【藪医者放浪記~百睦~】

文字数 599文字

 ボンヤリと浮かび上がった屋敷のひと部屋は亡霊のようだった。

 川越の街に居を構える旗本、松平天馬の屋敷の隠し部屋のような小部屋に源之助はいた。辺りを見回すも、そこには外へと通ずるところはなし。完全に密閉されていて出入口も小さな引き戸がひとつのみ。部屋の四隅にはロウソクによる微かな灯り。座布団に掛けてはいるが、座り方は立膝で、刀も差したままでいつでも抜けるようにしている。

「突然、すまなかったね」源之助の対面に座る松平天馬がいった。「別にそんな緊張することはないよ。控えの者はいないし、ここを知っているのは屋敷の中でも二、三人いるかどうかといったところだ」

「そんな話を誰が信じると?」

 源之助は緊張の糸を切らすことなくいった。力は抜けているが、松平天馬のことは一切信用していないとひと目見てわかる。松平天馬は源之助の容姿を見ていった。

「......目に力がないな」

「目に力を宿らせるなんて、あんなのは何かを凝視する時か考えごとをする時だけで充分だ」

「......ほう、それは何故?」

「何故と訊かれて答えるのは手の内をさらけ出すことにならないか?」

「......なるほど、それは正しい。ただ、単純に答えられるような理が主にないということもあり得るだろう?」

 源之助はうっすらと笑って見せた。

「なら、軽く教えてやる。人間、集中している場所に力が集まるモンだ。これ以上はーー」

 源之助は倒れた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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