【藪医者放浪記~睦拾~】
文字数 1,113文字
秘密なんていつかは露見するモノだ。
それがたったひとりしか知らず、その人物が何も打ち明けずに死んだというのであれば、それは明らかにならずに終わるだろう。
だが、緊急で取り繕おうとしただけの秘密は基本的に長持ちはしない。それは所詮、自分の身を守るために即興でついた、継ぎ接ぎだらけのウソでしかないからだ。そういったウソは詰めが甘く、ボロが出やすい。
そして、この話全体を覆っているウソがここで露見することとなった。
「お咲様、アンタ......!」
茂作が喋ろうとするのを、お咲の君が制した。お咲の君の表情は非常に神妙なモノとなっていた。まるで覚悟を決めたかのように真剣になっていた。
「茂作、ありがとう。でも、もういいんだよ」
お咲の君はそうはいうが、茂作としてはいいことなんてない。顔は相変わらず引きつったままで、両手をやり場もなくジタバタさせている。それもそうだろう。お咲の君の喋れない病気が本人のウソだとしても、それはお咲の君だから何とかなるであろう話であって。問題は茂作が否定する機会をすべて無下にして、しかもお礼の財に目がくらんで医者であると偽り続けたことである。これはどう転んでも擁護することは出来ない。
「お涼さん、ですね」お咲の君が呆然とするお涼にいった。「ここまでありがとう。ご迷惑をおかけしました」
と、お咲の君は頭を下げた。お涼はハッとしてお咲の君に頭を上げるよういい、お咲の君はゆっくりと頭を上げた。
「お咲......」天馬がいった。「お前、もう大丈夫なのか?」
「父上、この度はとんだワガママに付き合わせてしまってごめんなさい。でも、これはワラワの問題でもあります故、いわせて下さい」そういうとお咲の君は藤十郎に厳しい視線を向けた。「武田藤十郎殿、でございますね。誠に申し訳ないのですが、この縁談はお断りさせて頂きます」
そのひとことで辺りは騒然となった。何の事情も知らない天馬たちはもちろん、事情を知っている茂作も声を上げて驚いた。
「......なるほど、それは何故?」
怒りを抑えるように藤十郎はいった。お咲の君はそんな様子にはまったく構わず、
「アナタがとても身勝手な人だから。アナタの周りにいる人はアナタのために一歩ずつ進撃する歩ではないの」
相手がいくらお咲の君とはいえ、藤十郎もこのひとことには不服だったようだ。
「......なるほど、では、決闘という形で決着をつけるのが、ちょうどいいですね」
「ほんと、そういうことしか考えておられないのですね」皮肉混じりにお咲の君はいった。「でも、いいでしょう。源之助! この者たちをよろしくお願いするよ!」
猿田はハッとしつつも頭をペコリと下げた。
【続く】
それがたったひとりしか知らず、その人物が何も打ち明けずに死んだというのであれば、それは明らかにならずに終わるだろう。
だが、緊急で取り繕おうとしただけの秘密は基本的に長持ちはしない。それは所詮、自分の身を守るために即興でついた、継ぎ接ぎだらけのウソでしかないからだ。そういったウソは詰めが甘く、ボロが出やすい。
そして、この話全体を覆っているウソがここで露見することとなった。
「お咲様、アンタ......!」
茂作が喋ろうとするのを、お咲の君が制した。お咲の君の表情は非常に神妙なモノとなっていた。まるで覚悟を決めたかのように真剣になっていた。
「茂作、ありがとう。でも、もういいんだよ」
お咲の君はそうはいうが、茂作としてはいいことなんてない。顔は相変わらず引きつったままで、両手をやり場もなくジタバタさせている。それもそうだろう。お咲の君の喋れない病気が本人のウソだとしても、それはお咲の君だから何とかなるであろう話であって。問題は茂作が否定する機会をすべて無下にして、しかもお礼の財に目がくらんで医者であると偽り続けたことである。これはどう転んでも擁護することは出来ない。
「お涼さん、ですね」お咲の君が呆然とするお涼にいった。「ここまでありがとう。ご迷惑をおかけしました」
と、お咲の君は頭を下げた。お涼はハッとしてお咲の君に頭を上げるよういい、お咲の君はゆっくりと頭を上げた。
「お咲......」天馬がいった。「お前、もう大丈夫なのか?」
「父上、この度はとんだワガママに付き合わせてしまってごめんなさい。でも、これはワラワの問題でもあります故、いわせて下さい」そういうとお咲の君は藤十郎に厳しい視線を向けた。「武田藤十郎殿、でございますね。誠に申し訳ないのですが、この縁談はお断りさせて頂きます」
そのひとことで辺りは騒然となった。何の事情も知らない天馬たちはもちろん、事情を知っている茂作も声を上げて驚いた。
「......なるほど、それは何故?」
怒りを抑えるように藤十郎はいった。お咲の君はそんな様子にはまったく構わず、
「アナタがとても身勝手な人だから。アナタの周りにいる人はアナタのために一歩ずつ進撃する歩ではないの」
相手がいくらお咲の君とはいえ、藤十郎もこのひとことには不服だったようだ。
「......なるほど、では、決闘という形で決着をつけるのが、ちょうどいいですね」
「ほんと、そういうことしか考えておられないのですね」皮肉混じりにお咲の君はいった。「でも、いいでしょう。源之助! この者たちをよろしくお願いするよ!」
猿田はハッとしつつも頭をペコリと下げた。
【続く】