【新年浮遊~壱~】
文字数 1,158文字
サチコは祐太朗の大学時代の同期だった。
同期とはいっても深い仲というワケではなく、大学のバンドサークルで一緒で、会えば談笑できる程度の関係だった。
とはいえ、サークル内の人間関係自体、結構ドロドロしていたことを考えると、祐太朗とサチコはクリーンで、何のトラブルもなかったことを考えれば、それなりにいい関係であったといえるかもしれない。
ただ、それ以上の関係になることは当たり前のようになく、更に卒業後も特に会うこともなかったし、祐太朗も一瞬誰かわからなくなるほどに久しぶりだった。
「懐かしいな......」感慨深そうに祐太朗はいう。「元気だったか?」
「うん、まあね」サチコは誇ったようにいう。「祐太朗氏は? 相変わらずパチスロ三昧なんでしょ?」
「お前、それをいうなって......」
タジタジな祐太朗に、バカ笑いするサチコ。一時に比べたらマシになったとはいえ、現在もギャンブル中毒の祐太朗は、大学時代から授業もまともに出ず、パチンカスとあだ名されるほどにパーラーに入り浸りで、サークル内でもネタにされていたのだ。
「だって、祐太朗氏さ、ライヴ前後の暇な時間はいつも近くのスロット行ってたじゃん」
これは残念ながらマジである。ただ、一応は準備とバラシを手伝った上でなので、問題はない。ただ、学科も違えばキャンパスも違った人間にまで、広まっているくらい、当時から祐太朗のギャンブル癖は酷かった。
「......そんなことより」祐太朗は不都合な話題をすり替えるようにいう。「お前、今、ここら辺に住んでんの? 実家は確か......」
「栃木のほうだよ」
「そうか。就職でこっちに残ったんだっけ」
「一応、東京には、ね。でも、ここら辺は初めて来た」
「初めて?」
「うん」
「へぇ、また何で? 仕事?」
祐太朗の疑問も可笑しくはない。確かに江田市は栄えているとはいえ、これといって有名なスポットはない。確かに話題の飲食店はあるにはあるが、サチコはそういったモノに興味のあるタイプではない。
サチコは首を横に振った。
「仕事なら辞めたよ」
祐太朗は軽く相槌を打ち、それから黙り込んでしまった。仕事を辞めたーーそれは結婚と出産キッカケか、或いは普通に転職、はたまた余りよろしくない理由からか、様々な事情があるのは目に見えているからだ。
サチコは、多少は太っているとはいえ、まず出産という感じではない。となると、転職かよろしくない事情だが、話している様子からするとよろしくない事情もあまりなさそうだ。となると、やはりーー
「仕事、何かイヤになっちゃってさ」
祐太朗が話を切り出すより先に、サチコはいった。その表情には何かを吹っ切ったような疲れと安堵が入り交じった様子が含まれていた。
「祐太朗氏さ、今暇?」
突然の質問に祐太朗は呆然とした。
【続く】
同期とはいっても深い仲というワケではなく、大学のバンドサークルで一緒で、会えば談笑できる程度の関係だった。
とはいえ、サークル内の人間関係自体、結構ドロドロしていたことを考えると、祐太朗とサチコはクリーンで、何のトラブルもなかったことを考えれば、それなりにいい関係であったといえるかもしれない。
ただ、それ以上の関係になることは当たり前のようになく、更に卒業後も特に会うこともなかったし、祐太朗も一瞬誰かわからなくなるほどに久しぶりだった。
「懐かしいな......」感慨深そうに祐太朗はいう。「元気だったか?」
「うん、まあね」サチコは誇ったようにいう。「祐太朗氏は? 相変わらずパチスロ三昧なんでしょ?」
「お前、それをいうなって......」
タジタジな祐太朗に、バカ笑いするサチコ。一時に比べたらマシになったとはいえ、現在もギャンブル中毒の祐太朗は、大学時代から授業もまともに出ず、パチンカスとあだ名されるほどにパーラーに入り浸りで、サークル内でもネタにされていたのだ。
「だって、祐太朗氏さ、ライヴ前後の暇な時間はいつも近くのスロット行ってたじゃん」
これは残念ながらマジである。ただ、一応は準備とバラシを手伝った上でなので、問題はない。ただ、学科も違えばキャンパスも違った人間にまで、広まっているくらい、当時から祐太朗のギャンブル癖は酷かった。
「......そんなことより」祐太朗は不都合な話題をすり替えるようにいう。「お前、今、ここら辺に住んでんの? 実家は確か......」
「栃木のほうだよ」
「そうか。就職でこっちに残ったんだっけ」
「一応、東京には、ね。でも、ここら辺は初めて来た」
「初めて?」
「うん」
「へぇ、また何で? 仕事?」
祐太朗の疑問も可笑しくはない。確かに江田市は栄えているとはいえ、これといって有名なスポットはない。確かに話題の飲食店はあるにはあるが、サチコはそういったモノに興味のあるタイプではない。
サチコは首を横に振った。
「仕事なら辞めたよ」
祐太朗は軽く相槌を打ち、それから黙り込んでしまった。仕事を辞めたーーそれは結婚と出産キッカケか、或いは普通に転職、はたまた余りよろしくない理由からか、様々な事情があるのは目に見えているからだ。
サチコは、多少は太っているとはいえ、まず出産という感じではない。となると、転職かよろしくない事情だが、話している様子からするとよろしくない事情もあまりなさそうだ。となると、やはりーー
「仕事、何かイヤになっちゃってさ」
祐太朗が話を切り出すより先に、サチコはいった。その表情には何かを吹っ切ったような疲れと安堵が入り交じった様子が含まれていた。
「祐太朗氏さ、今暇?」
突然の質問に祐太朗は呆然とした。
【続く】