【誰もが神になる】
文字数 2,833文字
自分のオリジナルを持つことは難しい。
というのも、人は影響を受けやすい生き物だからだ。しかし、たくさんの人やものから影響を受ければ受けるほど、その要素が自分の血となり肉となり、程よく混じり合い、その人のオリジナリティを作り上げていく。
それを証明するかのように、音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、この世にはたくさんのオリジナルが存在する。
その出来、不出来がどうであろうと、自分のオリジナルを持てることは凄いことだ。
それは、自分のオリジナリティを確立できずに生涯を終える人が多いからだ。
逆にいえば、自分のオリジナリティを持てる人は、どんな状況であろうと、幸せなのではないか、とおれは思う。
何故ならオリジナリティを持っているということは、自分の「世界」を持っているから。
オリジナリティを持っている人は、自分という「世界」の神であり、その中でメロディや、映像や、センテンスによってたくさんの人生を描くことができる。取るに足らないことにも思えるだろうが、それこそが幸せなのだとおれは思うのだ。
とまぁ、そんな話をしていると長くなるので、さっさとあらすじーー「サイダンプに敗北した筑波洋は、どうすればよいか考えていた。そんな時に現れたのは、あの『城茂』だった。城茂は、筑波洋を特訓し、新たなる力を得た筑波洋は、とうとうサイダンプを破ったのだ」
今度は筑波洋を助けに城茂が出てきたワケなんですが、そろそろ詳細を発表してもいいのかな、とも思うんですよ。
でも、まだしなーい。
はい、というワケで実際のあらすじとしては、四度目の稽古見学に訪れた五条氏は、新たな見学者である弥生と大原さんに心酔する劇団員を他所に、ヒロキさんというプロの舞台屋に誉められたのだ。
まぁ、一〇点ってところだな。そんなことはどうでもいいか。続きいこうーー
ヒロキさんに褒められいい気になっていたおれは、それからも稽古が楽しみで仕方なくなっていた。が、同時に不安もあった。何の不安かーーそれは、今はいえない。
翌週の稽古ーー自分としては五回目の稽古見学だった。稽古場に入ると、もはや常連であるおれに、劇団員は気兼ねなく挨拶をしてくる。
挨拶を返し、ひと息つこうとすると、あおいが不安そうに縮こまっていた。
「どうした?」あおいに訊ねた。
あおいはいうーー
「あ、五条くん。今日の台本、わたしのオリジナル台本なんだ……」
これには驚いた。
「へぇ! すごいじゃん! 期待してるよ」
「ありがと……」あおいは更にいうーー「実は、五条くんの役もあるんだ……」
驚きだった。オリジナル台本において役があるということは、いってしまえばそれは「当て役」だということだ。(注:そうじゃないことも普通にあるけどな)
当て役とは、執筆者が、ひとりの役者をイメージして書き、その人に演じてもらうことを想定した役のことだ。
まだ会ってそんなに時間も経っていなかったが、あおいはあおいなりにおれの役を書いてくれた。これは本当に嬉しかった。
さて、準備運動と発声を終えるとすぐにあおいの台本に取り掛かる。
シナリオとしては、ひとつのアパートで巻き起こるドタバタ劇という感じーーそれ以上はいわないでおくわ、申し訳。
おれの役は、ナイーブながらもこころ優しい青年の役だった。アウトローな五条氏とは真逆ではあったが、読んでみると「こんな風に思われてるのか」と何か気恥ずかしかった。
台本を読み終え感想タイム。ヨシエさんは厳しくも温かいことばを投げ掛けていた。おれは、世界観が好きだったと伝えた。
稽古が終わると、緊張が解けたからか、あおいは泣き出してしまった。そんなあおいをヨシエさんをはじめ、多くの劇団員が慰めていた。何ともほっこりとする光景だった。そんな中、ユーキさんはあおいを弄って色んな人に怒られていたーーアホで草。
そして、おれは決意した。
いつか必ず自分のシナリオを書く。
いつになるかはわからない。どれほど時間が掛かるかもわからない。はじめからいいものが書けるとも思っていない。ただ、おれは、自分の手で、自分のアイディアで、自分のシナリオを書こうと決意したのだ。
稽古終わり、アフターに向かう道中で、おれはあおいにいった。
「今日の本、よかったよ」
そう伝えると、あおいはひとこと、ありがとうといった。おれは更にいったーー
「読んでたら、おれもシナリオを書いてみたくなった。だから、いつになるかわからないけど、書くつもり」
そう伝えるとあおいは、
「そっか。楽しみにしてる」
と笑顔を浮かべた。おれは、どぎまぎした。
翌週の稽古は、またもやオリジナル台本。作者は五〇代のおじさん団員である「正さん」。正さんは歌川広重が描きそうな顔をしている。
正さんのシナリオは、商店街のドタバタを描いたコメディだった。既に第三稿とのことだったが、その中にはおれの役も入っていた。
おれの役はレコード会社に勤める新入社員だったが、あまり深く読み込めず、不完全燃焼。もっと精進しなければ、と自分に戒めた。
そしてこの日、弥生と大原さんが『ブラスト』に入団した。ふたりとも、盛大に入団を歓迎されていた。
その翌週は、女性団員のテリーの台本だった。何故『テリー』なのか。それは、名前が「てるこ」だからだ。テリーはプロの腹話術師としても活躍しており、舞台では個性的でありながら、とても繊細な演技をする人だった。
テリーの台本は、とある中華料理屋を舞台にしたコメディだった。書き掛けではあったが、非常に面白く、おれの役もちゃんとあった。
ちなみに、テリーの台本は一年後に大幅に加筆修正され、上演されるのこととなったのだけど、その時、おれが演じた役名が、『五条竜也』。そう、『五条竜也』というペンネームはその時の役名から取ったものなのだ。まぁ、その話はいずれ機会があったらする。
そしてこの日の稽古終わりに、おれは『ブラスト』に入団した。歓迎半分、やっと入ったかという感じが半分。何と、今でも七回も見学して入団したのはおれしかいないらしい。そりゃ、やっと入ったかとも思われるわな。
そして、最後、立野さんのオリジナル台本だ。これは前回の台本とは別の、無国籍風戦国アクション台本だった。明らかにヒロキさんが持ってきた台本に触発されて書かれたのが丸わかりだったのだけど、これが面白く、おれの役もツイストの効いたものだった。
こうしてたくさんのオリジナル台本が出揃い、舞台でやるシナリオを決めることとなった。目移りする候補作品の中、おれはーー
と、今日はここまで。次回はーーどんな話になるかは、勝手に想像しておくれな。
じゃ、アスタラビスタ!
というのも、人は影響を受けやすい生き物だからだ。しかし、たくさんの人やものから影響を受ければ受けるほど、その要素が自分の血となり肉となり、程よく混じり合い、その人のオリジナリティを作り上げていく。
それを証明するかのように、音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、この世にはたくさんのオリジナルが存在する。
その出来、不出来がどうであろうと、自分のオリジナルを持てることは凄いことだ。
それは、自分のオリジナリティを確立できずに生涯を終える人が多いからだ。
逆にいえば、自分のオリジナリティを持てる人は、どんな状況であろうと、幸せなのではないか、とおれは思う。
何故ならオリジナリティを持っているということは、自分の「世界」を持っているから。
オリジナリティを持っている人は、自分という「世界」の神であり、その中でメロディや、映像や、センテンスによってたくさんの人生を描くことができる。取るに足らないことにも思えるだろうが、それこそが幸せなのだとおれは思うのだ。
とまぁ、そんな話をしていると長くなるので、さっさとあらすじーー「サイダンプに敗北した筑波洋は、どうすればよいか考えていた。そんな時に現れたのは、あの『城茂』だった。城茂は、筑波洋を特訓し、新たなる力を得た筑波洋は、とうとうサイダンプを破ったのだ」
今度は筑波洋を助けに城茂が出てきたワケなんですが、そろそろ詳細を発表してもいいのかな、とも思うんですよ。
でも、まだしなーい。
はい、というワケで実際のあらすじとしては、四度目の稽古見学に訪れた五条氏は、新たな見学者である弥生と大原さんに心酔する劇団員を他所に、ヒロキさんというプロの舞台屋に誉められたのだ。
まぁ、一〇点ってところだな。そんなことはどうでもいいか。続きいこうーー
ヒロキさんに褒められいい気になっていたおれは、それからも稽古が楽しみで仕方なくなっていた。が、同時に不安もあった。何の不安かーーそれは、今はいえない。
翌週の稽古ーー自分としては五回目の稽古見学だった。稽古場に入ると、もはや常連であるおれに、劇団員は気兼ねなく挨拶をしてくる。
挨拶を返し、ひと息つこうとすると、あおいが不安そうに縮こまっていた。
「どうした?」あおいに訊ねた。
あおいはいうーー
「あ、五条くん。今日の台本、わたしのオリジナル台本なんだ……」
これには驚いた。
「へぇ! すごいじゃん! 期待してるよ」
「ありがと……」あおいは更にいうーー「実は、五条くんの役もあるんだ……」
驚きだった。オリジナル台本において役があるということは、いってしまえばそれは「当て役」だということだ。(注:そうじゃないことも普通にあるけどな)
当て役とは、執筆者が、ひとりの役者をイメージして書き、その人に演じてもらうことを想定した役のことだ。
まだ会ってそんなに時間も経っていなかったが、あおいはあおいなりにおれの役を書いてくれた。これは本当に嬉しかった。
さて、準備運動と発声を終えるとすぐにあおいの台本に取り掛かる。
シナリオとしては、ひとつのアパートで巻き起こるドタバタ劇という感じーーそれ以上はいわないでおくわ、申し訳。
おれの役は、ナイーブながらもこころ優しい青年の役だった。アウトローな五条氏とは真逆ではあったが、読んでみると「こんな風に思われてるのか」と何か気恥ずかしかった。
台本を読み終え感想タイム。ヨシエさんは厳しくも温かいことばを投げ掛けていた。おれは、世界観が好きだったと伝えた。
稽古が終わると、緊張が解けたからか、あおいは泣き出してしまった。そんなあおいをヨシエさんをはじめ、多くの劇団員が慰めていた。何ともほっこりとする光景だった。そんな中、ユーキさんはあおいを弄って色んな人に怒られていたーーアホで草。
そして、おれは決意した。
いつか必ず自分のシナリオを書く。
いつになるかはわからない。どれほど時間が掛かるかもわからない。はじめからいいものが書けるとも思っていない。ただ、おれは、自分の手で、自分のアイディアで、自分のシナリオを書こうと決意したのだ。
稽古終わり、アフターに向かう道中で、おれはあおいにいった。
「今日の本、よかったよ」
そう伝えると、あおいはひとこと、ありがとうといった。おれは更にいったーー
「読んでたら、おれもシナリオを書いてみたくなった。だから、いつになるかわからないけど、書くつもり」
そう伝えるとあおいは、
「そっか。楽しみにしてる」
と笑顔を浮かべた。おれは、どぎまぎした。
翌週の稽古は、またもやオリジナル台本。作者は五〇代のおじさん団員である「正さん」。正さんは歌川広重が描きそうな顔をしている。
正さんのシナリオは、商店街のドタバタを描いたコメディだった。既に第三稿とのことだったが、その中にはおれの役も入っていた。
おれの役はレコード会社に勤める新入社員だったが、あまり深く読み込めず、不完全燃焼。もっと精進しなければ、と自分に戒めた。
そしてこの日、弥生と大原さんが『ブラスト』に入団した。ふたりとも、盛大に入団を歓迎されていた。
その翌週は、女性団員のテリーの台本だった。何故『テリー』なのか。それは、名前が「てるこ」だからだ。テリーはプロの腹話術師としても活躍しており、舞台では個性的でありながら、とても繊細な演技をする人だった。
テリーの台本は、とある中華料理屋を舞台にしたコメディだった。書き掛けではあったが、非常に面白く、おれの役もちゃんとあった。
ちなみに、テリーの台本は一年後に大幅に加筆修正され、上演されるのこととなったのだけど、その時、おれが演じた役名が、『五条竜也』。そう、『五条竜也』というペンネームはその時の役名から取ったものなのだ。まぁ、その話はいずれ機会があったらする。
そしてこの日の稽古終わりに、おれは『ブラスト』に入団した。歓迎半分、やっと入ったかという感じが半分。何と、今でも七回も見学して入団したのはおれしかいないらしい。そりゃ、やっと入ったかとも思われるわな。
そして、最後、立野さんのオリジナル台本だ。これは前回の台本とは別の、無国籍風戦国アクション台本だった。明らかにヒロキさんが持ってきた台本に触発されて書かれたのが丸わかりだったのだけど、これが面白く、おれの役もツイストの効いたものだった。
こうしてたくさんのオリジナル台本が出揃い、舞台でやるシナリオを決めることとなった。目移りする候補作品の中、おれはーー
と、今日はここまで。次回はーーどんな話になるかは、勝手に想像しておくれな。
じゃ、アスタラビスタ!