【外山慎平の憂鬱】
文字数 3,293文字
身の危険というのはどこに潜んでいるかわからない。
そりゃ、ストリートに出ればいつ交通事故に遭うかわからないし、上から重量物が落ちてこないとも限らない。
汚物を掛けられる、あるいは踏む可能性もないとはいえないし、そう考えると外は危険でいっぱいだ。
それに、何も危険とはそういったことばかりではない。というのも、ストリートを見回せば、必ずひとりは柄の悪いチンピラがいるということだ。
チンピラというのは、基本的に自分よりも弱そうな相手に対して凄んだり、強く出たりする。だから面倒なのだ。
かくいうおれも、そもそもの目付きが悪かったり、目付きの悪さを緩和するためにメガネを掛けたりすることもあってか、やたらとチンピラに絡まれることが多いのだーーそれ、もはや目付きの問題じゃねえよな。
まぁ、とはいえ明確な被害に遭ったのは最初の一回だけで、以降は基本的に上手く退けている。正直自分でもよく逃げられたもんだなと思うのだけど、こんなにもチンピラに絡まれると自分の命も長くは持たない気がしてならない。
「絡まれたら得意の居合と沖縄空手で撃退しろよ!」
みたいなことをいうガイキチはいないと思うのだけど、不思議なことに居合始めてからというものチンピラに絡まれたのは一度だけ、だったと思う。それも上手く逃げたんだけど。
ただ、正直な話、チンピラに絡まれるも怖いものだ。というのも、相手がどれ程のやり手かもわからず、凶器の有無もわからないからだ。
未知の敵相手に無理に対決するのは得策ではない。弓永やアイ、和雅に祐太朗みたいな無謀は基本するべきではないのだ。
とはいえ、中にはただ調子こいただけのマヌケもいる。
そういったマヌケは基本的には弱い。だからこそ威圧的に振る舞い、自分が強いと演出する。まぁ、そいつが凶器を持っていたら話は別だけど、素手なら案外いけなくもーーまずないとは思うけど、もし警察にいかれた場合は面倒なんで、やっぱ逃げたほうがいい。
さて、そんなワケで今日話すのはおれの話じゃなくて、友人の外山が経験した話だ。
おれはその場にはいなかったんで事実関係は完全にはわからないのだけど、知人が目撃した内容と外山本人が話していた内容に齟齬はなかったんで、ほぼ正確だと思う。
タイトル的に小説の登場人物としての『外山慎平』の話と思った人もいるかもしれんけど、そっちじゃなくてモデルになったほうの話です。てか、『この夜~』の影響で令和三年以降の話でないと外山のシナリオは書けんのよね。
プラス、この話はどこかでシナリオに落とし込もうと思っていたエピソードなんだけど、ま、いいや。書いちゃうわ。
じゃ、やってくーー
あれは高校二年の時だった。学校帰りのバスの中で、おれは部活終わりの外山と一緒になった。
おれと外山は、当時は今ほど仲がいいワケではなく、友人ではあるが、クラスも違うし、会話相手も別にいるといった感じだった。
とはいえ、小学校からの同級生で、中学時代は部活も塾も一緒だったこともあって、会えば談笑するし、関係に淀みはまったくなかった。
その日もいつも通り互いのクラスの話、教師の話等で盛り上がった。そんな中ーー
「そういえばさぁ、この前、こんなことがあったんだよ」
と外山は語り出したのだ。
話は一週間前の日曜に遡る。その日、外山は高校卓球部の友人で小、中学時代の同級生でもある下関と一緒に五村市内にあるゲームセンターにいったのだそうだ。
この時期の外山は音ゲーにハマっており、その腕前のせいで女子高生に囲まれて黄色い歓声を上げられたこともあるほどだった。
とはいえ、そういうのに慣れていない外山は、その黄色い歓声を聞いて緊張し、アホみたいなしくじりをしてゲームオーバー。逃げるようにその場を去っていったんだとか。
そんなこともあって、外山は下関と一緒にひっそりと音ゲーをやっていたんだそう。
それから一、二時間が経ち、外山と下関は他のブースへ移動しようとしたのだそうだ。そしたら、
「おい」
からっとした比較的高めの声が聴こえたのだそう。が、外山は特に何の反応もせずにいこうとした。しかし、突然うしろから肩を叩かれ、
「お前だよ、お前」
外山はそこで足を止め、うしろを振り返った。目の前にいたのは、背が低めで坊主頭のガキだった。ガキといっても見るからに不良気取りで、右に左に揺れる様は威圧感を出そうとしているというより、ただ単に姿勢が悪いだけなのだろうという印象だったという。
「あ? 何?」
威圧的なガキに対し、外山も負けていない。実をいえば、外山はメガネにボサッとした髪型という見た目こそオタクっぽかったが、案外気が強く、ちょっとの圧力じゃ絶対に屈しない性質の持ち主だった。
が、そんな風に答えたもんだから、ガキも鼻息ムンムンで興奮してしまったらしく、
「あ? 何だその口の利き方は。あ? 舐めてんのか、あ? どうなんだ、あ?」
とおおよそ義務教育を受けた人間とは思えないレベルの語彙力で外山に突っかかっていったとのことだった。
とはいえ、外山サイドはふたり。馬鹿なガキひとりで相手になるようなーー
その時、下関がダッシュで逃げていったそうだ。
この下関、いうまでもなくおれの小、中の同級生でもあるのだけど、当時からまぁ、とんでもなく評判が悪かった。
というのも、下関は周りから性悪、不潔、利己主義、理屈っぽい屁理屈屋、イジリと暴力の区別がつかない、などといわれるほどのプロフェッショナルダメ人間だった。
そのせいで成績は学年でもトップクラスだったにも関わらず、教師からの評判もあまり芳しくなかった。そういや一度、健太郎くんを怒らせて、ボコボコにされて泣いてたことがあったな。それはさておきーー
「何だアイツ、あれでも友達かよ」
こればかりは、ガキのいい分が正しかったとのこと。てか友人置いて逃げるなよ。
「で、どうすんだ。あ? 金払うか、あ? 払わねえならやってやんぞ、あ? どうだ、あ?」
もはや二秒に一度喘がなければ生きていけないような全身性感帯人間なんじゃないかと疑うレベルで「あ?」を連呼しているのだけど、流石に外山もウンザリしてしまったようで、
「払わねえよ、バカ」
と呆れ気味に答えたのだそう。そしたら、
ガキが唐突に外山の胸の辺りを殴ったのだそうだ。
「どうだ、痛いか? おれは空手をやってるからなぁ」
ちなみに全然痛くなかったらしい。というか、まるでタオルでも擦れたかなって感触だったとのこと。空手をバカにしすぎだろ……。
が、調子づくガキを他所に、外山も到頭頭に血が昇ってしまいーー
外山はガキをぶん殴ってしまったのだ。
外山の拳はガキのアゴにクリーンヒットした。これにはガキも思い切りグラついてしまい、完全に勝負は決していたとのこと。というか、ガキも殆ど戦意喪失してたらしい。
ガキの身体がプルプル震えだす。そして、ガキが取った行動は、
外山のメガネを奪うことだった。
これは外山も予想してなかったらしく、流石に困惑してしまったとのことだ。
「メガネ返せよ!」
外山が強硬な姿勢を見せると、ガキは、
「か、返して欲しがったら、なぁ! ご、五百円、は、払えよぉ!」
ブルっているのはいうまでもなかったが、そうまでして金が欲しいとなると逆に憐れだ。それからというもの、外山はもはや面倒臭くなってしまい、ガキに五百円払ってメガネを返して貰ったとのことだ。
「何だ、それ。てか、五百円て。カツアゲにしても安すぎるだろ。で、下関はどうなったん?」
話が終わり外山にそう訊ねると、外山は、
「アイツ、ずっとトイレに隠れてやがったんだよ。問い詰めても、意味不明な屁理屈しかいわねえし、ほんと、ウザイわ」
ちなみに、外山と下関は、高校時代こそその後も付き合いはあったが、卒業後はまったく会っていない。というか、中、高の同級生で今でも下関と繋がりのあるヤツがいるかすらわからない。とりあえず、ひとついえるのはーー
五百円は安すぎる。
アスタラビスタ。
そりゃ、ストリートに出ればいつ交通事故に遭うかわからないし、上から重量物が落ちてこないとも限らない。
汚物を掛けられる、あるいは踏む可能性もないとはいえないし、そう考えると外は危険でいっぱいだ。
それに、何も危険とはそういったことばかりではない。というのも、ストリートを見回せば、必ずひとりは柄の悪いチンピラがいるということだ。
チンピラというのは、基本的に自分よりも弱そうな相手に対して凄んだり、強く出たりする。だから面倒なのだ。
かくいうおれも、そもそもの目付きが悪かったり、目付きの悪さを緩和するためにメガネを掛けたりすることもあってか、やたらとチンピラに絡まれることが多いのだーーそれ、もはや目付きの問題じゃねえよな。
まぁ、とはいえ明確な被害に遭ったのは最初の一回だけで、以降は基本的に上手く退けている。正直自分でもよく逃げられたもんだなと思うのだけど、こんなにもチンピラに絡まれると自分の命も長くは持たない気がしてならない。
「絡まれたら得意の居合と沖縄空手で撃退しろよ!」
みたいなことをいうガイキチはいないと思うのだけど、不思議なことに居合始めてからというものチンピラに絡まれたのは一度だけ、だったと思う。それも上手く逃げたんだけど。
ただ、正直な話、チンピラに絡まれるも怖いものだ。というのも、相手がどれ程のやり手かもわからず、凶器の有無もわからないからだ。
未知の敵相手に無理に対決するのは得策ではない。弓永やアイ、和雅に祐太朗みたいな無謀は基本するべきではないのだ。
とはいえ、中にはただ調子こいただけのマヌケもいる。
そういったマヌケは基本的には弱い。だからこそ威圧的に振る舞い、自分が強いと演出する。まぁ、そいつが凶器を持っていたら話は別だけど、素手なら案外いけなくもーーまずないとは思うけど、もし警察にいかれた場合は面倒なんで、やっぱ逃げたほうがいい。
さて、そんなワケで今日話すのはおれの話じゃなくて、友人の外山が経験した話だ。
おれはその場にはいなかったんで事実関係は完全にはわからないのだけど、知人が目撃した内容と外山本人が話していた内容に齟齬はなかったんで、ほぼ正確だと思う。
タイトル的に小説の登場人物としての『外山慎平』の話と思った人もいるかもしれんけど、そっちじゃなくてモデルになったほうの話です。てか、『この夜~』の影響で令和三年以降の話でないと外山のシナリオは書けんのよね。
プラス、この話はどこかでシナリオに落とし込もうと思っていたエピソードなんだけど、ま、いいや。書いちゃうわ。
じゃ、やってくーー
あれは高校二年の時だった。学校帰りのバスの中で、おれは部活終わりの外山と一緒になった。
おれと外山は、当時は今ほど仲がいいワケではなく、友人ではあるが、クラスも違うし、会話相手も別にいるといった感じだった。
とはいえ、小学校からの同級生で、中学時代は部活も塾も一緒だったこともあって、会えば談笑するし、関係に淀みはまったくなかった。
その日もいつも通り互いのクラスの話、教師の話等で盛り上がった。そんな中ーー
「そういえばさぁ、この前、こんなことがあったんだよ」
と外山は語り出したのだ。
話は一週間前の日曜に遡る。その日、外山は高校卓球部の友人で小、中学時代の同級生でもある下関と一緒に五村市内にあるゲームセンターにいったのだそうだ。
この時期の外山は音ゲーにハマっており、その腕前のせいで女子高生に囲まれて黄色い歓声を上げられたこともあるほどだった。
とはいえ、そういうのに慣れていない外山は、その黄色い歓声を聞いて緊張し、アホみたいなしくじりをしてゲームオーバー。逃げるようにその場を去っていったんだとか。
そんなこともあって、外山は下関と一緒にひっそりと音ゲーをやっていたんだそう。
それから一、二時間が経ち、外山と下関は他のブースへ移動しようとしたのだそうだ。そしたら、
「おい」
からっとした比較的高めの声が聴こえたのだそう。が、外山は特に何の反応もせずにいこうとした。しかし、突然うしろから肩を叩かれ、
「お前だよ、お前」
外山はそこで足を止め、うしろを振り返った。目の前にいたのは、背が低めで坊主頭のガキだった。ガキといっても見るからに不良気取りで、右に左に揺れる様は威圧感を出そうとしているというより、ただ単に姿勢が悪いだけなのだろうという印象だったという。
「あ? 何?」
威圧的なガキに対し、外山も負けていない。実をいえば、外山はメガネにボサッとした髪型という見た目こそオタクっぽかったが、案外気が強く、ちょっとの圧力じゃ絶対に屈しない性質の持ち主だった。
が、そんな風に答えたもんだから、ガキも鼻息ムンムンで興奮してしまったらしく、
「あ? 何だその口の利き方は。あ? 舐めてんのか、あ? どうなんだ、あ?」
とおおよそ義務教育を受けた人間とは思えないレベルの語彙力で外山に突っかかっていったとのことだった。
とはいえ、外山サイドはふたり。馬鹿なガキひとりで相手になるようなーー
その時、下関がダッシュで逃げていったそうだ。
この下関、いうまでもなくおれの小、中の同級生でもあるのだけど、当時からまぁ、とんでもなく評判が悪かった。
というのも、下関は周りから性悪、不潔、利己主義、理屈っぽい屁理屈屋、イジリと暴力の区別がつかない、などといわれるほどのプロフェッショナルダメ人間だった。
そのせいで成績は学年でもトップクラスだったにも関わらず、教師からの評判もあまり芳しくなかった。そういや一度、健太郎くんを怒らせて、ボコボコにされて泣いてたことがあったな。それはさておきーー
「何だアイツ、あれでも友達かよ」
こればかりは、ガキのいい分が正しかったとのこと。てか友人置いて逃げるなよ。
「で、どうすんだ。あ? 金払うか、あ? 払わねえならやってやんぞ、あ? どうだ、あ?」
もはや二秒に一度喘がなければ生きていけないような全身性感帯人間なんじゃないかと疑うレベルで「あ?」を連呼しているのだけど、流石に外山もウンザリしてしまったようで、
「払わねえよ、バカ」
と呆れ気味に答えたのだそう。そしたら、
ガキが唐突に外山の胸の辺りを殴ったのだそうだ。
「どうだ、痛いか? おれは空手をやってるからなぁ」
ちなみに全然痛くなかったらしい。というか、まるでタオルでも擦れたかなって感触だったとのこと。空手をバカにしすぎだろ……。
が、調子づくガキを他所に、外山も到頭頭に血が昇ってしまいーー
外山はガキをぶん殴ってしまったのだ。
外山の拳はガキのアゴにクリーンヒットした。これにはガキも思い切りグラついてしまい、完全に勝負は決していたとのこと。というか、ガキも殆ど戦意喪失してたらしい。
ガキの身体がプルプル震えだす。そして、ガキが取った行動は、
外山のメガネを奪うことだった。
これは外山も予想してなかったらしく、流石に困惑してしまったとのことだ。
「メガネ返せよ!」
外山が強硬な姿勢を見せると、ガキは、
「か、返して欲しがったら、なぁ! ご、五百円、は、払えよぉ!」
ブルっているのはいうまでもなかったが、そうまでして金が欲しいとなると逆に憐れだ。それからというもの、外山はもはや面倒臭くなってしまい、ガキに五百円払ってメガネを返して貰ったとのことだ。
「何だ、それ。てか、五百円て。カツアゲにしても安すぎるだろ。で、下関はどうなったん?」
話が終わり外山にそう訊ねると、外山は、
「アイツ、ずっとトイレに隠れてやがったんだよ。問い詰めても、意味不明な屁理屈しかいわねえし、ほんと、ウザイわ」
ちなみに、外山と下関は、高校時代こそその後も付き合いはあったが、卒業後はまったく会っていない。というか、中、高の同級生で今でも下関と繋がりのあるヤツがいるかすらわからない。とりあえず、ひとついえるのはーー
五百円は安すぎる。
アスタラビスタ。