちょっとしたワイドショーのネタになった。
そもそも会社の取締役が立て続けに死んでいるという時点でマスコミも興味本意でスキャンダラスにあることないことを書き立てていたが、結局その謎は解明されなかった。
そして、そんな怪死事件が立て続けに起きたこともあって、その時の従業員はみな逃げ出し、いつしか残ったのは空っぽになったオフィスだけだった、ということだ。
だが、これで終わりではなかったのである。
【続く】