【藪医者放浪記~伍拾玖~】
文字数 1,126文字
身代わりや影武者というのは、要人を守る手段のひとつとしては有効とはいいづらいといっていいだろう。
というのも、わざわさそれをすることに多大な手間が掛かることが要因となっているのはいうまでもないからだ。
そもそも、身代わりや影武者というのは、守ろうとする対象と見間違われなければならない。ということはつまり、その対象と様々な点において似通った部分がなければならないということだ。
例えば、身長が五尺三寸の者の影武者を五尺八寸の者がやろうとすると、必ず違和感が出てくる。そもそも、身長が変われば体格も変わって来る。仮にその人物がヒョロヒョロでかつ身長が高ければ、実寸よりも余計に高く見えてしまうだろうし、筋骨が隆々であれば、高く見える上に横幅もあるように見えてしまう。そう、体つきというのも、影武者、身代わりを選ぶ際には重要な点のひとつとなるのはいうまでもない。
仮に顔や体格を隠すからといっても、特注の籠であれば、その本人の体格に合わせて作られていることも多く、本人よりも体格が大きい者は身代わりになり得ない。逆に小さい者であれば余裕で条件を満たすが、わざわざ周りに従者が構えている籠の中の対象を狙うというのが非効率的で、突撃して暗殺しようと考えること自体があまりない。あったとしても、それは自死を覚悟した者であるが、そこまで捨て身になれる者はそう多くない。
仮に弓といった飛び道具で狙うにしても、相手は籠という動く標的で、しかもそういう籠であれば、やはり矢が籠を貫通して対象に届くことはあり得ないほどに頑丈だったりする。となると、やはり影武者、身代わりというのは、限りなく本人の姿が見える場合に置かれることが多くなる。
となると、身長体格だけでなく、容姿も重要なのはいうまでもない。
御簾の奥にいたのはお涼ーーすなわちこれはお咲の君の身代わりをお涼が務めていたということになるワケだ。
まぁ、見た目的にはまったくといっていいほど似ていないお涼とお咲の君ではあるが、体型は比較的似ていたこと、御簾のお陰で何となくの姿形しか見えなかったこともあって何とか誤魔化しは利いていたワケだ。
だが、それも終わりーー
「何だ、このおばさんは!」
藤十郎が叫んだ。と、これにはお涼も顔を赤くして、
「誰がおばさんだ!」
と声を荒げてしまった。まぁ、無礼も無礼なのだが、こうなってしまっては止まらない。藤十郎は松平天馬に事情の説明を求めるが、天馬はオドオドするばかり。お涼は尚も藤十郎に罵詈雑言を浴びせ掛ける。
もはや地獄絵図だった。と、そこにーー
「うるさいッ!」
という声が響き渡った。かと思いきや突然に奥の襖が開いた。と、そこにはーー
お咲の君の姿があった。
【続く】
というのも、わざわさそれをすることに多大な手間が掛かることが要因となっているのはいうまでもないからだ。
そもそも、身代わりや影武者というのは、守ろうとする対象と見間違われなければならない。ということはつまり、その対象と様々な点において似通った部分がなければならないということだ。
例えば、身長が五尺三寸の者の影武者を五尺八寸の者がやろうとすると、必ず違和感が出てくる。そもそも、身長が変われば体格も変わって来る。仮にその人物がヒョロヒョロでかつ身長が高ければ、実寸よりも余計に高く見えてしまうだろうし、筋骨が隆々であれば、高く見える上に横幅もあるように見えてしまう。そう、体つきというのも、影武者、身代わりを選ぶ際には重要な点のひとつとなるのはいうまでもない。
仮に顔や体格を隠すからといっても、特注の籠であれば、その本人の体格に合わせて作られていることも多く、本人よりも体格が大きい者は身代わりになり得ない。逆に小さい者であれば余裕で条件を満たすが、わざわざ周りに従者が構えている籠の中の対象を狙うというのが非効率的で、突撃して暗殺しようと考えること自体があまりない。あったとしても、それは自死を覚悟した者であるが、そこまで捨て身になれる者はそう多くない。
仮に弓といった飛び道具で狙うにしても、相手は籠という動く標的で、しかもそういう籠であれば、やはり矢が籠を貫通して対象に届くことはあり得ないほどに頑丈だったりする。となると、やはり影武者、身代わりというのは、限りなく本人の姿が見える場合に置かれることが多くなる。
となると、身長体格だけでなく、容姿も重要なのはいうまでもない。
御簾の奥にいたのはお涼ーーすなわちこれはお咲の君の身代わりをお涼が務めていたということになるワケだ。
まぁ、見た目的にはまったくといっていいほど似ていないお涼とお咲の君ではあるが、体型は比較的似ていたこと、御簾のお陰で何となくの姿形しか見えなかったこともあって何とか誤魔化しは利いていたワケだ。
だが、それも終わりーー
「何だ、このおばさんは!」
藤十郎が叫んだ。と、これにはお涼も顔を赤くして、
「誰がおばさんだ!」
と声を荒げてしまった。まぁ、無礼も無礼なのだが、こうなってしまっては止まらない。藤十郎は松平天馬に事情の説明を求めるが、天馬はオドオドするばかり。お涼は尚も藤十郎に罵詈雑言を浴びせ掛ける。
もはや地獄絵図だった。と、そこにーー
「うるさいッ!」
という声が響き渡った。かと思いきや突然に奥の襖が開いた。と、そこにはーー
お咲の君の姿があった。
【続く】