【藪医者放浪記~百漆~】

文字数 756文字

 蔵の中では肌が弾ける音がこだましていた。

 蔵柔術ーー腕自慢のならず者たちが銭を賭け合って身体ひとつで勝負するモノ。もちろん奉行所や役人連中には気づかれないよう密かに開かれているのはいうまでもないのだが、中には素行不良の役人が自らの腕を試すために参加していたりする。

 柔術というのは名ばかりで、蔵の中では木刀を使った剣術の決闘も行われ、それ以外の武器を使っても良いとされていた。

 源之助は土佐へと旅立つ前から蔵柔術の存在を知っていたが、自ら参加して腕を試し始めるようになったのは、仇討ちをして川越に戻って来てからだった。そして、今もーー

 蔵柔術は様々な流派の柔術がぶつかり合う異種流派戦で、最強の流派を争うという意味での楽しみ方もひとつ、技術交流という意味合いでの楽しみ方もひとつとして認められていた。その中で源之助は唯一、柔術を使わない存在として知られていた。

 源之助は土佐にて出会った『寅』と呼ばれる者から習った琉球王国の武術『手』の使い手だった。その技術は他の柔術使いにはないモノなのはいうまでもなく、周りからは好奇の目で見られがちだった。

 だが、源之助はそんなことはどうでもよかった。ただ、そこで決闘すること、打たれ傷つくこと、その果てに勝つこと、或いは敗北すること、それこそが源之助にとっては生きている証明になっていた。

 五人抜き。源之助は琉球武術を駆使してまたひとり倒した。全身は汗まみれ泥まみれ。勝っても勝っても満たされない。何故なら、松平天馬にいわれたことがずっと頭に引っ掛かっていたから。

 突然のこと、松平天馬のかまいたちのような早さによる動きで倒された源之助の耳に微かに残っていたことばーー

「悪党どもを殺してこの世のために仕事してみないか?」

 源之助は舌打ちして蔵の土を蹴り上げた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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