【藪医者放浪記~捌拾伍~】
文字数 578文字
あからさまに怪しい者というのは、いつだって何かが過剰になる。
それはちょっとした動きがわざとらしかったり、何かをいうにしても無駄にことばを紡いで説明過剰になっていたりと兎に角不自然なことが多くなるということだ。
この時の猿田源之助と牛野寅三郎もそうだった。猿田はいつものらりくらりとしているにも関わらず、今はやけに視線が右に左に飛んでいる。寅三郎も何かにうしろめたさを感じているのか知らないが、やたらと視線を落としてお雉と目が合わないようにしていた。
「......まぁ、いいや」お雉はいった。「そんなことより、早く天馬様を落ち着かせてあげてよ。ね?」
そういってお雉は牛野の肩に手を置いて、お願いしますといい残してその場を去って行った。遠くなるお雉の姿に猿田と寅三郎はホッと溜め息をついた。
「いやぁ、危なかったですね」と猿田。
「源之助殿、わたしはもうこんなことするのイヤですよ」
「おれだってこれが終わったら二度としたくないですね。それより、アレはありますか?」
「あぁ、それならーー」寅三郎はハッとした。「......え?」
「どうされたんです?」
寅三郎は苦虫を噛み潰したような表情のまま止まっていたが、何かに観念したように、両手を前に出した。何もない。
「あれ、アレは何処へ?」
寅三郎は申しワケなさそうにいった。
「いつの間にかなくなってまして」
【続く】
それはちょっとした動きがわざとらしかったり、何かをいうにしても無駄にことばを紡いで説明過剰になっていたりと兎に角不自然なことが多くなるということだ。
この時の猿田源之助と牛野寅三郎もそうだった。猿田はいつものらりくらりとしているにも関わらず、今はやけに視線が右に左に飛んでいる。寅三郎も何かにうしろめたさを感じているのか知らないが、やたらと視線を落としてお雉と目が合わないようにしていた。
「......まぁ、いいや」お雉はいった。「そんなことより、早く天馬様を落ち着かせてあげてよ。ね?」
そういってお雉は牛野の肩に手を置いて、お願いしますといい残してその場を去って行った。遠くなるお雉の姿に猿田と寅三郎はホッと溜め息をついた。
「いやぁ、危なかったですね」と猿田。
「源之助殿、わたしはもうこんなことするのイヤですよ」
「おれだってこれが終わったら二度としたくないですね。それより、アレはありますか?」
「あぁ、それならーー」寅三郎はハッとした。「......え?」
「どうされたんです?」
寅三郎は苦虫を噛み潰したような表情のまま止まっていたが、何かに観念したように、両手を前に出した。何もない。
「あれ、アレは何処へ?」
寅三郎は申しワケなさそうにいった。
「いつの間にかなくなってまして」
【続く】