【ナナフシギ~死拾漆~】
文字数 1,156文字
金属が打ち破られるような音がした。
外の風景は相変わらず、闇、闇ーー闇。一見して普通の夜の光景と変わらないが、普通の夜より闇は濃く見えた。
ドスンという鈍い音がした。金属製の扉が地面で波打っていた。
「あー、痛ぇ......」そういいながら、弓永は脚を擦った。「おれは蹴りは専門じゃねぇんだよ」
「その割には随分と勢いのある蹴りで」
呆然としながらいう森永ーー弓永と目があった。と、ふたりは湯が煮えるように沸々と笑い出す。小さな笑いは少しずつ大きくなり、学校全体に響き渡らんほどになった。森永は右手を顔の高さで掲げた。弓永はそれに呼応するように森永の右手を自分の右手で叩いたーー叩き合った。笑いは止まらなかった。
「見ろよ」弓永がいった。「やっぱプールだったんだな」
「でも、驚いたなぁ。マジでそうじゃん。何でわかったんだよ?」
「まぁ、勘だよな」
「勘!?」
「おれは優等生だからな」
「答えになってねぇよ」
そして、再びふたりは笑い出す。弓永は笑いつつもゆっくりといった。
「まぁ、でもおおよそ当てはあったんだ。水の音から考えると、そういう水滴の垂れる場所。だとしたら室内だと家庭科室か理科室。だとしたら閉じ込められているのは準備室だろうけど、どちらももう調査は済んでいるはずだし、準備室もここまで暗くはないはず」
「廊下の水道ってことはなかったのか?」
「......まぁ、ゼロじゃないけど。いくつか連なった水道が設置されるのは、基本的に教室の前だろ? だとしたら、ここは広すぎるし暗すぎる。で、夏場で水といったらーー」
「それで、プールか」
森永のいったように、ふたりが閉じ込められていたのは、プールの女子更衣室だった。
「でもよ」森永が口を開いた。「何だって窓のところにダンボールが貼られてんだよ」
そう、更衣室の窓にはダンボールが貼られていて光を通さない状態になっていたのだ。室内が真っ暗だったのはそのせいだった。
「知らないのか?」
さも当たり前といった様子で弓永はいった。森永は呆気に取られたようで、引きの様子ながらも、それは何かと訊ねた。
「じゃあ訊くけど、お前、女子の着替えーー」
森永は叫び出した。目は大きく、顔は真っ赤になっていた。身振りが大きくなり、弓永の肩を押さえてそれ以上いわさんとした。
「わかった、わかった! てか、おれはそんなことしねぇってぇの!」
「まだ何もいってないぞ?」ハッとする森永を見て、弓永は続けた。「やったのか」
沈黙。震える静寂。そして、破られる。
「三年の時にな! 悪ぃかよ!」
「悪い」
「......そんなハッキリいわなくても」
「まぁ、変態のことは後でどうにかするにして、取り敢えずやらなきゃいけないことがあるだろ?」
「......そうだな」
弓永と森永は校舎のほうへと目を向けた。
【続く】
外の風景は相変わらず、闇、闇ーー闇。一見して普通の夜の光景と変わらないが、普通の夜より闇は濃く見えた。
ドスンという鈍い音がした。金属製の扉が地面で波打っていた。
「あー、痛ぇ......」そういいながら、弓永は脚を擦った。「おれは蹴りは専門じゃねぇんだよ」
「その割には随分と勢いのある蹴りで」
呆然としながらいう森永ーー弓永と目があった。と、ふたりは湯が煮えるように沸々と笑い出す。小さな笑いは少しずつ大きくなり、学校全体に響き渡らんほどになった。森永は右手を顔の高さで掲げた。弓永はそれに呼応するように森永の右手を自分の右手で叩いたーー叩き合った。笑いは止まらなかった。
「見ろよ」弓永がいった。「やっぱプールだったんだな」
「でも、驚いたなぁ。マジでそうじゃん。何でわかったんだよ?」
「まぁ、勘だよな」
「勘!?」
「おれは優等生だからな」
「答えになってねぇよ」
そして、再びふたりは笑い出す。弓永は笑いつつもゆっくりといった。
「まぁ、でもおおよそ当てはあったんだ。水の音から考えると、そういう水滴の垂れる場所。だとしたら室内だと家庭科室か理科室。だとしたら閉じ込められているのは準備室だろうけど、どちらももう調査は済んでいるはずだし、準備室もここまで暗くはないはず」
「廊下の水道ってことはなかったのか?」
「......まぁ、ゼロじゃないけど。いくつか連なった水道が設置されるのは、基本的に教室の前だろ? だとしたら、ここは広すぎるし暗すぎる。で、夏場で水といったらーー」
「それで、プールか」
森永のいったように、ふたりが閉じ込められていたのは、プールの女子更衣室だった。
「でもよ」森永が口を開いた。「何だって窓のところにダンボールが貼られてんだよ」
そう、更衣室の窓にはダンボールが貼られていて光を通さない状態になっていたのだ。室内が真っ暗だったのはそのせいだった。
「知らないのか?」
さも当たり前といった様子で弓永はいった。森永は呆気に取られたようで、引きの様子ながらも、それは何かと訊ねた。
「じゃあ訊くけど、お前、女子の着替えーー」
森永は叫び出した。目は大きく、顔は真っ赤になっていた。身振りが大きくなり、弓永の肩を押さえてそれ以上いわさんとした。
「わかった、わかった! てか、おれはそんなことしねぇってぇの!」
「まだ何もいってないぞ?」ハッとする森永を見て、弓永は続けた。「やったのか」
沈黙。震える静寂。そして、破られる。
「三年の時にな! 悪ぃかよ!」
「悪い」
「......そんなハッキリいわなくても」
「まぁ、変態のことは後でどうにかするにして、取り敢えずやらなきゃいけないことがあるだろ?」
「......そうだな」
弓永と森永は校舎のほうへと目を向けた。
【続く】