【It is up to us to take out umbrella】

文字数 3,087文字

 一度動き出した列車はもう戻れない。

 それは時間も同様で、一度動き出した時間はもう戻ることはない。賽は投げられた。後は流れに身を任せて動き続けるのみ。

 そう、賽は投げられたのだ。

 昨日のあらすじーー「体育祭が始まってしまったのだ」

 長かったが、漸く体育祭の本編である。本音をいえば、一回分で体育祭本番のことを書き切るつもりだったのだけど、余分な情報が多すぎたのと、案外、本番のことも書くことが多くて二回に分けることになってしまったワケだ。

 さて、昨日の続きだがーー

 団長コスプレ大会はグロテスクなクリーチャー四体が立ち並び、それで終わりーーではなかった。そう、その後に応援合戦があるのだ。

 応援合戦の順番は、コスプレ大会においてゴールした順番になる。つまり、おれら黄団は二番手ということになるのだけど、

「似合ってますね」

 とおれを弄る芹沢くんと後輩たちのお陰で緊張なんか欠片もなかった。感謝すべきなんだか、どうなんだか。

 さて、最初にゴールした桃団のパフォーマンスはーー覚えてないんだな。何となく桃色片思いを歌ってたのは覚えているんだけど、その他はどうも記憶にない。ちなみに青と赤に関しては欠片も覚えてねえわ。

 さて、そんな感じで二番手は黄団のおれ。流石に直前ともなるとそれなりには緊張するんだけど、いざ声を出してしまえば、後はどうにでもなれ。緊張どころか、自分が人前に立って何かしているというのが楽しくて堪らなかった。

最初に応援歌を歌って、次に殺陣に移行するんだが、これが中々ウケがよく、やってて楽しかったのだ。そしてーー

 コマネチをやってやったんだわ。

 よし、やってやったって感じよね。お陰で周囲は大爆笑ですよ。気持ちがよかった。ブタさん、ざまぁみやがれ。そう思っていたら、

「もー、アレだけやるなっていったのにぃ」

 とブタさんの声が聴こえました。うん、おれの耳に届いてるって相当だからな。とまぁ、そんな感じで黄色の応援合戦の番は終わったのだ。正直いってすごく楽しかったのよね。

 とはいえ、戦局は依然としていい方向には傾かず、厳しい状況が続く。ポイントも団長も関係ない組体操ですら、あまり落ち着けたもんじゃなかった。

 すべてのプログラムが終了した。団ごとに集まって結果を待った、待ったーー待ち続けた。そして、わかったのはーー

 黄団が最下位だということだった。

 こんなことをいうと、色々といわれても仕方ないだらうけど、全然悔しくなかった。多分、自分の仕事が終わったという安堵もあったのかもしれない。ただ、それ以上にーー

 おれはやり切ったのだ。

 敗北という辛酸を嘗めながらも、おれには達成感があった。それに、いくら敗北しても、その敗北が死力を尽くした果ての敗北ならば、悔しさなんて残りようもなかった。だって、やれることは、全部やったんだから。

 しかし、おれにはまだひとつ、仕事が残っていた。

 優勝した団の団長が優勝トロフィーを受け取り、閉会式が終了すると、最後の片付けの前に最後の挨拶がある。そう、団の代表として、ここまで着いてきてくれた人たちに挨拶しなければならないのだ。

 とりあえず、指定された場所へメンバーを誘い、何十人もの前に応援団員とともに立つのだけど、シーサーも金田も泣いていて、どうにも収拾がつかない。小田さんも泣いていた。芹沢くんはただ静かに、その場に佇んでいた。

 座ってこちらを見上げている女子の中にも悔しさの涙を流す人はたくさんいた。男子の中にも悔しさから顔を歪める人もたくさんいた。しかしーー、

 おれはそれを見てウンザリしてしまった。

 また性格の悪い野郎だなといわれるだろうけど、前述した通り、死力は尽くしたのだ。誰も悪くはない。ただ、勝負は時の運でしかない。百人いれば、コンディションのいい者もいるし、悪い者もいる。運のあるヤツもいれば、ないヤツもいる。チームであるが故に、ひとりがパーフェクトでも別のひとりがワーストであることもない話ではない。

 やれることはやったのだ。恥じることなど何もない。だから、悔しがる必要もないのだ。

 おれは、頬を緩ませていったーー

「いやぁ、負けちまったなぁ~」

 唐突に何をいい出すかと思えば、バカなのかなとも思われかねないけど、こういうしかなかったのだ。

そもそも、最下位のチームの代表挨拶なんて、地獄のような雰囲気になるのはわかりきってるしな。だからこそ、神妙になるのはイヤだった。何故なら代表のおれがしんみり、神妙になったら、後味の悪さしか残らないから。

 ただ、おれのその何も考えていないようなあっけらかんとした発言が、功を奏したらしく、泣いていたり、苦渋に顔を歪めていたりした生徒たちが盛大に笑ってくれたのだ。これでもう問題なし。後は、いうこといって、終わり。

「こればかりは、おれの指導力不足で、本当に申し訳ないね。でも、おれがここまでやれたのは、アナタたちのお陰で。最初はダメだと思ったけど、何とかここまでやり遂げられた。ありがとう。確かに敗けはしたし、悔しくないかといえば、ウソになるけど、でも、やれることはやったんだ。そこは誇りを持たなきゃな。別に誰がよくて誰がダメってワケでもない。だから、負けたからって悔しがる必要はないよ。ここまで、本当にありがとうございました」

 こんな感じのことをいうと、さっきまで泣いていたカラスも笑顔になり、おれのコメントに拍手を贈ってくれた。

 それから、シーサー、応援団員とコメントしていき、最後は団の担当教員たちがひとつ一つコメントしていく時間に。まぁ、敗北した中なんでね、みなさんことばを選びつつコメントをして、中にはおれのコメントを拾って、それについても話してくれた教員もいて。

で、最後がモゴモゴ先生だったのだ。

 何故、「モゴモゴ」なのかって?ーーシンプルに滑舌が悪いからだ。モゴモゴ先生は理科担当の教員で、フレミングの左手の法則を間違って教えたり、事実か怪しい情報を提供してくれたりするマッドネスな先生で、脂まみれの髪とメガネ、小太りで身長も低いという、どこにでもいそうなヤバイ教員だった。

 で、モゴモゴ先生が生徒たちの前に立って、いったのだ。

「いやぁ、負けちまったなぁ~」

 ……?

 一瞬、マジで世界がバグったのかと思った。何と、モゴモゴ先生は、おれの掴みのコメントを諸パクりしてきたのだ。これにはさっきまで笑顔だった生徒たちの表情も凍り付き、何とも変な空気に。その後のコメントも、何をいっているのか聞き取れず、モヤモヤした状態で話は終了。何だったんだ、この時間。

 でも、最後の締めとして、おれが何かをいうことになったのだけど、何も考えてなかったおれは、

「あっ、じゃあ解散、ということでぇ~」

とマンガみたいな照れ方をしながら曖昧に解散の音頭を取るしかなかった。でも、生徒たちの間では笑いが起きたから本当によかったわ。

それと、最後の挨拶が終わった後、キャナがおれのところまで来て、

「モゴモゴ、五条のコメントパクって滑っててダサすぎー!」

とモゴモゴをネタにしながら滑った様を真似をしまくってました。面白いから、やめて。

 それからは、片付けを終えてその後の話なんだけど、それはまた次回。長いな。

 体育祭篇、次で完結しまーす。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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