【冷たい墓石で鬼は泣く~参拾壱~】

文字数 1,210文字

 尚も師範は理解できないようだった。

 だが、わたしは種明かしをするつもりは毛頭なかった。そこで、わたしはその日から師範と共に暮らし、また『わたし』の目撃情報が入ったら、共にその場へと向かうということにした。

 その情報が入るのに、時間は掛からなかった。生活を共にし始めて二日目のことだった。夜の街通りにヤクザと歩を共にしている『わたし』の姿があったという。

 それを伝えに来たのは道場生の少年だった。だが、師範のとなりにわたしがいると見て、信じられないといった表情を浮かべた。それもそうだろう。走って師範の家まで来たのに、ヤクザと歩を共にしていたはずの男がこうやって師範のとなりにいるのだから。

 少年がことばを失うと同時に、師範もことばを失っていた。それもそのはず、わたしはその辺りの時間はずっと師範と行動を共にしていたのだから、抜け出してヤクザと会っている時間などまったくなかったのだ。

「しかし、どういうことだ......」

 師範は思わず疑問を口にしてしまったといった様子だった。わたしはその疑問に答えんといわんばかりにーー

「その答えを見に行きましょう」わたしは少年に、「ありがとうございます。案内して頂けないだろうか?」

 少年は呆然としつつも、わたしの受け答えに答えた。やはり、今そこにある光景が信じられないのだろう。だが、わたしにはその答えがわかっていた。だからこそーー

 わたしは師範と少年と共に走った。その場所は道場からさほど離れた場所ではなく、走ってほんのちょっとで着いた。

 見張りをしていたもうひとりの道場生の少年に、少年が声を掛けた。見張りの少年はこちらに振り返り報告をしようとすると、ことばを止めたーーわたしに目線を止めて。それから振り返り、ヤクザたちのほうへと目線をやると再びわたしのほうへと目をやった。

「どういうことですか、これは......」

 これは師範も報告にきた少年も似たような反応をしていた。やはり人間信じられない光景を見ると弱い。

「そんなことはどうでもいい。それより、様子はどうだ?」わたしはいった。

 少年はハッとして話し始めた。これといって問題を起こしているワケではないが、その存在に店の人間があからさまに迷惑している、とのことだった。そして、それが『わたし』がヤクザに出入りするようになってから顕著になったということだった。恐らく、強力な用心棒を得て怖いモノ知らずになったのだろう。だが、そんなのはまやかしだ。

 ちょうどその時、組の人間がとある女郎屋に入って行くのを見た。『わたし』は二、三声を掛けられていたが、断り外へ残った。ひとりで。わたしは物陰から出て『わたし』に向かって歩き出した。

 他の者の止める声があったが、関係なかった。わたしにはもはや『わたし』しか見えていなかった。わたしは『わたし』のそばまで来て声を掛けた。

「久しぶりだな」

 馬乃助はニヤリと笑ってこっちを見た。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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