【ソフトウェアにEMP】

文字数 3,120文字

 大事なモノが壊れた時の悲しさといったらない。

 これが誰かに故意に壊されたというのなら壊したヤツのことを罵るなり、ぶっ飛ばすなりすればいいのだけど、不慮の事故によって壊れてしまったり、誰かの過失によって破壊されてしまったりした場合は何ともいえない。

 かくいうおれも注意力が異常なまでに散漫なこともあって間違ってモノを壊してしまうことはしょっちゅうだったりする。

 そういう場合はおれも怒りの方向を見失い、取り敢えず「重力は○ね!」というしかなくなってしまう。

 まぁ、過失でテーブルや棚といった多少の高さを持つ場所からモノが落ちて壊れた場合は、シンプルに重力のせいと見てーー大人げないな、止めよう。

 ただ、ひとついえるのは、重力は○ね!

 とまぁ、取り乱してしまったけど、モノが壊れるというのはそれくらいやるせない。

 さて、今日はそんなモノが壊れたという話だ。昨日のエピソードがやたらと長くなってしまったんで、今日は短めにいく。

 あれは大学三年の時のことだった。

 その日はウィークデーで、おれは二限の授業を終えて颯太とサークル棟に向かっていた。

 颯太のことは覚えているだろうか。颯太は同じサークルで同じ学科だったヤツで、そんな事情もあって非常に仲が良かった。彼とは一緒にバンドもやっており、寡黙な印象はあったがギターとベースの腕前はかなりのモノだった。

 そんな颯太と授業後の昼休みにサークル室にて昼食を取ろうということになったのだ。

 サークル室に入ると生協で買った弁当を電子レンジに入れて温め始めた。颯太は温めずとも食えるおにぎりやサラダを買っていたので、そのまま昼食を口に運び始めていた。

 弁当を温め終えるまで、おれは食事を取る颯太と昼休み後のスケジュールについて適当に話していた。がーー

 唐突に変なニオイがしたのだ。

 何と形容すればいいのか難しいが、敢えていうならプラスチックが溶けるようなニオイだったと思う。これには流石に颯太に、

「何か、変なニオイしないか?」

 と訊ねたのだけど、颯太はそんなこと意に介さずといわんばかりに、

「うーん、わからないや」

 といってサラダを口に運んでいた。

 そんなことをいっていると弁当も温め終わり、おれはレンジからホカホカに温まった弁当を取り出したのだ。がーー

 弁当の下にCDケースが置かれていたのだ。

 いやいや、何で電子レンジの中にCDが、と思われるかもしれないけど、うちのサークルではバンドのコピーで使う音源を電子レンジに入れるというワケのわからない風習があったのだ。つまりーー

 おれは弁当と一緒に誰かのCDまで温めてしまったのだ。

「やっちゃったかもしれない……」

 そういうと、颯太はサラダを口に運びながら、

「やっちゃったねぇ」

 と笑っていた。他人事だと思ってぇ!

 だが、もしかしたら……と思いCDケースを手に取った。ケースはやはり温かかった。当たり前か。一に一を足すと二になるように、モノを温めれば温かくなるのは当たり前だ。おれは恐る恐るケースを開いた。するとーー

 ぐにゃぐにゃに溶けたCDが鎮座してた。

 やってしまった……。

 井戸の水が汲み上げられるように絶望感と後悔が込み上がってくる。が、しかし、この時のおれは精神的に幼かった。おれはーー

 そのままCDをレンジに入れて扉をそっと閉じたのだった。

 ま、まぁ……このまま放置しておけばバレることはないだろう。そう思いおれはレンジの中にCDを放置したまま弁当を食い始めたのだ。

 CDの上で温めた牛丼弁当は、溶けたゴムのような味がした気がした。

 それら数日後、携帯に一通のメールが届いた。送信者はひとつ下の後輩である『丹下』だった。

 丹下は夜間部に通う学部の後輩であり、サークルの後輩だった。おれとも一緒にバンドをやっており、仲のよい後輩のひとりでもあった。

 何だろうと思い丹下からのメールを開いたのだがーー

「ゴジョーさん、CD入れたままレンジ使いましたよね……。あのCD、おれのだったんです。大事にしてたんです……。弁償して貰えませんか?」

 何ともこころが痛くなる文面だった。誰のモノかわからなかったとはいえ、黙って責任逃れをするのはよろしくない。それをしてしまえばろくな大人になれないだろう。おれは黙って通販サイトで溶かしたCDをポチッたのだった。

 しかし、どうしておれが溶かしたとわかったのだろう。

 丹下にそれを訊くのは気が引けたので何もいわなかったが、だとしたらあの時一緒にいた颯太が誰かにいったのが回り回って本人に伝わったと考えるのが自然だろう。

 そこでその翌日になって颯太にそのことを訊ねてみたのだが、颯太はーー

「おれは何もいってないよ」

 とのことだった。だとしたら誰が。が、答えはすぐにわかった。

 その日のカリキュラムがすべて終わるとおれは颯太と別れてサークル室に行き柳さんと一緒にゲームをやっていたのだ。

 するとそこに目黒さんがやって来た。

 目黒さんはおれを見つけるなり、

「おぉ、ゴジョー! お前、丹下のCD溶かしてんじゃねえよー!」

 といってきたのだ。目黒さんに詳しく話を訊いてみると、あの日、向かいのサークル室にいた別のバンドサークルの人間がCDを溶かした現場を見ており、一緒にバンドをやっていた目黒さんにそのことを報告したというのだ。

「おれ、丹下と一緒にあのバンドのコピーやる予定でレンジに音源入れといてくれって頼んでたんだよ。あーあ、やっちゃったな」

 と目黒さんは続けたのだけど、レンジにCD入れとけっていったアンタもどうかと思うぞ、と思ったけどそれは流石に口には出せなかった。すると話を聴いていた柳さんがーー

「あー、ゴジョー、やっちまったな。でもよ、目黒、レンジに音源入れとけってのも可笑しくないか? おれ、嫌いなんだよ。いずれこうなると思ってたけどさ。ゴジョーを責められる立場じゃねぇと思うぞ」

 これには目黒さんもドギマギしながら、

「あ、いや、でも、悪いのはゴジョー、ですし……」

 と反論すると柳さんは、

「だからよぉ、元はといえばレンジにCD入れるって風習が可笑しいんだろ? みんながやってるからってそれが常識だってのは間違ってるぞ。これからはレンジにCD入れるの禁止な」

 目黒さんは尚も何かいいたそうにしていたが、柳さんが「何かいいたいことあんのか?」と追及すると、意気消沈してその場を去っていきました。

「目黒もよぉ、間違ってんだよな。まぁ、ゴジョーもよ、早い内に丹下にCD弁償して、さっさとこの問題を終わらしちまえよ」

 柳さんにそういって貰えたのはありがたいと思いつつも申し訳なく思った。おれが既に代わりのCDは通販で購入済みだと伝えるとーー

「そうか。なら現物が届いたらさっさと渡しちまいな。それよりメシ食い行くぞーー」

 そういって柳さんはおれをメシに連れ唐揚げ定食をご馳走してくれたのでした。ボリューミーな唐揚げは肉汁まみれで旨かった。

 それからというもの、柳さんが提案した通りレンジに音源を入れるのは禁止となり、おれもCDが届くなり丹下に渡したのでした。

 その後、丹下とはその後特にわだかまりもなかったんで本当によかった。ちなみに目黒さんはその後、サークル室にてゲームでおれにボコボコにされて、

「ゲームが上手いからって偉くなんかないんだからな!」

 と捨てセリフをいったところ柳さんに、

「目黒。お前、クソださいぞ」

 といわれてました。必死にいいワケしようとしてたけど、ある意味学習しない人だ。いずれにしろ、ひとついえるのはーー

 電子レンジにCDを入れてはいけない。

 ……普通は入れないか。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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