【ナナフシギ~睦拾捌~】
文字数 1,089文字
何事も時間が過ぎていけばいくほどに悪くなっていくモノだ。
もちろん、何かを改善していこう、成長していこうとすれば、より良い形へと変化していくのはいうまでもないが、逆に何もしなければ物事は急速に悪化していく。
環境破壊や政治経済、個人単位でいえば、身体は強張り、体調は悪くなっていき、体力は失われ、知能もどんどん衰えていく。
上昇するのはいつだって緩やかだ。だが、下降するのはいつだってジェットコースターのように急速だ。まったく不公平なほどに。
「何か、ヤバイことになってないか......?」
森永がいった。弓永に森永、そして石川先生は未だ学校の中にいた。昇降口から中庭へと続く廊下は、もはや普段人間の子供が和気あいあいとした声を上げる場所ではなくなっていた。まるで、その場全体に鉄錆が侵食したように空間そのモノが茶色くなり、窓は金網で覆われ、床はガラス張りになって底の底へと続く暗闇が大きく口を開けていた。木製のドアや壁は錆びた鋼鉄に変わっていた。
そのガラス張りの床は、ある程度の強度はあるらしかったが、とはいえ走るだけでもそれなりの衝撃となって軽いたわみを見せていた。割れれば暗闇の餌食。
「そろそろ出ないとマズイってことだな」
弓永はいった。その視線の先には黒い影。そう、次第に死霊、悪霊の数が増えていた。霊道に入った時もそれなりにはいたが、その比ではなかった。もはや廊下の左右両方を霊たちが覆っていた。そして、モノ欲しげに弓永たちのことを見ているようだった。
「でも」と石川先生。「何で見てるだけなんだろう。こんなこというのも変な話なんだけど、モノ欲しそうにしている割にはこっちまで来て何かしようとする様子はないし」
それには弓永も引っ掛かっているようだった。確かに、見はするが、悪霊たちが襲ってくる気配はまったくといっていいほどなかった。ただ、ショーケースに入った商品を眺めるだけ。そんな風にも見えた。
「そんなことより、早くここを抜けよう」
と森永がいった。が、弓永が「お前、下手に急いで床が割れたらどうするんだ?」と訊ねると、森永は黙り込んでしまった。
暗い部屋で壊れかけの電球が点滅するように辺りは明滅を繰り返していた。これは弓永が持っている懐中電灯の不調ではなかった。空間そのモノが明滅していた。そして、そんな空間では亡者たちの呻き声が騒がしいほどに聴こえて来ていた。
「まぁ、でも」と弓永。「急いだほうがいいってのは間違ってないみたいだな」
物欲しそうに取り囲む悪霊たちをよそに、三人の生きた人間はただひたすらに歩き続けた。先があるかもわからない廊下を。
【続く】
もちろん、何かを改善していこう、成長していこうとすれば、より良い形へと変化していくのはいうまでもないが、逆に何もしなければ物事は急速に悪化していく。
環境破壊や政治経済、個人単位でいえば、身体は強張り、体調は悪くなっていき、体力は失われ、知能もどんどん衰えていく。
上昇するのはいつだって緩やかだ。だが、下降するのはいつだってジェットコースターのように急速だ。まったく不公平なほどに。
「何か、ヤバイことになってないか......?」
森永がいった。弓永に森永、そして石川先生は未だ学校の中にいた。昇降口から中庭へと続く廊下は、もはや普段人間の子供が和気あいあいとした声を上げる場所ではなくなっていた。まるで、その場全体に鉄錆が侵食したように空間そのモノが茶色くなり、窓は金網で覆われ、床はガラス張りになって底の底へと続く暗闇が大きく口を開けていた。木製のドアや壁は錆びた鋼鉄に変わっていた。
そのガラス張りの床は、ある程度の強度はあるらしかったが、とはいえ走るだけでもそれなりの衝撃となって軽いたわみを見せていた。割れれば暗闇の餌食。
「そろそろ出ないとマズイってことだな」
弓永はいった。その視線の先には黒い影。そう、次第に死霊、悪霊の数が増えていた。霊道に入った時もそれなりにはいたが、その比ではなかった。もはや廊下の左右両方を霊たちが覆っていた。そして、モノ欲しげに弓永たちのことを見ているようだった。
「でも」と石川先生。「何で見てるだけなんだろう。こんなこというのも変な話なんだけど、モノ欲しそうにしている割にはこっちまで来て何かしようとする様子はないし」
それには弓永も引っ掛かっているようだった。確かに、見はするが、悪霊たちが襲ってくる気配はまったくといっていいほどなかった。ただ、ショーケースに入った商品を眺めるだけ。そんな風にも見えた。
「そんなことより、早くここを抜けよう」
と森永がいった。が、弓永が「お前、下手に急いで床が割れたらどうするんだ?」と訊ねると、森永は黙り込んでしまった。
暗い部屋で壊れかけの電球が点滅するように辺りは明滅を繰り返していた。これは弓永が持っている懐中電灯の不調ではなかった。空間そのモノが明滅していた。そして、そんな空間では亡者たちの呻き声が騒がしいほどに聴こえて来ていた。
「まぁ、でも」と弓永。「急いだほうがいいってのは間違ってないみたいだな」
物欲しそうに取り囲む悪霊たちをよそに、三人の生きた人間はただひたすらに歩き続けた。先があるかもわからない廊下を。
【続く】