【ナナフシギ~睦拾~】
文字数 1,055文字
突然の物音は人の神経を逆撫でする。
驚きを呼び、恐怖を起こし、時には怒りさえも生み出してしまう。だが、この時は驚きと緊張感が強く前へ出ることとなった。
祐太朗は目を大きく見開いて闇のほうを眺めた。岩淵は何も動じていなかった。それはまるで、何が来るかわかっているように。
音は少しずつ大きく激しくなっていった。それはまるで足音のように規則正しく鳴っていた。何かがこっちに来る。祐太朗とエミリは表情を固くして身構えた。何かゴォーッという音が聴こえて来た。
目をしっかりと見開くふたり。と、何かの姿がぼんやりと映った。人だ。焦ったように走っている人の姿だった。そして、その大きさは小さく、まだ子供だとわかった。
清水だった。
エミリと祐太朗は清水の名前を呼んだ。清水もふたりのことに気がつき、その足を早めた。そして、ふたりの前まで来ると、その場でへたばってしまった。大きく息を吐く。本当に苦しそうだった。
「どうして?」
祐太朗が訊ねると清水は荒い呼吸を整えようとしながらいった。
「どうして......ッ! どうしてだよ......ッ!」
「何がだ?」
「どうして置いてくんだよ!」
清水がそういうと、祐太朗たちは岩淵のほうを見た。岩淵は何事もなかったかのような顔をしていた。祐太朗は岩淵にいった。
「どういうつもりだ?」
「どういうつもり、ですか?」岩淵はいった。「別に足が遅いが故に置いて行こうとしただけですよ?」
「は?」祐太朗は目をひん剥いた。「テメェ、自分が何いってんのかわかってんのか」
「わかってます。ですが、わたしは坊っちゃんたちのお守りが最優先でして」
「おれたちのためだったらコイツやエミリ、石川先生はどうなってもいいっていうのか」
「おや、弓永様の名前がありませんが」
「知るか、あんなヤツ」
「それでは坊っちゃんもわたしと同じだと思いますが?」
「あ?」
「わたしがこの小僧を置き去りにしたように、坊っちゃんも弓永様のことを見捨てようとそういっているワケではないですか」
「違えよ、マヌケ」
「何が違うというのですか?」
「あの男はおれがどうこうしなくても勝手に生き残るっていってんだよ」
「ふふ」不敵に笑う岩淵。「随分と信頼していらっしゃるのですね」
「うるせぇ」祐太朗はピシャリといった。「それに、おれはテメェみてえな冷血動物とは違うんだよ、ハゲ」
「止めてよ!」エミリが割って入った。「ケンカしに来たんじゃないでしょ! それより早くここから抜け出さないと。ほら」
エミリが窓の外を指差した。
空が白み始めていた。
【続く】
驚きを呼び、恐怖を起こし、時には怒りさえも生み出してしまう。だが、この時は驚きと緊張感が強く前へ出ることとなった。
祐太朗は目を大きく見開いて闇のほうを眺めた。岩淵は何も動じていなかった。それはまるで、何が来るかわかっているように。
音は少しずつ大きく激しくなっていった。それはまるで足音のように規則正しく鳴っていた。何かがこっちに来る。祐太朗とエミリは表情を固くして身構えた。何かゴォーッという音が聴こえて来た。
目をしっかりと見開くふたり。と、何かの姿がぼんやりと映った。人だ。焦ったように走っている人の姿だった。そして、その大きさは小さく、まだ子供だとわかった。
清水だった。
エミリと祐太朗は清水の名前を呼んだ。清水もふたりのことに気がつき、その足を早めた。そして、ふたりの前まで来ると、その場でへたばってしまった。大きく息を吐く。本当に苦しそうだった。
「どうして?」
祐太朗が訊ねると清水は荒い呼吸を整えようとしながらいった。
「どうして......ッ! どうしてだよ......ッ!」
「何がだ?」
「どうして置いてくんだよ!」
清水がそういうと、祐太朗たちは岩淵のほうを見た。岩淵は何事もなかったかのような顔をしていた。祐太朗は岩淵にいった。
「どういうつもりだ?」
「どういうつもり、ですか?」岩淵はいった。「別に足が遅いが故に置いて行こうとしただけですよ?」
「は?」祐太朗は目をひん剥いた。「テメェ、自分が何いってんのかわかってんのか」
「わかってます。ですが、わたしは坊っちゃんたちのお守りが最優先でして」
「おれたちのためだったらコイツやエミリ、石川先生はどうなってもいいっていうのか」
「おや、弓永様の名前がありませんが」
「知るか、あんなヤツ」
「それでは坊っちゃんもわたしと同じだと思いますが?」
「あ?」
「わたしがこの小僧を置き去りにしたように、坊っちゃんも弓永様のことを見捨てようとそういっているワケではないですか」
「違えよ、マヌケ」
「何が違うというのですか?」
「あの男はおれがどうこうしなくても勝手に生き残るっていってんだよ」
「ふふ」不敵に笑う岩淵。「随分と信頼していらっしゃるのですね」
「うるせぇ」祐太朗はピシャリといった。「それに、おれはテメェみてえな冷血動物とは違うんだよ、ハゲ」
「止めてよ!」エミリが割って入った。「ケンカしに来たんじゃないでしょ! それより早くここから抜け出さないと。ほら」
エミリが窓の外を指差した。
空が白み始めていた。
【続く】