【帝王霊~百弐拾壱~】

文字数 588文字

 淀んだ夜の川岸で名前を呼ぶ声がする。

 うっすらと光を反射させて輝く夜の川もはどんな宝石よりも美しく、川を渡るために用意された木の船は年季が入っていて簡単に底に穴が空いてしまいそうだった。

 振り返った。だが、そこに誰もいなかった。右を見ても左を見ても、やはり誰もいなかった。こんな場所に誰かいるはずがない。幻聴。ひとりでこんなところにいて寂しさでも感じたのだろうか。それともまだ死にたくないという思いが、よりによって名前を呼ぶという形でフィードバックされたのだろうか。

 だが、名前を呼ぶ声は次第に大きくなっていった。よく聴くと、声は何処かからというより、空間全体から響いているようだった。そして、その声は洪水のように蔓延していき、リバーヴが掛かったように反響していったかと思えば、耳に溢れ返っていった。

 突如、顔面に痛みが走った。世界が歪んだ。世界が崩壊していくよう。また痛みが走った。空から強烈な光が一瞬差した。

「祐太朗!」

 その声と共に更に二度、顔面に衝撃が走った。今度は更に強く。祐太朗は静かに目を覚ました。顔を歪め、不愉快そうな表情を浮かべながら。祐太朗の目には弓永の顔。

「......何だよ」

「何だよじゃないだろ。お前を追って屋上まで来てみれば、成松はいないし、お前は倒れてるしでワケがわからない」

 祐太朗はハッとした。

「成松は?」

「落ちたよ、ここからな」

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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