【ナナフシギ~伍拾漆~】
文字数 1,083文字
満月の夜は不吉なことが起きるといわれている。
これはある種の迷信のようなモノではあるが、満月の出る時期はちょうど月の始めだったり、終わりだったりで地味に人の気が引き締まったり、フラストレーションの溜まる時期であることが殆どだ。
そして、そのフラストレーションを晴らしたいがために、凶行、奇行に走ることも少なくはないという、いってしまえばそういうことである。
本来、この日は満月の日ではなかった。にも関わらず空に浮かんでいるのは真ん丸とした満月で、それは凶行や奇行を象徴する不気味な月のようにしか見えなかった。
祐太郎とエミリは一階の昇降口まで降りて来ていた。本来は土足厳禁の学校の校舎に見慣れない靴あとが残っていた。サイズからすれば間違いなく大人のモノだろう。
侵入者がいる。
この日、学校に残っていたのは石川先生だけのはずだ。石川先生の靴のサイズは知らないが、身長は周りの教員と比べてもそこまで大きくはないこともあって、まずその靴のサイズはそこそこ身長のある男性のモノだろうと思われた。
「ねぇ、これ......」エミリはいった。「誰か、こんな大きな足の人、いたっけ......?」
石川先生と祐太朗たち、そして先に侵入した森永たちを含めて一番背が高いのは身長が167ある鮫島である。だが、鮫島は生徒という身であるだけに、後に学校に侵入したことがバレては決まりが悪いのはわかりきっていたはずだった。ということは、この足跡は外から来た誰かということになる。
祐太朗は昇降口の扉に手を掛けた。開かない。カギはかかっていなかった。ノブをしっかり捻り、押しても引いても開きはしなかった。それはそこにある扉すべてがそうだった。開かないーー祐太朗は舌打ちしてドアを思い切り叩き、蹴り飛ばした。
「開かないね......」
祐太朗は荒く息を吐いていた。あの音楽室で突然流れたテレビの映像。そこには詩織と和雅が映っていた。そして、更には黒い影の姿......。詩織と和雅がいるはずがない。だが、祐太朗が何処にいるかは知っているし、夜とはいえ、自ら学校に赴くことだってない話ではない。あの黒い影が霊であれば、詩織と和雅にも見えるはず。だとしたらーー
祐太朗はより強くドアを蹴り飛ばした。蹴り飛ばした。何度も。エミリがやめてと声を掛けても止めようとはしなかった。
漸く蹴るのを止めたのは、祐太朗があからさまな疲れを見せてからだった。ドアは明らかにびくともしておらず、キズがついた様子もまったくなかった。
「何をしているんです?」
ふたりは声のしたほうを見た。
岩淵の姿があった。
【続く】
これはある種の迷信のようなモノではあるが、満月の出る時期はちょうど月の始めだったり、終わりだったりで地味に人の気が引き締まったり、フラストレーションの溜まる時期であることが殆どだ。
そして、そのフラストレーションを晴らしたいがために、凶行、奇行に走ることも少なくはないという、いってしまえばそういうことである。
本来、この日は満月の日ではなかった。にも関わらず空に浮かんでいるのは真ん丸とした満月で、それは凶行や奇行を象徴する不気味な月のようにしか見えなかった。
祐太郎とエミリは一階の昇降口まで降りて来ていた。本来は土足厳禁の学校の校舎に見慣れない靴あとが残っていた。サイズからすれば間違いなく大人のモノだろう。
侵入者がいる。
この日、学校に残っていたのは石川先生だけのはずだ。石川先生の靴のサイズは知らないが、身長は周りの教員と比べてもそこまで大きくはないこともあって、まずその靴のサイズはそこそこ身長のある男性のモノだろうと思われた。
「ねぇ、これ......」エミリはいった。「誰か、こんな大きな足の人、いたっけ......?」
石川先生と祐太朗たち、そして先に侵入した森永たちを含めて一番背が高いのは身長が167ある鮫島である。だが、鮫島は生徒という身であるだけに、後に学校に侵入したことがバレては決まりが悪いのはわかりきっていたはずだった。ということは、この足跡は外から来た誰かということになる。
祐太朗は昇降口の扉に手を掛けた。開かない。カギはかかっていなかった。ノブをしっかり捻り、押しても引いても開きはしなかった。それはそこにある扉すべてがそうだった。開かないーー祐太朗は舌打ちしてドアを思い切り叩き、蹴り飛ばした。
「開かないね......」
祐太朗は荒く息を吐いていた。あの音楽室で突然流れたテレビの映像。そこには詩織と和雅が映っていた。そして、更には黒い影の姿......。詩織と和雅がいるはずがない。だが、祐太朗が何処にいるかは知っているし、夜とはいえ、自ら学校に赴くことだってない話ではない。あの黒い影が霊であれば、詩織と和雅にも見えるはず。だとしたらーー
祐太朗はより強くドアを蹴り飛ばした。蹴り飛ばした。何度も。エミリがやめてと声を掛けても止めようとはしなかった。
漸く蹴るのを止めたのは、祐太朗があからさまな疲れを見せてからだった。ドアは明らかにびくともしておらず、キズがついた様子もまったくなかった。
「何をしているんです?」
ふたりは声のしたほうを見た。
岩淵の姿があった。
【続く】