【帝王霊~睦拾睦~】

文字数 1,093文字

 幽霊ビル、件のビルはそう呼ばれていた。

 何とも子供じみたネーミングではあったが、そう呼んでいたのは大人たちであった。件のビルがそう呼ばれるようになったのにはちゃんとした理由がある。

 それはビル全体にて可笑しな幽霊目撃談が多発したことが原因だった。

 もちろん、このビル内部で死者が出たことはない。大昔に遡れば、そこの土地で誰かが死んでいたかもしれないというのはあるにはあっただろうが、少なくともそのことがビル全体に何かをもたらしたであろうことは皆無だったのはいうまでもないだろう。

 ビル自体に幽霊が出るようになり、そのように呼ばれるようになったのは成松が死亡して少し経ってからだった。

 とはいえ、成松が死んだのは自宅マンションの一室であり、オフィスは何ひとつとして関係はなかった。だが、成松の死を機にビル内で可笑しなことが起きるようになった。

 後任の取締役の怪死事件なんかもその出来事のひとつなのかもしれない。

 就任直後こそやる気に満ちていた後任の取締役ではあったが、以降、とてつもない勢いで精神的に疲弊していった。表情は疲れきり、いつも何かに怯えているように辺りをキョロキョロするようになっていた。就任前のエネルギッシュさはもはやそこにはなかった。あるのは、ヘビに追い詰められたカエルのような弱々しさだけだった。

 人の死は様々な感情をもたらす。

 当然、その人が死んで悲しいという感情もあれば、ざまあみろといったあまり穏やかではない感情もある。中には大して関心がないなんてこともある。だが、成松の死は少なからず社員たちにとって少なからず関心はあったはずだった。

 では、後任の取締役はそのことでノイローゼになってしまったというのか、とみんな疑っていたが、後任の取締役はある日同僚や部下たちに身体を震わしながらこう告白した。

「成松に、殺される......」

 これには周りも驚いた。成松に殺されるとはどういうことか。もはやこの世にいない人間がどうやって人を殺すことが出来るだろうか。だが、意外にもそのことばに驚きを示さない社員がいた。

 というのは、オフィスやビル内部にて成松の姿を目撃した社員が何人かいたのだ。

 その目撃談は基本的に廊下を歩いていただとか、オフィスに入って行くところを見ただとか、ボーッと立ったままこちらを見ていただとか、おおよそ勘違いのようなモノではあった。

 だが、後任の取締役はそれ以上に成松の声を聴いていたという。それは苦痛による呻き声、呪いと殺害を匂わせる脅し文句だったという。後任の取締役は殆ど使いモノにならなくなっていた。

 そして、事件は起きたのだった。

 【続く】

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み