【一年三組の皇帝~拾参~】
文字数 1,157文字
気分が悪かった。
気分が悪くて仕方がなかった。何だってこんな面倒なことになっているのだろうとウンザリした。自分のクラスじゃ可笑しなゲームが流行り、その結果に一喜一憂しているヤツラを横目に見る毎日。そして、部活に行けば、やたらと因縁を付けて来る女子がいる。
ぼくが何をしたというのだ。確かにぼくは望んで演劇部に入ったワケではない。それどころか、演劇自体興味がない。映画は好きだし、そういった芝居はとても興味があるけれど、舞台に立ってやる演劇というのには全然こころが動かされなかった。
夕方の川澄通り商店街は学生まみれ。中学生も高校生も入り乱れている。学ラン、ブレザー、セーラー服、まさに放課後といった光景だった。ぼくもそのひとりだった。だが、笑顔で談笑している彼らに比べて、ぼくは顔をしかめてつまらなそうにしていたーーいや、実際につまらなくて仕方なかった。
岩浪先輩に稽古場を追い出されてからというもの、ぼくはいずみにどうして因縁をつけて来るのか訊ねてみようとした。だが、いずみはぼくになど興味も示さず、ひとりでさっさと帰ってしまった。
雑踏。ぼくはストリートを歩いた。まるで逆風が吹いているように、通行人はぼくとは逆方向に進んでいるーーそんな感じがした。世間はぼくとは真逆に進んでいる。ぼくは孤独だった。昔からの友達は『ネイティブ』に狂い、今となっては優等生のパシリも同然になっていた。新しく友達になった和田は正直何を考えているのかわからなかった。
春奈。ぼくはこんなふざけた騒動に春奈を巻き込みたくなかった。確かに彼女も生活安全委員だ。でも、今回の件は春奈にはあまりにもミスマッチだった。彼女に何が出来るというのだ。『ネイティブ』に混ざってプレイするか? 確かに『ネイティブ』は女子も普通に混じって遊んでいるが、春奈のようなタイプの人が首を突っ込むのは明らかに変だ。そもそも、そういうモノには無縁な印象があるし、参加したところで必ず勝てるワケではない。ル・シッフルにポーカーで挑んだジェームズ・ボンドとはワケが違うのだ。
じゃあ、それならぼくも同じじゃないか。
必勝法なんかない。勝てるはずがない。そうでなくとも、相手はチーム。チームの誰かが勝てばそれでぼくの負け。田宮を味方につけるにも、田宮は負け分のせいで相手方のいいなり。期待は出来ない。では、和田は? 確かにゲームは強そうだが、あの手のトランプゲームはどうだろう。となると......。
肩に何かがぶつかった。
「ごめんなさい」
ぼくは反射的に謝った。だが、
「痛ぇな、何処見て歩いてんだよ!」
威圧的な声がぼくの背中を刺した。ぼくは振り返った。そして、ハッとした。相手たちも同じ反応を示していた。
辻、山路、海野の三人が呆然と立ち尽くしていた。
【続く】
気分が悪くて仕方がなかった。何だってこんな面倒なことになっているのだろうとウンザリした。自分のクラスじゃ可笑しなゲームが流行り、その結果に一喜一憂しているヤツラを横目に見る毎日。そして、部活に行けば、やたらと因縁を付けて来る女子がいる。
ぼくが何をしたというのだ。確かにぼくは望んで演劇部に入ったワケではない。それどころか、演劇自体興味がない。映画は好きだし、そういった芝居はとても興味があるけれど、舞台に立ってやる演劇というのには全然こころが動かされなかった。
夕方の川澄通り商店街は学生まみれ。中学生も高校生も入り乱れている。学ラン、ブレザー、セーラー服、まさに放課後といった光景だった。ぼくもそのひとりだった。だが、笑顔で談笑している彼らに比べて、ぼくは顔をしかめてつまらなそうにしていたーーいや、実際につまらなくて仕方なかった。
岩浪先輩に稽古場を追い出されてからというもの、ぼくはいずみにどうして因縁をつけて来るのか訊ねてみようとした。だが、いずみはぼくになど興味も示さず、ひとりでさっさと帰ってしまった。
雑踏。ぼくはストリートを歩いた。まるで逆風が吹いているように、通行人はぼくとは逆方向に進んでいるーーそんな感じがした。世間はぼくとは真逆に進んでいる。ぼくは孤独だった。昔からの友達は『ネイティブ』に狂い、今となっては優等生のパシリも同然になっていた。新しく友達になった和田は正直何を考えているのかわからなかった。
春奈。ぼくはこんなふざけた騒動に春奈を巻き込みたくなかった。確かに彼女も生活安全委員だ。でも、今回の件は春奈にはあまりにもミスマッチだった。彼女に何が出来るというのだ。『ネイティブ』に混ざってプレイするか? 確かに『ネイティブ』は女子も普通に混じって遊んでいるが、春奈のようなタイプの人が首を突っ込むのは明らかに変だ。そもそも、そういうモノには無縁な印象があるし、参加したところで必ず勝てるワケではない。ル・シッフルにポーカーで挑んだジェームズ・ボンドとはワケが違うのだ。
じゃあ、それならぼくも同じじゃないか。
必勝法なんかない。勝てるはずがない。そうでなくとも、相手はチーム。チームの誰かが勝てばそれでぼくの負け。田宮を味方につけるにも、田宮は負け分のせいで相手方のいいなり。期待は出来ない。では、和田は? 確かにゲームは強そうだが、あの手のトランプゲームはどうだろう。となると......。
肩に何かがぶつかった。
「ごめんなさい」
ぼくは反射的に謝った。だが、
「痛ぇな、何処見て歩いてんだよ!」
威圧的な声がぼくの背中を刺した。ぼくは振り返った。そして、ハッとした。相手たちも同じ反応を示していた。
辻、山路、海野の三人が呆然と立ち尽くしていた。
【続く】