【テクノロジーという殺戮者】

文字数 3,421文字

 時代というのは常に変化している。

 それは流行だったり、文明だったり様々な形で変化しており、人はそれに合わせて生活様式を変化させている。

 人類が誕生してから随分と経つが、その中でも人は素っ裸から、草や藁で股間を隠すことを覚え、褌に着物を着るようになり、今ではパンツに洋服を着用するようになった。

 人とのコミュニケーションにもいつしかことばが用いられるようになり、それが石に文字を刻みようになったかと思えば、今度は紙に文字を書くようになった。

 時代は進み伝達の技術は発達し、電話ができるようになり、かと思いきや大きかった電話もコンパクトになって携帯できるようになった。

 更には電子メールによって人は用件を簡易的かつ迅速に伝えられるようになったことで、人とのコミュニケーションは更なるスピードをもって済ませることが可能となった。

 そして、現在。電話もメールも殆ど廃れ、ラインのような更に簡易化されたコミュニケーションツールが出来た。連絡先のわからない相手でも、ソーシャルネットワーキングサービスの発達によって連絡ができることは勿論、相手の近況を知ることもできるようになった。

 今の時代は日本の片田舎から世界の片隅にまでアクセスできるようになった。

 知りたいことがあれば、ネットワークの海に潜って検索することができるし、わざわざ人に会いに行ったり、図書館通いするまでもなくなった。更には学校に通うことも。仕事も現場仕事でなければリモートで何とかなってしまうし、買い物だって店に行かずとも、更には現金を持たずとも出来るようになった。

 人々の生活は日々ミニマルになりつつある。

 だが、中にはそういった時代の変化についていけない人がいるのもひとつの現実だ。

 かくいうおれも時代の変化についていけていないタイプの人間なのだけど、正直、それではダメだろうなと危機感を抱いている。

 というのも、一時代という縮小しつつある孤島に取り残されれば、過去という小さな島に依存し、すがり付くようになり、変化を続ける現代というモノを疎むようになってしまう。

 それはつまり、「老害化」してしまうということだ。

 そうなれば、現代という常に変化を続ける時間軸に対し、「おれの若い頃はーー」などといった「時代遅れな尺度」でしかモノを語ることが出来なくなる。そうなれば、周りからの理解も得られなくなり、最終的には、

「近頃の若いヤツはーー」

 と現代を生きる若い人を一挙に括りカテゴライズして、自分とは違う「異分子化」して自己を正当化しようとするようになってしまう。

 おれは、それではダメだと思うのだ。時代が進歩するにつれて人も進化していかなければ、この世の中を生き抜いていくことは難しい。

 とはいいつつも、文明の進化による利便性に胡座を掻いた結果、失われたモノもたくさんある、とおれは思っている。

 更にそれだけではない。

 情報が氾濫するこの世の中では、ネットワークがひとつの管理社会を作り上げている。

 人と人との距離は縮まったように見えて、逆に精神的な距離は更に遠ざかっているように思えるし、SNSによって他人の生活がより身近に感じられることで、自分と他人とを比較しがちになり、無駄な劣等感や嫉妬心を抱くこともあれば、距離が縮まったような思える分、同調圧力も強くなり、肩身の狭い想いをしなければならなくなっていることもしばしばある。

 確かに文明が進化することはいいことだ。とはいえ、それが必ずしも良い結果だけをもたらしているかというとそうでもないと思うのだ。

 さて、今日はそんなテクノロジーの進化についていけていないおれの失敗に関する話をしていこうと思う。枕長すぎだよな。

 あれは数年前、おれが『ブラスト』に入って二年目になる年のことだった。

 台本も決まり、公演を打つ箱も決まって本番に向けての稽古が始まって少し経った時のことだった。

 おれは二年目ということもあって、『ブラスト』の環境に漸く慣れて来た感じで、公演に関しても自分から積極的に参加できるような立場になってきていた。

 さて、そんな夏のある日、おれブラストの舞台で使う舞台装置を、当時OBだったたけしさんの家にて製作する作業を終え、稽古に向けて一旦家に帰宅したのだ。

 家に帰り、ブラストのグループラインにメッセージを送らなければと思い、グループのメッセージ画面を開いたのだけど、時間に追われていたおれは、メッセージは後回しに、メシの準備をすることにしたのだーースマホを尻ポケットに突っ込んで。

 メシを終えると、夏の炎天の元で掻いた汗を流すためにシャワーを浴び、家を出る準備をし、家を出ようとしたのだけど、そこで一通のメッセージが届いたのだ。

 何だろうと思いメッセージを見ると、送り主はよしえさんで、内容はひとこと、

「どうした?」

 だった。この時のよしえさんは既にブラストを退団していたのだけど、とはいえ運営から退いたくらいで、団体との交流は全然ある状態だった。

 とはいえ、である。

 どうして急にそんなメッセージを送って来たのか、おれにはわからなかった。

 そもそも、よしえさんとはブラストに来たときに話すことはあったが、その日は特に会ってもいなかったし、直近でメッセージのやり取りをしてもいなかった。では何故。

 おれはよしえさんにその真意を訊こうとメッセージ画面を開いた。が、そこにはーー

 送った覚えのないメッセージがおれの水晶体に映ったのだ。

 これには混乱もいいところ。そう、よしえさんは送った覚えのないおれからのメッセージに対し、「どうした?」と返信したのだ。で、そのおれのメッセージというのはーー

 変な顔文字に、「言ってくれれば用意したのに」みたいな変なコメントが差し込まれたモノだったのだ。

 まったくもって意味がわからなかった。そもそも顔文字が入っている意味がわからないし、何かの拍子に文字を打ち込んだにしても「言ってくれれば用意したのに」なんてメッセージが都合よく打ち込まれるなんて有り得ない。

 マジでワケがわからなかった。

 もしかして、グループメッセージを開いたまま尻ポケットにスマホを入れたのがマズかったのか?ーーだとしても、こんな都合いいメッセージが打たれるワケがない。だからタッチパネルって嫌いなんだよーー老害の戯れ言。

 おれは冷や汗を額に溜めたまま即座によしえさんに弁解のメッセージを送ったのだ。

 が、何かイヤな予感がした。

 よしえさんに変なメッセージが送られていたということは、もしかしたら送った相手もよしえさんだけとは限らないのでは。まさか、な。そう思いつつも、おれはトーク一覧を開いたのだ。そしたら、

 案の定ひとりじゃなかったんだな。

 もうね、ウンザリですわ。まぁ、幸い、よしえさん以外に送ったのが、当時ブラストのメンバーだった「えみりん」だけだったのだけど。

 とはいえ、その時のおれはえみりんとそこまで仲がいいワケでもなく、変なメッセージを送るというのもよろしくない。ちなみにそのメッセージの内容はーー

 よしえさんのと同じだったんだわ。

 そう、変な絵文字に「言ってくれれば用意しといたのに」というワケのわからないコメントが差し込まれたモノだったのだ。

 どういうこととマジで混乱したよな。そもそも、いってくれたら何を用意するんだ、おれは。しかもおれ自身、普段は絵文字なんかまったく使わないのに、この時に限って変な絵文字を使っているものだからーー

 マジで頭がイカレたと思われても可笑しくないよな。

 いや、元から頭が可笑しーーそれはいわなくてもわかるか。

 まぁ、それからえみりんにも速攻で弁解のメッセージを送り、青い顔をしながら稽古に向かったんですが、よしえさんからは何とか納得してもらえ、稽古場で会ったえみりんからは普通に笑われましたわ……。

 結局、このワケのわからないメッセージが送信された原因は不明。この当時はラインもメッセージの送信を取り消す機能がなかったこともあって、まぁ、不便したよな。

 ひとついえるのは、ラインもスマホも今でも全然慣れねぇーーというか、全然使いこなせてる気がしないんよな。

 危うくブラスト内で社会的にデッドエンドするところだった五条氏でした。もう技術の進歩についていける気がしねえわ。

 え、おれにとっては平常運転?ーー違う、といいたいけど否定できないよな。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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