【アンダンテでゆく】

文字数 2,386文字

 焦燥感は人をダメにする。

 焦れば焦るほど注意力も散漫になるし、パフォーマンス能力も落ちるからだ。

 まぁ、今いる場所が綱の上、みたいな状況で平常心を保っていられるヤツはただの化け物だけど、とはいえ、それくらいに安定したマインドが欲しいとは誰もが思っているはずだ。

 とまぁ、昨日は『五条氏の初舞台篇』を飛ばしてしまったので、今日はさっさと書く。あらすじも速攻で終わらせる。

 あらすじーー「五条氏はあおいと食事をすることになり、駅まで走ったのだ」

 これでオッケー。さて、本編いくーー

 あおいと合流した後、おれは駅前の適当な飲食店にあおいを誘った。あおいは嬉しそうに誘いに乗ってくれた。

 店に入り仕切りのあるテーブル席につくと、適当に飲み物を注文した。この日はロードバイクだったが、躊躇なくビールを注文した五条氏ーーまぁ、はじめから飲むつもりで、帰りは自転車を押して帰る予定だったからまったく問題ない。本音をいえば緊張がヤバかったのだ。

 あおいは無難にソフトドリンクを注文した。それから適当に食べ物を注文する。

 品物を摘まみ、ビールを飲みながら『ブラスト』のことを話していく。彼女が『ブラスト』に入った経緯、ここまでで起きた出来事、団内の裏情報といった話を彼女から聞いた。

 あおいが『ブラスト』に入った経緯ーー彼女は元々声優志望で、専門学校にも通っていたが、周りとのそりが合わず、学校を辞めてしまった。だが、辞めて少ししてまた芝居がやりたくなり、ネットで劇団を探したところ最終的に『ブラスト』に行き着いたというのだ。

 専門で周囲と馴染めなかったトラウマからか、最初は劇団員とまともに会話もできず、あおいは団内でも浮いた存在だったという。が、ヨシエさんのフォローを受けつつ、自分にできることを率先してやった結果、その努力を認めて貰えるようになったのだそう。

「そんなこともあってさ、色々あったんだ」

 彼女は笑っていう。色々あったーーいうのは簡単だが、その裏にはおれが知り得ないたくさんの苦労があるのは、わかっていた。きっと、その笑顔の仮面の裏には、たくさんの悲しみと苦しみが隠れているのだろう。だが、それを知っているのはあおいだけだった。おれは、

「大変だったな……」

 としかいえなかった。気まずい沈黙が流れる。沈んだ空気を変えようとあおいは、

「何かごめんね。こんな話しちゃって。さ、どんどん食べよ!」

 そういってメニュー表を手に取った。そこからは普通に食事をしていたのだけど、自分の中で何かが引っ掛かっていたのも事実だった。

 食事を終え店を出ると、おれとあおいは駅近くの公園へいった。駅近くとはいえ、土曜の夜ともなると人気もほぼ皆無だった。

 ベンチに並んで座るも、何もいえない、何も思いつかない、ことばが出てこない。できることは、ただ静かに座っていることだけだった。

「……本当は」

 あおいが口を開く。

「本当は、怖いんだ……。確かに、これまでは主役を張ったことはないから、やるとしたら楽しみではあるけど、逆に自分みたいな人が主役を張っていいのだろうかって……」

 あおいは、食事中は話さなかった専門学校での出来事や、中学、高校での話をし始めた。詳しくは話さないが、聞いていて思わず閉口してしまうような内容だった。

「そうだったのか……」

 おれは大きく息を着いた。

「おれも、色々あってなーー」おれは静かに話を始めた。「大学の時、パニック障害になってな」

 あおいは俯いたまま話を聞いていた。

 これは彼女を勇気づけるためのウソでも何でもなく、事実だった。大学の時、ちょうどあの大地震が起きた。その当時、おれはプライベートでいくつかの問題を抱えており、精神的にもボロボロだったのだ。

 で、地震が起き、すべてが崩壊した。

 最初に症状が出たのは映画館だった。地震後、何とか実家に帰ることができたおれは、ちょうど観たかった映画があったので観に行くと、額に脂汗が浮き、妙な焦燥感と恐怖心、過呼吸と吐き気が襲った。その時はトイレにいくことで何とかなったのだ。がーー

 二度目ーーこれが致命的だった。

 震災後、大学が始まるのに合わせて下宿先に戻るため電車に乗った時のことだ。再び映画館で起きた異常がおれを襲った。それ以降、あらゆる場でその症状が出るようになった。

 大学は何とか卒業できたが、症状は依然として出続けていた。困ったことに、人は他人の痛みには鈍感で、自分が経験しない限りは、その痛みを理解しない。おれもそうだった。

 まぁ、今では症状もでなくなりーーというか、ダメになった精神が、逆に強くなったのか、その時以上によく立ち振る舞うことができるようになったのだけどーーやったぜッ!!

 今の時代、精神疾患なんて当たり前にある話だし、なったからといって別に恥じることもない。急ぐ必要もない。時間を掛けて、できることをやっていけば何とかなるもんだ。

 おれが大丈夫だったのだ。精神疾患なんて誰でも乗り越えられるんよ。乗り越えたら、あとは問題ない。症状が酷い時の地獄と比べれば、これから起こる不遇や理不尽なんてカスみたいなもんだしな。

 とはいえ、いつまでも疾患に甘えて何もしないのはダメだけどな。休むべき時は休む。挑戦する時は挑戦する。人生はメリハリよな。

「……大変だったね」あおいはいう。

 おれは静かに頷いた。そして、互いの手を重ね、顔を近づけーー

 はい、終わりです。

 おれの恥ずかしい話はここまで。次回は台本決定のところからですーーいや、どうすっか。明日は『初舞台篇』お休みして、クソ下らない話でも書くか。ま、気分次第だな。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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