【不動明王、怒りの鉄拳】

文字数 2,305文字

 誰だって怒られるのはイヤだろう。

 まぁ、中には相手を怒らせて楽しむヤツもいるにはいるけど、そういう意図がないままに人に怒られるのは、誰だってイヤなはずだ。

 かくいうおれも、人を怒らせることはしたくないし、人を怒らせたいとも思わない。とはいえ、感情の箍は外したいときに外すようにしている。

 というのも、過去、何もいわずに我慢した結果、精神的に疲弊して酷い目に遭ったことがあるからだ。だからこそ、こちらに非がない場合と、ブチギレている誰かを沈めるためにひとりでにブチギレることはよくある。

 ブチギレている誰かを沈めるためにひとりでにブチギレるってどういうことって話なんだけど。人は自分以上に感情が荒ぶっている人を見ると、案外冷静になってしまうのだ。プラス、それが自分にベクトルが向いていない怒りだと、怒りの上乗せもできないので、結局は昂った感情も鎮まってしまうというワケだ。

 これをやると、まぁ、大抵の人は冷静になり、後の処理も楽にはなるのだけど、苛立った「芝居」をするのも、あまりいい気はしない。何より、周りの空気も悪くなるしな。

 とはいえ、エンターテイナーでもないのに、自分がイヤな思いをしてまで周りを楽しませる必要はなく、そういう場合の怒りと空気の悪化は必要なのではとは思うけど、ね。

 まぁ、とりあえず、然るべき理由で怒られた場合はちゃんと反省したほうがいいと思う。

 あれは中学一年の秋のことだった。

 ちょうどそのシーズンは、体育で柔道をやっていたのだけど、当時のうちのクラスは前の授業が長引いたこともあって、結構な数の生徒が授業に遅れてしまったのだ。

 自分もそのひとりで、何とか早く体操着に着替えて柔道場に行こうとしたのだけど、まぁ、間に合わなかったのだ。

 以前も話したかもしれないが、うちの中学の体育は基本的にふたクラス合同で行うのだが、それもあって片方のクラスの集合が遅れれば、その分、もう片方のクラスに迷惑が掛かってしまう。まぁ、柔道の授業をやりたくないヤツにとってはありがたいんだろうけど。

 んなこともあって、おれが柔道場についた時には、既に別のクラスのヤツラは正座で待っており、体育教師の前田先生も腕を組みながら不動明王のように仁王立ちして待っていたのだ。

 そして、前田先生はおれが入ってくるなり、

「遅れた人はそこに座りなさい」

 と柔道場の一スペースを指差したのだ。そこには、同じクラスの遅刻してきたやつらが、まるで自分の番号が掲示板に載っていなかった受験生のように頭を垂らして正座していた。

 これはマズイ。

 おれはすぐに予感した。これはヤバイ展開になる、と。

 ちなみに、つよしくんの件でイキリ散らしていた体育教師のチンピラは、前田先生の後釜で、おれが二年生になってから入ってきたので、この時はいない。あんなキンピラの話はどうでもいいか。

 さて、その前田先生なのだけど、確かソフトボール部の顧問で、一見すると物腰柔らかいようにも見えるが、どこか掴み所のないような人だった。男性の体育教師としては比較的身長も低く、どちらかといえば、役所の奥であれこれ指示しているような風貌をしていた。

 まぁ、そんな感じで遅れてきたヤツラが一堂に会したところで、前田先生は、

「さて、一人ひとり、どうして遅れたのか、ワケをいいなさい」

 といった。遅刻者はみな、一人ひとり、各々の理由を語っていくが、その理由は一様に「前の授業が長引いたから」だった。

 とはいえ、中にはちゃんと始業時間に間に合っている生徒もいるワケで。そんな中、授業が長引いたからとかいう理由で、はいわかりましたとはならず、前田先生は更なる理由を追及してきた。おれも誤魔化すことはできず、ノンビリしていたみたいなことをいったと思う。

 さて、遅刻者全員の理由を聞き終えると、前田先生は、ため息をつきーー

「よし、じゃあ怒るか……」

 そういって、

「テメェ! 何しとんじゃ! ゴラァ!」

 ひとりの男子の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせると、そのまま払い腰で投げ飛ばしたのだ。

 これにはおれもビクッとしてしまった。これから自分もこうやって投げられると考えたら、ビクッとするなといわれても無理な話だった。

 前田先生は、その投げ飛ばした生徒の胸ぐらを再度掴んで立ち上がらせると往復ビンタを食らわせ、更にいうのだ。

「テメェ、人が真面目に話してるときに欠伸するとか、ケンカ売ってんのか、オイッ!」

 そりゃ怒るわい。

 その欠伸をしたヤツというのは、野本というデブで、前回の話で、よくおれの肩を殴ってくるデブの話をしたのだけど、それが野本だ。

 野本のデブレベルといったら相当なもので、横にデカすぎて身長が大きいヤツでも野本の横だと小さく見えるくらいデブだった。ちなみに身長は一六五くらいだったと思う。

 おまけに、太りすぎでジャージの股間部分が擦り切れてしまうというハードネスデブで、学校生活に関していえば、不真面目であり、成績もヤバく、野本が前田先生に怒られるのもある意味では必然みたいな感じではあった。

 結局、野本だけが前田先生にボコボコにされて、その日の授業は始まったのだけど、その日は前田先生の逆鱗に触れないよう、随分と気をつけなければならない破目になったのはいうまでもない。まぁ、遅れた自分が悪いんだけど。

 できれば人を怒らせず、自分も怒らずに生きていきたいものだーー理想論だけどね。

 アスタラビスタ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み